終章/04
「えーっと、マミの家は・・っと」
何処だったっけ?あたしは小さな獣だったから距離感がちょっと違ってて困るなぁ。なんて村を散策しながら思う。
それから、凄く静か。あの時の長閑さとは別の雰囲気で変な感じ。緊張してるって言うのかな?・・・あ、また兵士だ。
傷だらけで震えてて、何か小声で呟いてるけどアタシには聞こえない。ちょっと耳障りだけど、まぁ良いか。
でも兵士だけじゃない。ボロボロの女のヒトや子供も。もしかして帝都から・・・?
「アンタも帝都から逃げてきただか?」
心配そうな顔で女のヒトが話しかけて来た。
えっと・・この村のヒトだよね、見た事ある気がする。
「あ、あの・・・」
「可哀想にな。こーんな小っこいのに・・・でも安心してけろ!
この村までは流石に化け物も追って来んから!ゆっくり休んだらええ!!」
別にそうじゃないんだけど・・・。
「あの、えっと・・・マミは家にいるかな?」
「マミ?・・・・・・もしかして後ろの人は帝国と関係あるんかね?」
「え?ううん、そうじゃないの。ただアタシが会いたくて」
「そしたらお嬢ちゃんがマミの知り合いだったんだか!」
驚いたような顔をして、それから嬉しそうにホッと息を吐く。
それからコソコソって声を潜めた。
「あの子は今うちにおるんよ。ちーっと訳があって、帝国の兵士さんから隠しとるんだけどな。
そうじゃ!これからうちに案内するけ、ついて来たらええだよ」
にっこり笑う。アタシが帝国のヒトと関係してるかも・・なんて考えてないんだよね。
そんな優しさはやっぱり村から無くなってないんだ。えへへ、やっぱりそういうのって嬉しいなぁ。
女のヒトに連れられてサイアスと一緒に小さな家に行く。あ。この犬も知ってるかも。久しぶり!
「今帰っただよー。それからマミ、アンタにお客さんだべ」
「え?おらにですか・・!?」
部屋の奥から驚いたような声。聞いた事のある懐かしい声。
ひょこり。顔を覗かせて不思議そうな顔。やっぱりアタシじゃ分からないかな?
「マミ!久しぶり・・って、分かんないかもだけど。・・って言ったら分かる?」
「・・って、だか!?」
慌てて立ち上がって・・あ、わ!大丈夫?転びそうになりながらアタシの傍に来てくれた。
そんなに急がなくってもアタシはいなくならないのに。
ぎゅうって抱きしめられて、ホッと息を吐いたのが聞こえた。
「本当に?・・・・あぁ。この耳と尻尾だべ、間違い無いさね。雰囲気も。
あれから大丈夫だったか?怪我は?ご飯もちゃんと食べてただか?病気とかは・・・・・?」
「・・・・あは、大丈夫だよ」
あたしは、大丈夫じゃなかったけど。
でも心配させたくないから言えない。
何て言えば良いかも分かんないし、伝えられる自信も無い。それより・・。
「マミは?嫌な事とか痛い事とか無かった?」
「ふふ。おらは平気だ。あれからずっと此処の家で隠してもらっとる。
あぁ。畑さ見とらんけ、ちょっと気になっとるけどね」
「あは、じゃあ見てくれば良かったね」
マミの畑の位置も知ってるから。そう言って2人で笑う。あたしの頃とは少し違う感じ。
尻尾と耳で判断されると思わなかったけど。でもヒトになれるっていうのと合わせて考えたらそうなるのかな?
それに“ロン兄ちゃん”ならともかくアタシの名前は村に広まって無さそうだったし。ペット扱いだもんね。
でも、だからこそきっとアタシだって理解してくれたんだよね。じゃあ良いか。
「そうだ!兄ちゃんは?一緒じゃなかっただか?
あれから会えんままだったんだべ?」
「・・・・・うん。あのね、マミにお願いがあるの」
「ん?」
不思議そうな顔。本当はお願いしたらダメなんだけどさ。
これから先は凄く危険。生命の危機に晒すかも・・だからフォウルの命とは相反する事。
心臓がドクドク鳴ってて、でも──っ。
「一緒にフォウル・・・その、ロン兄ちゃんを助けて欲しいの」
フォウルじゃ分かんないよね。そう思って言い直したら、本当に本当に驚いた顔。
「・・・・え?兄ちゃんを・・って、どうしただ!?」
「怪我とかはどうか分かんないんだけど・・・・今、心が苦しんでるの。絶望してるの。
もしかしたらマミが自分の所為で犠牲になったって思ってる。自分と出会ったから酷い目に遭ったって。
だから元気だって教えてあげて欲しいの!フォウルの事、嫌いになってないなら・・・」
「嫌いになんてなる筈ねぇっ!」
何度も何度もマミは首を横に振ってくれて・・・・良かった。心から安堵する感じ。
「。おらでも兄ちゃんを助けられるんだろ?
そんなら、一緒に連れてってくれろ」
にっこりと優しい笑顔。あの頃と全然変わらない、本当に変わらない綺麗な笑顔。
だからアタシも嬉しくて同じように笑う。
「うん!ありがとう、マミ!」
アタシが絶対に守るから。絶対にフォウルの命を全うする。
だから一緒にフォウルのトコに行こう!