鳥篭の夢

第三章/02



村に戻って報告。避難してた村の人達が犠牲になった事とか、リュウの暴走。お墓も作った事も全部。
その間に皆も帰ってきた。全部話せたよね?大丈夫・・だよね?
まぁでも、もし言葉が足りてなかったらきっとクレイが何とかしてくれるって事で。うん、大丈夫。

「それでリュウさんの様子は如何なんだい?」

布団に寝かせた姿を見ながら長老さんの言葉。それにニーナが頷いた。

「今は落ち着いて・・ずっと眠っています」
「此処に戻ってくる最中も一度も目を覚まさなかった位だ」
「そうか。ともかく、リュウさんが無事で良かったよ」

少し安心したみたいな声。本当は皆が死んで悲しいよね?
だけどそう言ってくれた。アタシ達を気遣ってくれた。長老さんも優しいヒト。

「私たちは無事でも、村の人達は・・・・」

ニーナの声。今にも泣きそうな顔。

「・・・せ」

声の方を見ればサイアスの姿。

「戦争の時は・・もっと、沢山死んだ・・・悲しむ暇なんて・・無かった」
「サイアスさん」

悲しむ暇・・でも今は戦争中じゃない。精神的にも時間にもまだ余裕がある。
“悲しい”って思う事が出来る。それが良い事なのかは分かんないけど。
そもそも余裕とか関係なく、アタシが戦争中に悲しいと思った事なんて無かっただろうし。
あんまり感傷的なのって馬鹿らしいと思う。思ってた。だってジメジメするし。
まぁ思うのと感じるのは違うんだけどさ・・・ヒトを悼むなんてキモチ、きっと初めてだ。

「あの、ごめんなさい。長老さん」
「ん?」
「村の皆を・・・守れなかった」

アタシ達のせいで犠牲になった。本当はあの子達も守らなくちゃいけなかった。
関わった責任が、きっとあった。
だってアタシ達が来なかったら今も笑ってたんだ。そう考えて苦しくなる。
でも長老さんは首を横に振って笑ってくれた。如何して?

「それはさんが気に病む事じゃないよ。
それにみんなのお墓を作ってくれた。あの子達の魂も救われるよ・・・・ありがとう」

変なの。“ありがとう”なんて、そんな言葉で自分達が救われる。
ニーナの顔もずっと柔らかくなってるから、きっとさっきよりもマシだよね?

「・・・お前達は」

不意にアースラの声。何だろう?

「その竜を使って何をするつもりだ。我ら帝国と戦争でも始める気か?」
「貴様達と一緒にしてもらいたくないな。我々は争いを望まん」
「フン・・!休戦協定が決まらぬのはルディアの所為だと聞いているぞ」

喧嘩腰。クレイが大人しく聞いてられる筈が無くて、拳を手の平に打ちつけた。

「ではラッソとやらがした事はどうだ!!
関係無い人々に手出しをするような者達に竜を渡さん・・・!!」
「クレイ、落ち着いて」
「だが!お前だってアレほどの怪我をさせられたんだぞ!」

それはそうだけど・・生きてるし。それよりクレイが落ち着く方が先だと思う。
ちょっと感情的になってるでしょ?アタシ、それは良くない気がするけどな。

「あの・・兄さま、その事なんですけど。
私、リュウがあんな風になってしまったのは、リュウが半分このままだからって思うんです」

・・・ぁ。

「それはあるかも」
「やっぱり!そうなんですね?
「うん。本来の力なら制御できたかもしれないけど・・でも、神殿で古い竜の力も貰ったでしょ?
リュウはあくまで半分で、不安定なのに強い力を手に入れた。
だから使い方が分かっててもちょっとした切っ掛けでコントロール出来なくなっちゃうんだと思う」
「・・・・不完全だからだね。根っこが不安定なんだ。
仕方ないといえば仕方ない事だけど、何が切っ掛けになるかは分からない」

ディースの肯定の言葉。やっぱりそうなんだ。って事は、フォウルもそうなのかな?
不安定。それはやっぱり凄く心配。大丈夫かな?
今は少し遠く感じるから不安だし、何て言うかソワソワして落ち着かない。

「だから、兄さま!帝国へ行ってもう1人のリュウと会えば良いと思うんです!」
「な・・リュウを帝国に渡すというのか!?それはお前も嫌がっていただろう」
「違います。渡すんじゃなくて、私達が帝国へ乗り込むんですっ!!」

“乗り込む”なんてニーナから出てくるとは思わなかった言葉。
それが何だか面白くって思わずアタシは笑った。

「うん。アタシも賛成」
!?」

やっぱりクレイは驚いたままで、それもちょっと面白いかも。
でもこれはアタシの最も優先すべき事。ニーナ達が行かないって言っても絶対に実行する事。

「実は元々アタシがフォウルから受けた命って、リュウを無事に帝都にお連れする事なんだよね。
まー、最近思い出した事だけど。でも、だからどっちにしろアタシはリュウを連れて帝国に行くつもりだよ。
それに他の竜も言ってた通り、フォウルとリュウが出会うのはさだめだもんね」
「そうですよ!だったら私達から会いに行っても良いですよね!ね、兄さま!!」
「う・・うむ・・・」

クレイは本当にニーナに弱いなぁ。たじたじ状態。
それからニーナはアースラの前にしゃがみこんで笑った。

「それに帝国に行くという事なら、貴女方と対立せずにすみますし・・・ね?」
「あ、そっか!そうだよね!」

トゲトゲした空気なの嫌だったんだよね。対立しなくて良いのは嬉しいな。
それに・・アースラはまだ分別ありそう。誰かを簡単に傷つけるヒトじゃなさそうだし。

「む、むぅ・・・」

照れたみたいにそっぽ向いて・・・アースラも可愛いなぁって思う。
やっぱり女の子だって、そんな感じ。良いな。

「だがしかし、どうやって帝国へ?大帝橋は使えん。正面からはとても入り込めんぞ」
「え?帝国まで道案内を頼めば良いんじゃないの?」

アースラに。
じっと見たらちょっとだけ意外そうな顔。アタシ変な事言ったかな?

「私がお前達を帝都に連れて行くのか?」
「うん。お願いできるかな?」

嫌だって言われたら、正面突破か別の方法を考えるか・・だけど。

「・・・道案内というのはともかく、元々竜を帝都に連れ帰るのが任務だからな。都合が良い」
「おい、勘違いするなよ。お前は言わば我々の捕虜なんだからな。立場をわきまえろ」
「フン。お前達に負けた覚えは無い」
「ま、まぁまぁ。落ち着いてください」

ふいって横を向いちゃって・・仲良く出来なさそうだなぁ、2人は。

「・・・ところで。先程の話だが、フォウルというのは初代皇帝様の事か?」
「え?うん」
「フォウル神皇様はフォウ帝国建国の祖で歴史上の人物ではないのか?
だが、お前達の口ぶりでは今も生きているような・・・・」
「フォウルも竜だからな」
「・・・っ!?竜・・・!!?」

クレイの言葉に驚く姿。変なの。如何してフォウルが竜だって事が伝わってないんだろう?

「・・・・説明してもらえんか?お前達の目的も含めてな。
私には道案内する代わりに知る権利がある筈だ」

真剣な顔。それにクレイが一度舌打ち。むー・・本当に帝国が嫌いなんだろうなぁ。
だけど“仕方ない”って言ってニーナとこれまでの事を説明し始めた。
・・・・でも、変なの。アタシの足りない頭でだってそう思う。
フォウルが竜だって事を伝えてないだけじゃない。歴史上の人物扱いなのも。
復活する事を誰にも知らされてない?後世に伝えなかった?
まさか。なら、最初から盟約は違えるつもりだったって事?



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