鳥篭の夢

第二章/25



クレイが教えてもらった道筋をアースラに教えて、その通りに移動する。
アタシ達はやっぱり兵士に後手を掴まれたまま。うーん、ちょっと動きにくくて鬱陶しい。
なんて考えてたのも、着いたと同時に消えた。静かな廃墟。誰もいない位、静か。
やっぱり嫌な予感。ドクドク心臓が鳴って不安になる。奥へと進むにつれて微かに鉄の臭い。

「あら・・」

軍人?振り向いた顔と女口調。あれ?アイツ、何だか見た事ある気がする。
・・・あ、大帝橋でリュウとニーナに酷い事をした奴!アタシも骨折られた。あの時のアイツだ。

「アースラじゃない。それに・・・」
「お前はっ!」

名前は知らない。あれがラッソ?なのかな。そんなのは如何でもいい事。興味もない。
ただリュウはアイツの顔を見て驚いてて、アイツは少しだけ余裕のある顔。それがむかつく。

「あらあら、アースラに捕まっちゃったのね。アルカイの竜ちゃん!」

嬉しそうな顔。自分で捕まえたって訳でもないくせに。でもこれも別に如何でも良い事。
ただ疑問に思うのは、アイツから鉄の臭いが鮮烈に感じられる事。何で・・・如何して・・・?
脳裏に赤い記憶が甦る。遠い昔の記憶。だけど、あの時は常にアタシの周りにあった空気。あれみたい。
何でこんな場所で?
胸がざわめく感覚。妙な不安と嫌な予感。苦しい。

「・・ラッソ隊長」

アースラの顔。眉根が少しだけ寄った。

「この者達が、この廃墟に人が避難している筈だと言っているのだが・・知らないか?」
「さぁ、知らないわ」

アイツの涼しげな言葉と表情。ソレにそぐわない握られた剣・・・・切っ先は、紅い。

「では、此処で何をしていた?」
「あらあら。私より先に竜を捕まえたからって偉くなったおつもり?アースラ隊長サマ」
「質問に答えろ!」

アースラが声を荒げて、それにアイツは肩を竦めた。
一度だけ視線を逸らして・・言いにくい何かがあるみたい。そんな感じに見えた。

「・・・竜を探してたに決まってるでしょ」

ずる、ずる、何かを無理に引きずるような音。近づいてい来るのが分かる。

「命令どおりに、ね!」

ずる、ずる、建物の陰から聞こえた音の正体が物陰から姿を見せて──

「・・・・ぁ・・・」

アタシの擦れた声。一気に咽喉がカラカラに渇いていく感覚。あの子、知ってる。アタシ知ってる。
記憶にちゃんと残ってる。あの時リュウとアタシと3人で話をした子の1人。名前・・聞くの忘れてたけど、あの子だ。
体中が切り傷とか、殴られた後とかでいっぱいで、酷い事をされたって一目瞭然で・・・。

「リュウ・・さ、さ・・・」

身体を引きずりながら、目に涙を浮かべながら、必死にこっちに向かってくる姿。
痛いのを堪えてるの、分かる。苦しいのに我慢してるの、分かる。

「き、来てはダメです・・・・は・・はや、く・・・逃げてくださ」

刃物が肉を引き裂く音。赤い色が飛び散る。
言葉は言い終わらない前に消えてしまった。アイツの剣があの子を切り裂いたから。

「うるさい虫ね」

呼吸音。小さくヒューって笛が鳴るみたいな音。

「・・・・ぁ・・ぁあ・・・」

気づいたら拳を強く握り締めていた。呼吸するのも一瞬忘れてた。
何で?如何してこんなに動揺してるんだろう?アタシ。



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