第三章/08
「船底で一晩過ごせって言うけど・・・・暇ーぁ!」
これが船に乗せてもらう試練なんだって。でも確かに暇に耐えろって言うなら難しい気がする。
暗くてジメジメしてるのは気持ち悪いけど我慢できる。でも暇なのは嫌だなぁ。凄く退屈。退屈なのは嫌い。
「言ってた通り、本当に真っ暗でじっとりしてて気持ち悪いですね」
「確かに尻尾にべたーって湿気が纏わりつく感じだよね。アースラは大丈夫?」
無言。大丈夫って事かな?まぁ平気なら良いんだけどさ。
「な、何か・・オバケとか出たりするんですかね?」
オバケ?
「・・・如何だろうな?
暗くて湿った場所には魔のものが憑きやすいといわれているが」
「ふぅん。魔のものかぁ」
でもそれは基本的に神の気に当てられた獣の類だもんなぁ。
そうじゃない魔の者。アタシそんなの見た事無いから、いるなら少し気になるかも。
──...ケケケケケケケ
「へ?」
何?今の変な音・・・声?
「船が、軋んだ音か?」
「そんな風には聞こえなかったけど」
神経を張り巡らせる。ずっと近くに魔の気配がして──
「きゃっ!?」
「ニーナ!」
『ケケケケケケ』
か細い悲鳴と愉快そうな笑い声。
うわぁ、何これ。ふわふわ丸い球体に顔がついたみたいのが浮かんでる。
「ねぇねぇニーナ。これが噂のオバケ?」
「ど、ど・・如何でしょう?」
分からないって首を横に振る。そっか、残念。
「のんびり話している場合ではないだろう──パダーマ!」
魔力の匂い。アースラが唱えたと同時に謎の球体魔物を一気に炎が包み込む。
凄いなぁ!アタシはフォウルの影響もあってあんまり炎は得意じゃないけど。うん、凄い!
ふらふらしてる球体に槍で一撃。そうしたらそのまま消えちゃった。
「凄いね、アースラ!炎の魔法が使えるんだ」
「別段そう騒ぐほどの事ではない」
「そうかな?」
使えないから羨ましいけどな。
「でもビックリしましたね。もう出ないと良いんですけど・・」
「あの程度の魔物ならそれ程恐れる事も無いだろう。むやみに恐怖すれば戦場では命取りになる」
「それは確かにそうかも」
恐れたら身体が緊張して一瞬動かなくなるもんね。それが命取り。
どれだけ普段の自分でいられるかって大切。でもアースラって本当に軍人さんなんだなぁ。
「アースラってさぁ──」
「ふわぁっ!!?」
へ?口を開いたのと大体同時位にニーナの驚いた声。
凄く困ったみたいな顔をしてアースラの方を見て・・・如何したんだろう?
「あ、あの・・アースラさん。くすぐったいので、尻尾を動かさないでくれませんか?」
「尻尾・・?動かしてないぞ」
「え?あれ、じゃあ・・・?」
え?ううん。そんな訳ないよ。だって・・・
「アタシ、ニーナの前にいるから尻尾ではくすぐれないよ?」
「そ・・・そう、ですよね」
恐る恐る。ニーナの顔が自分の手の方に向いた。
何かいるのかな?アタシも一緒に覗き込んだら小さな生き物が顔を覗かせた。・・・・えっと、ネズミ?
尻尾をつまんで、ぶらーんってぶら下げる。一生懸命もがく姿。
んー・・他にもいるみたい?だよね。同じような気配が素早くあちこちを移動してる。何時の間に紛れたのかな?
「ほら、ニーナがビックリしてるでしょ?
さっさと自分達の寝床に戻った方が良いよ」
邪魔するなら多分アースラが倒しちゃうと思うから。
勿論、ニーナを怖がらせるつもりならアタシだって容赦しないよ。言葉にしないけど伝わったんだと思う。
そのまま尻尾を離して地面に降ろせば、ネズミは慌てて木箱の隙間に入っていっちゃった。
「大丈夫だった?ニーナ」
「はい、ありがとうございます。」
にっこり笑う。やっぱり可愛いなぁ、ニーナって。
女の子の笑い方。守ってあげたくなる、そんな笑顔。
「本当にとアースラさんが一緒で良かった。とても心強いです!」
「そうかな?」
「ほら、オバケは平気だけどネズミは怖いとか・・ピーマン、食べられないとか良くあるでしょう?
そういえば2人はそういうのって無いです?」
怖いもの・・・かぁ。
「そうだな・・お化けもネズミも平気だし、ピーマンも食べるな」
考えてたらアースラも首を捻りながら答える。うんうん、アースラ凄いね!
アタシも食べ物の好き嫌いとかは無いけど・・・・・。
「うーん。アタシは蛇が怖いかな」
「あ、そうでしたね。アムの沼には大きな蛇さんがいましたものね」
「わ!わ!思い出させないで、ニーナっ!!
あの、にょろーって長いのとか、舌を出すのとか本当に怖いんだよね」
しかも食べ物を丸呑みするでしょ?うえぇ・・・やっぱり怖い。
くすくす笑う声。うぅ、恥ずかしいなぁ。でも怖いのは怖い。それは本当だし、嘘吐くなんて嫌だし。
「私は蛇も平気だな」
「え?すーっごく大きくても?」
「あぁ、なんて事は無い」
す、凄い・・・。
「アースラってやっぱり凄いねぇ・・・っと!!?」
ぐらって船が大きく揺れる。波かな?分かんないけど、とりあえずニーナが倒れないように支えた。
ボトリ。何かが落ちたのが見えて視線を向けるとカサカサ動く変な虫。うわぁ、気持ち悪いなぁ、コレ。
「な・・・・!何だ、あれ?」
「え?」
震えるアースラの声。後ろに下がってあの変な虫に怪訝そうな顔を向けてる。
「聞いた事があります・・えっと、確かフナムシです」
「う、うなむじ?」
「フナムシだよ、アースラ」
大丈夫かな?あ。もしかして・・・怖い、とか?あの様子だと、多分そうだよね。
でも虫が苦手なんて意外。ちょっと可愛いかも。言ったら怒られそうだけど。
「大丈夫だよ。見た目気持ち悪いけど、別に敵意はなさそうだし」
「そうです。噛み付いたりは、しない筈ですから・・・」
だけど無理だって首を横に振る。あ、でもアタシもそうだよね。
大人しいとか攻撃してこないとかじゃないの。そこにいるだけで怖いっていうか・・・。
「わっ!!」
ぐらり。また船が大きく揺れた。
「だ、だいじょう──」
“ぶ?”まで言い切る前に、沢山のフナムシ達が落ちてきた。
うわぁ、こんなにいっぱい何処にいたんだろ?て、そうじゃなくてアースラっ!?
見てみたら、青ざめた顔でしゃがみ込んで、それで・・・。
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
叫び声。初めて聞いた・・ってそうじゃないよね。
と、とりあえず倒さなくちゃ!うん。