鳥篭の夢

第三章/14



寝所を抜ける間、リュウとオンクーは色んな話をしてた。
リュウが寝所の場所を知っていたのも、抜け道の事を知っていたのも、フォウルの記憶が流れ込んだからだと。
確かにそうかもしれない。リュウはフォウルに近づいてるし、カイザーの力にも目覚めたから。

『私は主の命により此処を動けません。
どうか半身様、お気をつけて──』

寝所を抜けて、最後にそう言ってオンクーは寝所の守りへ戻った。

“気をつけて”?

何でそんな風に言うのかな?これからの旅路を?それとも・・・ううん、アタシには考えても分かんない事。
だから別に気にしない。今はアタシのやるべき事をしなくちゃ。


「関所・・兵士さんが沢山いるんでしょうか?」
「・・・・・帝都やアスタナが近いからな」

パチパチ、炎の爆ぜる音。寝所を抜けた時には陽が暮れかけてたから今夜は野宿。
辺りはもう暗いし、仕方ないよね。別に浅瀬じゃないから足止めさせる心配も無いし、大丈夫。

「わ、私達また捕まったりしませんよね?アースラさんが一緒ですものね?」
「あぁ。関所で引き渡したりはしない」
「随分と聞き分けが良いんだな。何か企みでもあるのか?」
「企みなど無い。そういう約束だからな」

キッパリ言い放ったアースラに、眉根を寄せたクレイの顔。

「約束・・・帝国の人間からそんな言葉が出てくるとはな。皆ラッソのような人間かと思っていた」
「・・・・確かにラッソのした事は許される事ではない。
だが、帝国の者が全員同じ人間だと思わないで欲しい」
「そうだよ、クレイ。そんな事言ったらアタシだって元々は帝国側だし」

優しいヒトは西側にだっている。
マミみたいな優しいヒトが。

「だが帝国がリュウを利用しようとしている事は事実だろう?」
「その事なのだが・・・ルーン将軍に相談してみようと思う」
「ルーン将軍?」

って、誰?

「私の上官だ。あの方なら話を聞いてくださるだろう・・・・あんな事は二度と起きてはならんのだ」

真剣な声と瞳。恐ろしい記憶なのかな?アースラにとって。それは分からない。
ただルーン将軍っていうヒトがアースラにとって大事な存在なのは分かる。名前を呼ぶ声が優しかったから。
多分アタシと同じ。アタシがフォウルを想う様に、アースラはルーン将軍を想ってるんだよね。

「どの道、今はお互いを信用するしかないってディース様が言ってます」
「・・・・まぁ、そうだな」

マスターの言う事が正解。今はお互い信用しなくっちゃ。
敵になったらその時だもん。リュウやフォウルを傷付けようとするなら・・・・その時は容赦しないだけ。

「それに・・・」

ぽつり。アースラが“王女の件も協力できたら良い”って言葉を零す。
意外そうな顔のクレイとは違って、ニーナは嬉しそうにお礼。
何だか心がほんわかする。アタシ、こういうの好き。
それから夜も更けていったから、今夜は一応それぞれ見張りを決めて休む事になった。


「ん?」

真剣なリュウの顔。えぇっと・・・・あ、そうだった。ちょっと忘れてた。

「んっと、片割れの事だよね」
「ごめん。本当はだって休んだ方が良いんだけど」

“でも、全員の前でする話じゃないと思って”って。気を使ってくれたのは嬉しいな。
だから大丈夫だって返して、周りに誰もいない事を確認して・・あ、別に聞かれても良いんだけどさ。でも一応。
今の見張りはリュウだから全員テントに入ってていない。だから焚き火の傍に座りなおす。

「でも、リュウは如何してそんなに気になるの?」

別に大した事じゃないと思う。アタシの力のひとつってだけだし。

「うん・・そうだな。何ていうか、凄く引っかかってて・・・」

上手く言葉に出来ない感じ?あ、でもアタシもある。だから別に気にしない。

「んーとね、片割れって言うのはアタシの力のひとつなの。
うつろわざるものの力を分割させて、もう1つのアタシを作る・・って言ったら良いのかな?
でも使える力は本当に少しだけだから大抵は獣の姿をしてる事が多いけど」

喋れないから相手と意思の疎通も難しいし、使い勝手はあんまり良くない。
力を分割するからアタシ自身も弱体化しちゃうしね。

「あ。でもアタシと意識が繋がってるから、それは便利かな」
「意識が繋がってる?」
「うん。だから片割れが見てるものとか感じてる事とか全部共有するの。何が起こったか分かるのは便利だよ。
片割れはフォウルと一緒にいたから、記憶が無い時のアタシはフォウルを凄く近くに感じてた。
今は全部思い出した代わりに遠くなっちゃったかな。強い感情は伝わってくるけど、それ以外は分かんない」

それが本当に残念って思う。

・・・。
意識や感じたものも共有するって事は、片割れにも意思はあるんだよね?」
「うん」
「だったら──戻った今、その子の意思はどうなったの?」

それで、ようやっとリュウの訊きたい事が分かった。
きっと今まで拭いきれなかった不安があるんだよね?
それならリュウにとっては身近にいる近い存在になるのかな、アタシとあたしは。
アタシも記憶が無い時はどうなるのか少し不安だったけど・・・大丈夫。そう思う事は無いんだよ。

「んー・・・混ざったって言うのが近いと思う。
だから、今のアタシはあたしでもあるんだよね」
「えっと?」

あ、分かりにくい?ごめんねって言えば、リュウは首を横に振った。

「どっちでもあるって言えば良いのかな。言葉にしにくいけど。
でも分かれてた時のどっちも無くなる訳じゃないの。その両方があって今の“アタシ”だから」
「そうか・・」

ただ、フォウルとリュウって全然違うからどうなるのか想像つかないけど。
なんて言ったら不安にさせるよね?
あ、ううん全然違うって事は無いか。見てたら結構似てる気がする。2人とも優しいし。

「ありがとう、。おかげで安心した」
「あはは、良かった」
の雰囲気が少し変わった気がして心配だったんだけど・・・」

・・・あれ?

「アタシ?」
「うん。でも今までと少し違うのは片割れが混ざったからだって分かって良かった。
だけど如何して片割れを戻したんだ?フォウルと一緒じゃなくて良かったの?」

言葉に、記憶の断片が頭を過ぎる。
別れと痛い記憶。大丈夫、今は痛くない・・・。

「フォウルの命を全うする為、かな」
「?・・・そうか」

少しだけ首を傾げて、だけどリュウは頷いてくれた。
訊かないでくれるのは優しいからだよね。きっと。

「ねぇ、アタシそんなに違うかな?」
「ううん。ただ本当に少しだけの空気が変わった気がしたから。
多分、に力が戻ったからそう感じたんだろうけど。
だから“片割れ”っていう単語が気になったんだと思うよ」
「そっか」

それなら良かった。全然違ってたら・・自分でも気付かない内に変わってたなら、それは怖いもんね。
でも、少しは違っちゃうんだ。分かれる前と後でも違ってるのかな?それとも分かれる前に戻ったのかな?
気付かなかったっていう位だから自分じゃ全然分かんない。考えても・・・やっぱり分かんない。
だったらまぁ良いか。どうせ分からないなら考えても意味無いし。別に害がある訳じゃないし。



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