鳥篭の夢

第三章/04



「・・・・あ、ぁ」

ぐるぐる。

「ヤ、メ・・・テ・・・・い、た・・ぃ・・・・」

夢現。目の前にあるものとは別に、もうひとつの視点。
今アタシがいる明るい筈の外。それとは別の真っ暗な場所。鈴の音。ヒトの愚行。
あたしと一緒にアタシが呟いた。頑張って耐えたのに最期の最後に言ってしまった・・・悔しい。
それと同時に“痛い”っていう感覚がぷっつりと途切れる。終わってしまったから。

「がんばったね」

自分で自分を労るのも何だかおかしいかな?でも頑張ったのは本当だし、そんな言葉しか出てこない。
腕の中に冷えた感触。血塗れであちこちおかしくなってる肉の塊。

「・・・・おかえりなさい」

あたし。今までお疲れ様。本当にありがとう。
欠片であるあたしが本体であるアタシに痛みを共有させるなんてよっぽどだから。
死は元より覚悟の上。それはガーディアンとして当然の事。
なのに死よりも酷い仕打ちを受けて、こんなになって、それでも耐え抜いた。だから・・・。

「ありがとう」

ギュッて強く抱きしめると身体から光が溢れて姿が消えた。アタシに還る。
霧が晴れたみたいに今までの記憶が戻ってきて、同時にあたしのもアタシのものになる。
ありがとう、フォウルの傍にいてくれて。命令通りマミを守った・・・かは、確認できてないけど。
でも多分あれなら大丈夫だと思う。きっと上手にやり過ごしてくれてる筈だよね。
見たら身体にあった赤黒い跡は消えていた。多分、あたしと痛みを共有してたからだと思う。
それからずっと傍にいてくれた、目の前のヒトを見てアタシは笑う。

「サイアスもありがと!ずっと魔法をかけてくれたでしょ」
「あ・・う・・・」

痛くないようにって。意味があったかっていうと無いんだけど・・・でも嬉しかった。
だからへらりって間抜けな笑顔になる。まぁ仕方ないよね、勝手になったんだし。

。も、もう・・・大丈夫・・なの、か?」
「何が?」

首を捻ったら“怪我”って・・・あ、そっか急に立ち上がったんだもんね。驚いたかな?
あたしの怪我であって、アタシの怪我じゃないから平気なんだよね。
まぁまだちょっと目の前霞んでる感じするけど。きっとすぐ治ると思うし。

「うん、もう平気!」

ぶんぶんって手を振って、大丈夫って見せる。

「で、でも・・」
「でも?」

サイアスの大きな手がアタシに触れる。頬から目元を撫でていって・・・

「な、泣いて・・・る」
「へ?」

泣いてる?誰が?首を傾げて、それから目を擦ったら水滴で濡れた。
あれ・・泣いてる?アタシ。何でだろう?分かんないや。だって理由が無いから。
“何でだろう”ってサイアスに言って、やっぱり首を捻って・・・でもまぁ良いよね。
だって分かんないんだし。無理して考える事でも無いし。

「ま。そんな事より、アタシは大丈夫だから!
この間みたいに悲しいっていう訳じゃないし・・ね!!」

だから心配しないで!って言葉を続けて笑う。
アタシは笑う事しか出来ない。それ以外で大丈夫って伝える方法なんて分かんない。だから笑う。
でもサイアスはそれで分かってくれたみたいで一度だけ頷いてくれた。

「さってと!元気になったし皆のトコに戻らなくちゃね!!」

アタシの言葉にもう一度サイアスは頷く。
ニーナもきっと心配してるし、リュウだって心配。そろそろ起きたかな?

歩きながら不意に考える。
悲しい・・・じゃなくて申し訳ない、かな。あたしの最期の感情の1つ。
フォウルに対して、最期まで一緒にいられなくて申し訳ない。守り通せなくて申し訳ない。
もしかしたら痛いと伝わってしまったのではないか。傷付けたとしたら申し訳ないじゃ済まない。
そんな感情。だってフォウルは大切だから。
アタシがフォウルを想うのと少し違う。友愛じゃなくて主従として慕う想い。

大丈夫。大丈夫。何度か自分に言い聞かせた。
絶対にフォウルの元に戻る。それからリュウを届けに・・行くのは少し怖いけど、でも行く。
それからマミの無事も確認。これ以上フォウルがヒトに絶望するのは見たくないから。



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