鳥篭の夢

終章/07



「・・・・昔」

ぽつり。フォウルが喋り始めて、アタシは足を止めた。
すぐ近くにリュウの気配。追いつかれちゃった。
・・なんて頭の端でそんな事を考えて、でもそんなの如何でも良くなる。

「ヒト共にとっては遠く、我等にとってはそれ程でもない時の向こうで・・・神が、召喚された。
しかし、ヒトをニエとした不完全な召喚の業は、その神をふたつに分けて呼び出してしまった」

夕暮れ。振り向いたフォウルの髪が夕陽に染まって綺麗な色。
初めて会った時の事をちょっと思い出す。
だって此処は初めてアタシとフォウルと会った場所。アタシがアタシである最初の場所。

「私と・・・お前と。不思議なものだ。初めて出会った自分、か・・」

口元には薄く笑み。どんな意味があるかなんて知らない。でも嬉しいとかじゃない、それは分かる。

「──リュウ、お前は私の考えている事が分かるだろう・・・?」
「・・うん。君はヒトに絶望している。その気持ちを今まで何度も感じた」

それはアタシにも。ガーディアン・・従う者にも伝わってしまう程の絶望。

「私にも分かる。お前達がうつろうもの達と旅してきた道が・・・。
だが、リュウよ。あれらはお前という大きな流れに流されて来たに過ぎない」
「フォウル・・」
、お前もそうだ。
元は私という流れに巻き込まれ流された」

そうかも知れない。でも・・・。

「前にも言った気がするんだけどね、アタシはそういうのって如何でも良いの。
だってアタシはアタシなんだし。それにアタシは自分で望んでフォウルと一緒にいるの!」

アタシは変わってないでしょ?出会った頃から。
ずっと一緒にいた頃から何も変わってないと思うんだよね。
だから・・・だからさ、そんなに絶望しないで。お願いだから。

「そうか、そうだったな。お前は自ら流れを共にする事を望んだ稀有な存在だったな」

・・・あれ、珍獣扱い?でもくつくつ笑う声は少しだけ楽しそう?だよね。ちょっとだけ安心。
何だか昔に戻ったみたいで、でもそれも一瞬だけですぐに元通り。

「リュウ。お前は、うつろうものを・・・この世界を守りたいのだろう?
ヒトに、未来を与えたいのだろう?」

──バチィ...ッ

「来い、

フォウルから、強い力が発せられてる。如何するんだろう?あれ。なんて考えてた筈・・だよね。
なのに名前を呼ばれて頭がくらくら揺れる感じがして、気付いたらフォウルの横にいて・・あれ?何時の間に?

「フォウル・・っ!何を!?」
「ならば我が力、受けてみよ。
お前が耐えねば後ろの者共が死ぬ事になるぞ」

あ、れ?ニーナ達が・・・いる。如何して?

「あ・・リュウ、。わ、私・・・・・」

如何しよう?アレは駄目だよ、フォウル。
あんなの当たったらヒトは死んじゃうよ?

「──さぁ、如何する?」

強い力が放たれて・・・・駄目だよ、これじゃマミが危ない!
アタシと片割れの身体が無意識に動く。前に立っても耐えられないって本能が告げて、リュウの後ろへ。
・・・・あ、でも駄目。片割れが耐え切れなくてアタシに還って来たのが分かる。やっぱりフォウルは凄い。

「2人がかりで何とか防ぎきれた、といった所か。
そこまでしてヒトを助けるのだな。お前達は・・」

リュウの呼吸は荒い。竜としての姿になってて、だけど防ぐので精一杯。
その場に膝を突いて倒れこんだと思ったら何時もの姿に戻った。多分、体力の限界なんだよね。

「だが、リュウ・・お前は本当は迷っている。
この世界が、ヒトが本当に守るに値するのかどうか・・」
「そ、んな・・・こと──」
「私には分かる」

否定の言葉を否定。・・あれ?何だか良く分かんないけど、つまりそんな感じ。
そうしたらリュウは黙り込んじゃった。言葉が出てこない。だってフォウルとリュウはひとつなんだから。

「お前は見てきた。うつろうもの達が・・喜び、怒り、笑い、悲しみ、生き・・そして死にゆく様を。
しかしリュウよ。それは我等とは関係の無い、下らぬものでは無かったか・・・?」

フォウルの声が響く。

「うつろうものは・・・ヒトは、無知で、傲慢で・・・偽り、傷付け、殺し・・・何処までも愚かで・・。
そうだろう?リュウ。ヒトは、身勝手だった・・・」
「そんな、事は・・・」

──・・・そうかも、しれない

リュウの不安が流れてくる。口にするのとは逆の言葉。

「お前の見てきたヒトは残忍では無かったか?」
「う・・・」

──・・・そうかもしれない

「お前の見てきたヒトは愚かでは無かったか?」

──・・・そうかもしれない

「ち、違う・・・違うっ!僕は・・!!」
「迷いを捨てろ、リュウ」

フォウルが手を差し伸べる。リュウは、迷ってる。まだ迷ってる。だって色んなヒトを見てきたから。
そうかもしれない。だけどまだヒトを信じたいって思い。2つの感情が混ざってる。

「ヒトは、守るに値しない」

そうかもしれない。それは確かに間違ってないよ。
帝国のヒトも、連合のヒトも、ラッソも、ユンナも、もっと沢山のヒト達が身勝手で愚かでどうしようもなくて・・・だけど!

「──だけじゃない。
・・・・それだけじゃないよっ!リュウ、フォウルっ!!」

言葉は遅くて。ニーナの“駄目”って声も、アタシの声も届かない。
リュウがフォウルの手を取る。同時に、強い光と衝撃。眩しくて目を開けてられなくて強く目を瞑る。
でも・・・感じる、凄く強い力。混ざり合う力。2つに分かれてたのが元に戻る感覚。
漸く、ひとつになられたのですね?我が主よ。
それはさだめ。だけど、でも、そうしたら・・・・もう遅いのかなぁ?



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