鳥篭の夢

第三章/15



ばたばた。慌しさと騒々しさが織り交ざった空気。関所・・じゃないよね。
“緊急配備”“封鎖”なんて言葉が辺りを飛び交って、えぇと、何があったんだろう?

「こんな所で検問だと?・・・・何事だ!」
「アースラ隊長!?」

アースラの鋭い声に1人の兵士が気付く。

「任務中に消息を断ったと聞きましたが・・ご無事で!」
「その報告で帝都へ向かう途中だ。
軍本部のルーン将軍にお会いしたいのだが・・・・先を封鎖とは、一体何があった?」
「そ、それが・・突然、男が正門を破り侵入。魔物を召喚し暴れまわっていると」
「何だと!?」

男が魔物を召喚・・・?って、もしかしてフォウルとアーター?

「リュウ・・」

不安でリュウを見たら、リュウも何かを感じてる顔。アタシは・・やっぱり遠い。
ただ分かるのはフォウルのヒトへの絶望だけで──嫌だ。
そんな感情だけはツライよ、フォウル。アタシまで苦しくなる。
もしかして呪砲はやっぱりフォウルに?身体は大丈夫なのかな?

「──では、将軍は?」
「ルーン将軍はアスタナへと移られました」

周りの音が遠い気がして、皆が歩き出したから一緒に歩く・・みたいな感じ。ただ不安。

帝都に着いたって事は動けるのは動けるんだよね?大怪我で動けないとかじゃないって事だよね?
だったら大丈夫?呪いは・・・あたしの呪いはどうなったの?分かんない。分からないのが怖い。
それにアーターはずっと城を守ってた筈なのに帝都で暴れてる?そんなの変だし。

、大丈夫?」
「ぇ?あ・・」

顔を上げたらリュウが心配そうな顔。それに何度も頷いた。

「──アスタナに行くのが好都合?」
「あぁ。アスタナにはもう一度行きたいと思っていたんだ。あそこにはエリーナの手掛かりがある。
リュウとには悪いが・・・・」
「いや、大丈夫だよ。僕も気になってたんだ、竜眼で見たものが・・・」

竜眼?アスタナ?あれ・・えっと、どうなってるんだろう?ボーっとしてる間に話が進んでる。
まぁ良いや。ついて行けば良いんだし。アスタナってアレだよね。エリーナさん探しに行った時に見つかった場所。
でも・・・何だろう?凄く身体が重い。“行きたくない”っていう感情。嫌な感覚。
アタシの中にあるあたしの、思い出したくない記憶。
それでも歩いていれば結局は辿り着いてしまって・・・あぁ、酷く気が重い。こんなんじゃダメなのに。
あたしの記憶がアタシに重なる。

痛い。苦しい。嫌だ、嫌だ、もう──

考えるのを止めて、長く息を吐く。
鮮烈で、鮮明に焼き付いた最期の記憶。大丈夫、大丈夫。何度も言い聞かせた。


「何?ルーン将軍は不在?」
「はい。将軍は先程帝都へと向かわれました」

軍の建物・・だよね、此処。その入り口でアースラと兵士がやりとり。
昨日の夜に話してたルーン将軍っていうヒトは既に帝都に行ってるみたい。残念、入れ違いになっちゃった。
でもエリーナさんの情報も集めたいからかな?“先に武器を補充する”って事にして奥へ進もうと──

「アースラ隊長!?この者達は一体・・・!!」

あ、もしかしてダメ?一緒に行こうとしたら止められて・・流石にちょっとドキドキ。

「・・・・部下だ」
「部下、ですか?ですがとても兵には見えな──」
「西の国への潜入捜査をさせていてな、兵の格好をとかせていた。何か問題でも?」
「あ・・・いえ。そうでしたか」

慌てて兵士は礼をして・・・・セ、セーフだよね?うん。
長く下に続いていく階段を下りながら、怪しまれてない事を確認。よしっ!

「あー、危なかったぁ!」
「本当。アースラさんのおかげで助かりました」

ニーナと一緒にホッと息を吐く。アースラって頼りになるよね。
クレイがさっきから“帝国兵の部下なんて”とか文句言ってるけど、まぁ気にしない。
だってそうでもしなくちゃ通れなかったよ?ちゃんと感謝しなきゃダメだと思うな。

──ゾクリ

「・・・・ぁ」

階段を下りきったら急に背筋が寒くなる感覚。あの部屋、は。

「如何したんですか?
?」

立ち止まったからかな?代わる代わる心配そうな声。だけど、如何してだろう?答えられない。
咽喉がヒリヒリする。記憶。思い出したくない記憶がまた脳裏を過って。嫌な臭いまで鮮明に甦る。

「ね・・・あの、部屋・・・は・・・・?」

ダメなのに・・・。そんな事、訊いちゃダメなのに。訊いたって無駄なんだから。もう全部終わった事。
アースラが怪訝そうな顔で口を開く。あ、嫌だ。聞きたくない。良いよ、やっぱり言わなくて大丈夫。
知ってるから。全部知ってるから平気だよ。だけど・・言葉が出てこなくて・・・・。

「此処は、呪砲で使われるニエを呪いの弾にする場所だ」
「呪いの!?」

クレイが驚いたような顔をする。噛み付く勢いで何かを言いかけて、ニーナに宥められてる。
マスターがジッとアタシを見てた。全部、知ってるみたいな目線。
ディースが何か理解したのかな?何か知ってるとか?分かんない。
熱い。痛い。苦しい──ううん、大丈夫。それは過去の痛み。過去の記憶。
大丈夫。平気。忘れてて良いんだよ・・・今は。

「だが、それが如何かしたのか?」
「え?んー・・ううん、何でもない。
凄く変な感じがしたから何だろうなって思って。変な事訊いてゴメンね!」
「いや。そうだな、嫌な感じ──しない事はないだろうな」

“本当に、恐ろしい場所だと私も思う”って、アースラも呟くように言葉を零した。
恐ろしい場所。本当にそう。あんなに平然とヒトが傷付けられる場所。
ヒトをヒトとして扱わない。あんなの・・・リュウには絶対に知られたくない。

「あ。でもリュウも変な感じとかしなかった?あの部屋から」
「・・・うん」
「だよね!何か凄く嫌な気配しかしないんだよねぇ」

言葉を続けたら、リュウは頷いてくれて・・・気付いてない?大丈夫?分かんないけど。
ううん、今はそれよりもエリーナさんの手掛かりが無いかの方が重要なんだから。クレイもニーナも真剣な顔。
前回は探す前に見つかったけど、今回はきっと大丈夫。アースラがいるから何とかなるよね!
でも・・・何だろう?ずっと向こうっていうか奥っていうか、そこから強い力みたいな何かを感じる。



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