鳥篭の夢

第二章/22



「あれ?」

村に戻ってきたのは良いんだけど・・・違和感。
ヒトの気配が・・・もしかして誰もいない?

「変だな、静か過ぎる」
「うん。何があったんだろう?」

クレイとリュウの言葉。同時に嫌な予感がした。

さんっ!?」

ニーナの声が聞こえたけど、ただそのまま走る。本当に誰もいないの?
あの3人の顔が過ぎって不安になる。大丈夫なのかな?何でもないと良いんだけど。


──ガンッ

「ひゃっ!?」

・・・ゎっ、転ぶ!?思わず目を瞑ったけど、痛くない?目を開けたらサイアスの姿。
えっと、助けてくれたんだよね?何だかいっつもサイアスに助けて貰ってる気がする。

「ありがとう!サイアス」
「い・・いや・・・」

とにかく怪我しなくて良かった。で、それにしても・・

「一体何に躓いて・・・・」

言いかけて、言葉が止まった。アタシが躓いた物。それは──

「マスターっっ!!??」

それは、まるでガラクタみたいに転がっているマスターの姿。
何で?如何して?何が起こったの??分からない。如何してマスターがこんな姿に?

さん・・どうし・・・・」

アタシの声を聞いて駆けつけたんだと思うニーナの声も止まった。
さっきのアタシと同じ。だって本当にそれ位酷い有様だから。
お腹辺りから広がるように強い衝撃を加えられたみたいに見える。物理的にじゃなくて、魔力的なもの。

「酷い・・どうしてこんな、マスターさんっ!!」

分かんない。これは一体どんな状況?

『帝国軍が村に来たんだ』
「え?」

帝国軍が?ていうか、今の長老さんの声だよね?何だかくぐもった感じだけど。
何処にいるんだろ?姿は見えないのに凄く近く・・・そう、マスターから聞こえたような・・・。

「よいしょ・・・っ」
「わ、長老さんっ!?何でマスターの中に??」

頭が混乱する。さっきから落ち着けてないんだよね、多分。
マスターの事もあるから。それは分かる。分かってるんだけど、でもそれだけ。

「うん。さっきも言ったけど、帝国軍が来たんだ」
「帝国軍が・・」
「リュ・・リュウを、探しに来た・・・?」

サイアスの言葉。そうだ、帝国の人は多分リュウを探してるんだから。
如何して此処にいるのが分かったのかは知らないけど・・・。

「マスターさんはリュウさんや私を庇って・・・」
「それで、ぶっ壊されたのかい?
ヨロイらしく転がってろとは言ったけど、まさか本当にその通りになるとはねぇ」
「マスター・・・」

もしかして一緒に連れて行ってたらこうはならなかったのかな?
あの時、マスターに一緒に行こうって言えなかった。動けばそれだけ力が無くなっていくから。
でも本当は如何したら良かったのかな?アタシにはわかんない。

「マスター。ごめん・・・ありがとう」

リュウの苦しそうな顔と言葉。心からの。

「ふふ・・・」

笑い声。マスターの、弱々しい声。

「マスターの言う通り此処で待ってましたよ。お・・おかえりなさい、マスター」
「・・・馬鹿だね。無理な事するから力が消えかけてるよ」
「そんな・・・っ!何か・・・何か助ける方法は無いんですか!?」

縋り付く様なニーナの言葉。でもそれは多分、簡単な事。
だって動く元になってる竜の力を補充すれば良いんだから。だけど・・・

「あたしがもう一度中に入れば大丈夫だろうさ。けど、また封印されるのは嫌だって言ったろ?」

・・・やっぱり。ディースじゃないと多分マスターは動かないのに。

「でも、そしたらマスターはどうなっちゃうのかな?」

ぽつり。無意識に疑問が零れた。

「マスターさん・・・このまま、し・・死んで、しまうのですか?」

“死”────?
死んでしまう?マスターが死んじゃうの?消えちゃうの??

「変な事を言うね、ヒヨコ。それにウサギもだよ。
こいつは元々ただのヨロイで別に生きてた訳じゃない。そもそもヒトじゃないんだよ?
死ぬんじゃなくて消えるだけ、ただのヨロイに戻るだけさ」
「・・そんなのって!!」

ニーナが声を荒げる。本当に珍しい姿。
悲しそうに顔を歪めて、震える声で、涙を流して・・・マスターを想う姿。
優しいヒト。

「そんなの・・冷たいですっ!マ、マスターさんは、ずっとディースさんの為に頑張って・・・。
チェクの村の人やリュウさんをこんなになるまで守ってくれたのに・・・!!」
「ニーナ・・」

マスターに伏せる姿。お願い。ニーナ、泣かないで。ニーナが泣くとアタシも悲しくなる。
勿論、マスターがいなくなるのも悲しくて・・・如何して?分からない。分からないけど、涙が出そう。

「ディース。本当に戻ってはくれないんだよね?」
「・・・・ふんっ!」

ふいと顔を背けて・・ダメだよね。嫌だってあんなに言ってたもんね。
外に出られて凄く喜んでた。やっぱり無理強いは出来ない。だからこれ以上言えない。

「ふ、ふふ・・・でも、マスターの言うとおりですよ・・・ふふ。
よ、ヨロイなので・・物ですが・・・マスターの力を、ちょっぴり・・貰って・・・動いたり出来て、よかった、ようです」

マスターの言葉。これが最期になっちゃうのかな?

「ふふー・・・・ニ、ニーナ。
・・・・・・マスター、あ、ありがとう・・・。うふふ。うふふふー・・・」

ノイズの混じった声。


「・・・わ、笑う所・・・・これで・・・合ってます・・か、ね───」


マスターの目の光が、消えた。それは終わりの合図?わかんない。
だけどマスターが消えちゃったのは分かった。ディースの言ってた通り“ただのヨロイ”に戻っちゃった。

「マスター・・」
「マスターさん・・」

ニーナと声が重なって・・・だけどそれ以上言葉が出なくて。
本当はニーナを慰めたかったし、これからの事も考えなくちゃって分かってたんだよ。
不思議。戦争の無情さとかヒトが死んでいく事も理解しているのに。
“死”は誰にでも起こりうる事だって分かってるのに。

だけど、今は──。



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