第三章/10
「すまねぇ!」
へ?
ジグが急に謝るけど、一体如何したんだろう?
「俺とした事が如何やらコースを見誤ったらしい。
もしも急ぐってんなら浅瀬を使ってくれねぇか?」
「浅瀬・・ですか?」
「あぁ。帝国に行くにはこの浅瀬の向こうに行く必要があるんだが・・今は干潮の所為で通れねぇ。
満潮になれば船でも行けるが、ただ何時になるか分からないからな」
「如何する?リュウ」
ジグの説明にリュウは悩むように腕を組んじゃった。
急にそう言われても困るけど・・・。
「急ぐなら歩いていった方が良いの?」
「そうだな。今から行けば無事に通り抜けられる筈だ」
筈・・かぁ。むむ、ちょっと悩んじゃうかも。
リュウを見たら真剣な顔。それから決意したみたいに一度だけ頷いた。
「うん。それなら歩いて行こう」
「マーロックさんに頼まれておいて申し訳ねぇんだが・・・」
「いや、此処まででも充分だよ。ありがとう」
「ありがとうございます、ジグさん」
ニーナも笑顔でお辞儀。アタシもありがとうって言って、それから慌てて船を降りた。
だって急がないとダメなんでしょ?逆に進めなくなったら困るし。なのに──
「えぇーっ!此処で野宿!?」
まだ途中だよ?早く行かなきゃいけないんじゃなかったの!?急がないと危ないよ!
そう言うけど、ニーナが首を横に振った。
「でも。流石に今日はこれ以上進めませんよ」
確かにもう真っ暗だけど・・・。
「この暗い中で闇雲に歩いても迷うだけだ。休んだ方が得策だろうな」
「、急ぎたいのは僕も同じだよ。
だけどこんな所で迷っても仕方ないから」
「・・・・うん」
リュウがそう言うなら。確かにニーナもいるから無理したらダメだよね。
アタシはまだまだ動けるから行きたいって思うけど・・・・周りの事も考えなくちゃ。
今はアタシ1人じゃないんだから。
それから野宿の用意。食料は・・うーん、ギリギリかも。まぁ明日着ければ大丈夫だから良いか。
別にアタシは食べなくても大丈夫だし。寝たら元気になるし。あ、でも出されたら貰うけど。
「ふむ・・しかし、後どの位だろう?こんな所で足止めをくっていて大丈夫だろうか・・」
「今は焦っていても仕方ありません、兄さま」
「そうだよ。今日はしっかり休んだ方が良いんじゃないかな?」
だって休むって言ったのクレイだし。野宿の準備完璧だし。今更何言っても仕方ないよ。
そう続けて言えば“そうだな”ってクレイも頷いた。
「明日また頑張りましょう!」
ニーナの笑顔。うん、そうだよね。また明日頑張ろう!!
波の音。何処までも広がる夜空。ぽっかり浮かぶ月。
フォウルも見てるのかな?それとももう帝都に着いた?
うーん、いい加減着いてるような気もする。あれから帝国軍の邪魔が無ければ、だけど。
唯、嫌な予感。あたしの最期を思い出す。呪い・・・・・だっけ?あまり覚えてない。
だけどそれがもしフォウルを───
「ごめん、」
「え?」
不意にリュウが謝って・・如何したんだろ?
「本当は先に進みたいとは思うんだけどさ」
困ったように頭を掻く。あ、もしかして此処で野宿にした事?
んー・・でもそれは仕方ないよね。アタシはリュウの所為って訳じゃないと思うんだけどな。
「気にする事無いよ。誰かが悪いって訳じゃないでしょ。それより──」
「フォウルの事?」
“気になってるのは”そう続けたリュウの言葉に、頷く。
「何でも無いと良いんだけどな。
近くにいないからもうアタシじゃ分からないんだよね」
「近くにいない?」
「うん。あたしはいないから。だからボンヤリしてて遠い感じ。
今なら多分リュウの方が分かるんじゃないかなぁ、フォウルの事」
それが凄く残念。あたし・・片割れが傍にいた時は、確かに忘れてたけど近くに感じられた。
だけどそれが亡くなって、全然分からない訳じゃないけどやっぱり凄く遠い。
うーん・・・上手く説明出来ないなぁ。どう言って良いか分からなくて首を捻ったらリュウは頷いてくれた。
「そう、だね。多分そうかもしれない」
静かに目を閉じる。
「もう1人の自分。そう認識してからずっと近く感じられるようになった。
フォウルの感情が流れ込んでくるみたいに、手に取るように分かる時もある」
「うん」
それはアタシと片割れと同じような感覚なんだと思う。
「リュウ。フォウルは──」
「!リュウ!!ご飯できましたよー!!」
“フォウルは大丈夫?”そう訊こうとする直前にニーナの声。
見たら不思議そうな視線をアタシ達に向けて・・・えっと。待ってるんだよね、多分。
一度リュウを見て、お互いに頷いた。うん、じゃあご飯にしようか。
フォウルは・・・・大丈夫って信じてたら良いよね。リュウが何も言わないから。
やっぱり良い感情は伝わってこないけど。それは不安なんだけど、でもきっと・・・・。