終章/09
光の中を抜けたら、さっきとは全然違う・・身震いしたくなるような深い闇。
フォウルは何処だろう?リュウは・・?
もしかして迷ったのかな?ていうか迷ったらどうなっちゃうんだろ?これ。
──...リン
鈴の音?
──...チリン
聞き覚えのある綺麗な音。あたしが好きだった音。
そういえばあの時の鈴は・・・・あの時マミから貰った鈴は何処にいっちゃったんだっけ?
大切な物なのに。お守りだって貰った筈なのに。気付いたら無くなってた。
ニエになる時はあったのに・・・何時?
──.....チリン...
まるで呼んでるみたいな音。その音を目指して走る。走る。走る。体力が続く限り、ずっと。
リュウ?フォウル?ねぇ、2人とも何処にいるの・・・?
「君と分かれてしまった理由・・・召喚の失敗だけじゃなくて、何か意味があったんじゃないかって」
響いてくるリュウの声。
「僕の役目はきっと、世界を旅してヒトを見てくる事だったんだ」
ずっとずっと優しくて確信に満ちた声。
「フォウル。確かに君の言う通り、ヒトは愚かかもしれない。
僕が出会った中でもそういうヒトは沢山いた。
でも・・・それだけじゃないって事、僕の大切な仲間が教えてくれたんだ。
そういうヒトが君にもいた筈だよ。だから君は迷っている。ヒトの優しさを知っているから」
近づいてきた声・・・あ、見えた!リュウだけじゃなくて、フォウルも!!
「リュウ!フォウル!!」
「!?」
名前を呼んだらリュウが驚いた顔をして・・えへへ、来ちゃった。
「良かった。やっと見つけた!」
「何で此処に?」
「だって言いたい事とか沢山あったから」
でも、ほとんどリュウが言ってくれたけど。ヒトは愚かなだけじゃないって事。
もしリュウも迷ってるなら2人に言おうって思ってたんだけどな。取り越し苦労だった?
「えっと。いや、そうじゃなくて・・・」
ん?何か変かな?リュウが何に驚いてるのか分かんないんだけど。
「ガーディアンとはそもそも神の力を宿した存在。
が我等が精神の中に入ってこれる事など別段不自然でもない」
「そ、そうなんだ」
あ、そうだったんだ。此処が何処かも分かってなかったけど。
ただ何となく・・あの光の柱に入れば2人に会えるんじゃないかって、そう思っただけだったから。
「そうそう。その事なんだけどさ・・・・フォウルは、忘れちゃった?」
フォウルが半眼になってアタシを見る。まるで“何が?”って言いたいみたいな視線。
・・・・ねぇ、忘れちゃった?それとも忘れたかった?
「アタシがヒトだった事」
静寂。リュウが息を飲んだのだけが分かった。
「フォウルが力をくれたんだよ。フォウルが、あの時アタシを助けてくれたの。ヒトだったアタシを・・・。
忘れちゃった?フォウルが召喚されて・・ヒトだったアタシが、友達だってフォウルの後をついてって。
そんな事ばっかりしてるから馬鹿みたいな失敗して、大怪我して──なのに、力を削ってまでフォウルが助けてくれたんだよ」
ガーディアンになったのは、アタシを助けてくれた証拠。
ガーディアンであるのは、フォウルの力を貰った証拠。
「フォウルは・・・・その事も忘れちゃった?」
遠い昔。だけど、気の遠くなる程は遠くない。そんな昔話。
「・・・・だから、如何したと言うのだ。
お前は、今は私のガーディアンだ。そうだろう?」
苦しげに言葉を零す。それはそうだけど・・・。
ね、じゃあ如何してそんなに苦しむの?そんなにヒトを許すのは嫌?
あの時のアタシみたいに・・・憎しみと苦しみと。だから、そんなにもヒトを許せない?
「ヒトなど、ヒトの優しさなどと・・・そんなもの・・・っ!」
「じゃあ、コレは?」
ぇ?
──...チリン
リュウの手の中に・・・・・鈴?
「如何してこれを大切に持ってたんだ?」
マミの鈴。あたしが貰った物。
「何で、コレをフォウルが持ってるの?」
あたしがつけてた筈。最期までずっとつけてて・・・ううん、それ位は流石に分かる。言われなくても、大丈夫。
何だ。フォウルが持ってるって事はやっぱりそうだったんだ。
「呪い。当たっちゃったんだね」
フォウルからの応えは無い。でも、分かる。
「仕方ない・・じゃ済まされないけど、そうだよね。フォウルの力を貰ったんだもん。
一緒に住んでいたマミをニエにしようって思う位だから・・・あたしとじゃ近すぎるよね」
「・・・・何を、言っている?」
あ、やっぱり気付いてなかった?
「大丈夫だよ、フォウル。
マミは無事。ケガ1つしてないから」
だって・・・。
「あの時・・・呪いになって死んだのはあたしだから」
「・・・・何、を・・?」
“言っている?”って言おうと思ったのかな?でも続きはそのまま消えちゃったから分かんない。
リュウも顔が強張ってるよ?アタシはもう大丈夫なのに、変なの。
「フォウルを攻撃する為の呪砲のニエになったのは、あたし・・・・片割れだから。
あの時、マミを護るって命を頂いたでしょ?それに片割れは一度姿を変える事が出来るから。
ね・・・ちゃんと守ったよ。代わりにフォウルを傷付ける事になっちゃったけど・・」
でもマミは生きてる。ちゃんと元気にしてた。
そうだよ、ちゃんと守れたんだよね。何だか達成感。ちょっと嬉しくて、だから笑う。
「ねぇ、フォウル」
零れるように落ちたリュウの声は穏やかだ。
「・・・・も、マミさんだっている。
こんなにも優しさをくれたヒトが、君にだっているんだ・・・」
「わ、たしは・・・」
リュウは決めたの?さっきまでとは違う、まっすぐな瞳。
「僕はもう迷わないよ、フォウル。
や、ニーナや仲間達がいるこの世界を・・・ヒトの未来を守りたいんだ!」
「違う、私は・・・っ!」
──兄ちゃんっ!!
「・・・・っ!!」
・・・あ、マミの声。良かった、ずっと呼んでてくれたんだよね。
届くまで時間がかかったけど、でも全然大丈夫。フォウルも聞こえたよね。驚いた顔してるし。
ね。もう迷わなくても良いと思うんだ。大丈夫だよ、フォウルなら。
リュウもいるし、アタシよりずっとずっと頭良いし。だからさ・・。
「ヒトを滅ぼすとか、もう止めようよ。
そんな事しなくたって良いんだよ・・・フォウル」
好きなら好きで良いと思うんだ。
相容れないとか、愚かでどうしようもないとか、そんなのもう良いじゃん。
そんなのアタシには分かんないし、それに大切なヒトは無事だったんだよ。
あの時と同じに笑ってくれてる。だから・・・・。
眩い光。何度も響くマミの声がまるでアタシ達を現実に引き戻すみたい。
フォウルが如何するのかとか、全然答えは貰ってないけど・・・ま、良いか。
大丈夫、きっと。