鳥篭の夢

終章/08



「リュウ・・・・?」

信じられないって、ニーナの声が響く。

「そう。リュウでもあり、フォウルでもあり、また・・そのどちらでもない」

姿はフォウルのまま。だけど髪が綺麗な金色で気配も違ってる。
完全な竜としてのお姿・・・・・・・本当に?何だか、まだ少しだけ違和感。
何だろう?分かんないけど。

「そんな・・・嘘、リュウ・・・」
「リュウを・・・取り込んだのか?」
「魔人・・」

次々に言葉を続ける皆に、ふと主が笑んだ。

「・・・だとしたら・・?ヒトが滅ぶ運命に変わりは無い」

手を、前に出して・・其処にはニーナがいて・・・。

「・・・ぁ、お待ち下さい。主!」
「ニーナ!下がれ!!ニーナっ!!」

クレイの声。だけど呆然としてるニーナには届かない。

「くそ・・っ!好きにさせるか!!」

大きな棍棒みたいな武器。それをクレイが構えてこっちに向かってきて・・。
駄目だよ、クレイ。主にそんなのは通じないし、そんな事はアタシが・・・アタシがさせないからっ!

「・・・なっ!!?」

主が力を放つ前にアタシが前に出る。
主を傷つけようとする者は許さない。ガーディアンとしての本能。
だけど“アタシ”は全力でクレイを傷つけたくないって思う。だってクレイは仲間だから。
クレイだって・・・優しいヒトだから。
主を助けなくちゃ。でもクレイ達も助けなくちゃ。2つの感覚。
向かってきたクレイを持っていた槍で思い切り叩きつければ、一気に身体が吹っ飛んで壁に激突した。
ちょっとやり過ぎたかもしれない。手加減はしたつもりだけど。でも主の攻撃よりマシな筈だから。

、加減したな」

・・・・あ、流石にお見通しか。反射的に主の声に深く礼を取る。

「申し訳ございません、主」
「・・・構わん。それよりも・・・」

視線を遠く・・皆の方に向けられて。止めて。止めて、お願い殺さないで。
アタシの感情。ガーディアンとしての感情。2つがずっとぐるぐる回って気持ち悪い。

「無茶だ。こんな・・・我等ヒトが神に勝つなど。
ガーディアンであるですらあの力だぞ。リュウが消えた今では──」
「消えてません」

ニーナの声。凄く静かで、なのにもっと大きいアースラの声を掻き消すみたい。

「信じてます。リュウはまだ消えてない」

絶対に大丈夫。そんな瞳。

「貴方の中にリュウが少しでもいるのなら、望みはあります・・!

──リュウ!聞こえますか・・っ?私・・この世界が好きです。リュウのいるこの世界が・・・!
ヒトは愚かだけど、これから変われるって、私・・信じたいです。私の好きなこの世界を!」

叫ぶような声。涙が零れてて、でも・・でも本当に信じてるんだって伝わってくる。
あぁ、でも・・・うん。

「そっか」

思わず、言葉が零れ落ちる。ニーナのおかげでずっと感じてた違和感の正体が分かった。
そうだ。リュウとフォウルは混ざりきってない。
まだ迷ってる。リュウだけじゃなくて・・・フォウルも。
やっと気付けた。絶望だけじゃない、ヒトに対する迷い。それを2人から感じるの。

「下らん」

・・・本当に?

「好きだの、信じるだの・・そんな儚いものが何になる?」

・・・本当に?

「貴様等ヒトはそれを平気で踏み躙って来た。相容れぬものだ・・。
私はヒトを滅ぼす。だが、その前にお前達を消してやろう」

主から強い力。本当に、それで良いの?

「ダメだよ」

嘘吐き。駄目だよ、自分に嘘を吐いたら・・・・そんな事したら、駄目だよ。

「──私は。私は、間違っていない・・・!!」

言い聞かせる言葉。ほら、やっぱり主は・・・フォウルは優しいんだよ。
そうやって自分に言い聞かせなくちゃ、ヒトを滅ぼせないんだから。

「リュウ!」

ニーナがリュウを呼ぶ。主の手には強い御力。
だからアタシはニーナの前に立って・・・何かあっても絶対に守る。ニーナも、マミも、皆もっ!!
リュウもフォウルも助けたいから。だから2人の大事なヒトを守るんだっ!

「リュウ・・・っ!」
「フォウル、お願い止めてっ!!」

ただ、ニーナと一緒に叫んだ。

「・・・・ニー・・ナ。・・」

力が消えて、主が・・ううん、主じゃない人格がアタシ達の名前を呼ぶ。
やっぱりまだリュウは消えてないんだ。
ニーナが何度もリュウの名前を呼んで、主は驚いたような顔。信じられないって顔してる。

「・・・何故だ。我等はひとつとなった。お前は消えた筈だ、リュウ──!」
「きゃっ!!」

言葉と同時に辺りに眩い光。それが柱になって空へと立ち昇る。
凄い力。とても強大な力。それはきっと全てを壊す事も出来るような力の奔流。
だけど・・だけどさ、変かもしれないけど、何だか大丈夫な気がしてきたの。

「ありがとう、ニーナ。リュウの事、信じてくれて。
ニーナのおかげでアタシも気付けた。リュウもフォウルも迷ってる事。
竜は凄く優しいんだって事も思い出せたし。
・・・・だからアタシ、ちょっと行って来るね」
「え?・・?」
「ニーナみたいに、アタシもリュウとフォウルに言いたい事があるから。
それから──お願い、マミ!ずっとフォウルの事、呼んでて!
マミは元気だって、大丈夫だって・・・気付かせてあげて!!」
「お、おら・・・・分かっただ!任せてけろ!」

遠くから、だけどしっかりとしたマミの声。アタシは護れないけど、皆いるし大丈夫だよね。
今は魔物が来ない事を願いつつ・・・あ、そういえばまだ説明とかしてなかった。でもまぁ良いか。
とにかく今は、この眩い光の柱の中へ・・!



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