鳥篭の夢

終章/01



パチパチと炎の爆ぜる音。
さっきまでアースラがこれからの道順を話してたけど、終わったらまた静かになっちゃった。
言葉・・続けられないんだよね。きっと。だって何を喋ったら良いのか分かんないし。ただ空気が重い。

「・・・・ニーナ、クレイ」

リュウが名前を呼んで、2人が顔を上げた。リュウの目線は変わらず炎にあるけど。

「2人ともウインディアに帰った方が良いんじゃないかな?」
「・・・・え、どうして?」
「もう此処からは僕との問題だから。
これ以上、巻き込まれる事は無いんじゃないかって・・・。
それに帝都へ行けば危険な事がいっぱい待ってる。だから・・・」
「リュウ」

リュウの言葉を遮る。静かなクレイの声。

「・・俺はエリーナに何もしてやれなかった。だが、これからやれる事はある。
お前達を最後まで見届ける事だ。エリーナもソレを望んでいた・・俺は何と言われようとお前について行くぞ」
「そうです。帰れなんて・・・寂しい事、言わないで下さい」
「クレイ・・ニーナ・・・」

2人とも、まだまだ立ち直れてない顔。仕方ないよね。だって、ついさっきの事だから。
大切なヒト・・・いなくなっちゃったら、悲しいし苦しい。

「私が帰れるかどうかもリュウちゃんにかかってるし・・って言ってます」
「お・・俺も・・・行く」

マスターとサイアスも力強く頷いて、リュウはありがとうってお礼。アタシは・・・。

も良いですよね?」
「・・・・え、うん・・」

ただ頷いて、だけど・・・・大丈夫かな?ちょっとだけ心配。ちょっとだけ不安。
だってフォウルがヒトに絶望してる今、アタシは・・・・・アタシは皆の“仲間”でいられるか分かんないから。
アタシにとってフォウルの命は絶対だから。敵対、するのかな?皆に。それは嫌だな。

「大丈夫だよ、
僕はフォウルと話がしたいだけだから・・・きっと、大丈夫」
「リュウ・・」

そうだよね。大丈夫だよね?半身様であるリュウがそういうなら、きっと・・・。
あはは。何だか変な感じ。何時もはアタシが大丈夫って言う側なのに励まされちゃった。

「ありがと!アタシも・・。
うん、アタシもちゃんとフォウルと話がしたいな」

もしかしたら忘れちゃってるかもしれない。ずっと近くにいたから、忘れられちゃってるかも。
アタシがヒトだった事。フォウルのおかげで今も生きてる事。マミの無事も確認して、全部、全部。

「うん、一緒に行こう」
「そうだね。きっと大丈夫だもんね!」

ちょっと頑なだったりするけど、でもちゃんと話は聞いてくれたから。
少しだけ元気出てきたかも。リュウのおかげ。
それから皆休む事になって、アースラが最初の見張り番になるって事になって皆はテントに入っていく。・・・あ、そうだ。


「あのね、クレイ」

名前を呼んだら立ち止まって目線だけがアタシに向く。まだ、疲れた顔。

「アタシが・・・ね。
アタシが・・もしエリーナさんだったとしても、きっと同じ事したよ」

何があったかなんて聞かれなくても分かる。エリーナさんの最期がどうだったかなんて・・・。
でもヒトとして歪な存在になったとして。存在自体を冒涜され続けて。大切なヒトとはもう一緒にいられなくて。
だけど、最後にその大切なヒトに会えたんだとしたら・・・・それはきっと幸せだった。そんな気がする。
拒絶されたんじゃなくて、そのヒトの顔を見ながら最期を迎えられるなら。今までの不安とか憤りもきっと。

「クレイは間違った事してない。・・・アタシは、そう思うな」
・・・」

それは本当に気休めな言葉だと思う。だけどアタシは本当にそう思ったから・・・。

「お・・・俺も、そう思う」

ぽつり。言葉が落ちてきて、見たらサイアスだった。
やっぱりそうだよね!良かった。そう言ってくれたらアタシも少しだけ安心。

だけど・・・・エリーナさん、本当に強いヒトだった。
あんな存在にされて、それでも心は壊れなかった。自分のままでいたんだから。
普通だったらきっと無理だよね。多分、ニーナとかだったら耐えられなかったと思う。本当にそれ位、恐ろしい事。
自分がヒトで無くなるっていうのはある意味アタシも一緒だけど・・・アレは全然違う。
アタシよりも異質。捻じ曲げて歪められた。それなのにニーナの前でちゃんと笑ってた。
本当に・・凄いな。アタシにはきっと出来ない事。強くて、優しいヒト。

「・・・あれ?」

ボンヤリしてた。アタシにしては珍しいかも、考え事なんて。気付いたら皆もう寝てるみたい。気配が静か。
アタシも寝なくちゃって思うのに眠れない。眠くない。こんなの初めて。ちゃんと身体を休めないと動けなくなるのにな。

──パチン...ッ

一際大きく炎が爆ぜる。アースラもそれで我に返ったみたいに身体を震わせて・・・きっと考える事が沢山あるんだよね。
アタシと違ってアースラは頭が良いから、不安に思う事とかも一杯あるのかも。大変だなぁ、それも。
じっと見てたら一度目が合って、それからバツが悪そうに外された。大丈夫かな?ちょっとだけ心配かも。
・・・・・心配?フォウル以外の存在を?
良く考えてみたら、これも変な感情。変に、なっちゃったのかな?アタシ。

「フォウル・・」

小さく、名前を呼んだ。此処にはいない、初めての友達の名前。友達だってアタシが思ってるだけかもだけど。
如何したらあの感情から救い出せるんだろう?如何したら・・・?アタシじゃダメなのかな?無理なのかな?
今のアタシは友達だけど主従でもあるから。
じゃあそれなら如何したら良い?誰ならフォウルを助けられるんだろう?“誰”──?あ!!!

「そうだ・・」

1人だけ、心当たりがある。フォウルを助けられるヒト。またあの頃の穏やかなフォウルに戻せそうなヒト。
でもそれはあの時にいただいた命令とは違う、危険に晒す事になる。だけど、でも・・・・・・。
拳を強く握りしめる。そうだ、無事の確認もあるんだし行ってみよう。まずはそれからだよね。



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