鳥篭の夢

終章/10



強い光。巻き起こる風が漸く止んで・・・・空、綺麗な夕焼け。

「ありがとう・・ニーナ」

リュウの声。

「僕の事、信じてくれて」

少しだけ困ったみたいに笑うリュウにニーナが泣いちゃって・・。
あー!リュウ、ニーナを泣かせた!でも・・嬉しそうだから、まぁ良いや。

「・・・・信じてましたよ。最初から・・!」

本当に嬉しそうな笑顔。フォウルとリュウ。また2人に分かれちゃってる。
でも、変なの。そっちの方がアタシも何だか嬉しいって思う。

「兄ちゃんっ!・・!!」

マミの声。そんなに慌てたら危ないよ?って思うけど、それでも走ってくる。

「良かったぁ。2人とも無事で本当に良かったべ。
が光ん柱に飛び込んだ時は、どうなるだ・・って思っただよ」
「あはは、ごめんね」

心配させちゃった。

「心配したのは私もですよ、!!
本当に何時も無茶ばっかりするんですから・・っ!!」

あー・・・流石に申し訳ない気持ちでいっぱい。
だけどその後ニーナが“でも・・”って言葉を続けた。でも・・何かな?

「無事で本当に良かったです」

にっこり笑顔。泣いてるけど・・でも綺麗な笑顔。アタシの好きなニーナの顔。
勿論マミも同じ。大好きな笑顔。


「・・・・・くく・・」
「兄ちゃん?」

フォウル?

「・・・・迷っていたのは私、か」

目線は遠くほとんど沈んじゃった太陽の方。それから、リュウの方へ向けて──

「私を取り込むと良い、リュウ。私はもう必要とされていない」
「そんな事・・っ!!」
「兄ちゃん、なしてそんな事言うだか!?」

そんな事、無いよ・・。必要としてないなんて・・そんな事言わないで!
アタシにとってフォウルは大事な友達だし、マミだって心配して此処まで来てくれたんだよ?

「・・・僕は、どっちが吸収して残るとかそういう事の為に此処まで来たんじゃない。
君の声がずっと聞こえてて・・会いたいから此処まで来たんだ。
君に会えたら他にも道が見つかるんじゃないかって・・」
「馬鹿な。他に道など・・」
「フォウル」

フォウルの言葉を遮って、リュウが手を差し伸べる。

「一緒に世界を見て来よう」

一緒に・・?

もマミさんも皆もいる。だからもう分かってるとは思うけどさ。
ヒトは弱くて、愚かで、矛盾に満ちて・・・・でも美しいものなんだって事、もう一度見て来よう」
「良いなぁ、アタシも一緒に行きたい」
「うん!も一緒に行こう」

リュウは笑顔。アタシも同じ笑顔。
それにフォウルも少しだけ困ったように笑った。穏やかな、本当に優しい顔。

「全く──愚かな半身と・・我が友だな」

あ、ガーディアンじゃなくて友達って言ってくれた。
やった!嬉しいなぁ。久しぶり?初めて?って位だよね。

「マミ」

リュウの手をとる前に、フォウルの視線がマミに向く。

「・・・・すまなかったな。
お前に出逢えて良かった、ありがとう」
「お・・おら・・・」

ありがとう、なんて本当に滅多にも聞けない言葉。
ビックリしてたらフォウルがリュウの手をとって・・・また光。眩しい・・ってコレ何回目だっけ?
多分、融合するんだよね?2人で見に行くんじゃなかったの?あれ??
何て考えてたら、立っていたのは・・・・リュウの方。金色の髪をしたリュウの姿。
分かる、先程と変わっているけどこれも主のお姿。

「・・・・・リュウ?」

何て言葉をかけて良いのか分からないってニーナの声。

「そうだよ、ニーナ。でも、フォウルでもある」
「髪の、色が・・・」
「これで全て終わったんだな・・?」

確認するようなクレイの言葉。だけど、主は首を横に振った。

「・・・・まだだよ。今ならフォウルの言っていた事が分かる。
やっぱり、うつろわざるものはこの世界に相容れないものなんだって」
「そ、んな・・・まさか、リュウ!ヒトを・・・!!」
「違うよ」

主は首を横に振られる。もうヒトを滅ぼそうなんて考えは少しも無いって分かる。アタシにも。
だってリュウもフォウルも考えてないもん、そんな事。大切なヒトがいるこの世界を滅ぼそうなんて・・・。

「世界はヒトのもので、必要ないのは僕達うつろわざるものの方だ。
還るべきなんだ、全て・・・」

それが主の出された答えなんですね?

「ディース。今なら元の世界に還してあげられるけど・・・どうする?」
『止めておくよ。これからヒトがどうなるのか見届けたいし・・ヨロイの中も慣れたら居心地良いしね』
「マスター!ずっと一緒なんですね!!」
『うるさいよ!』

ディースの言葉が頭に響くみたいに聞こえてきて、でもちょっと楽しい。
主も何だか嬉しそうに“分かったよ”って答えて・・・・これでお別れなんだよね。寂しいなぁ。

「・・・リュウ」

ニーナが、リュウの名前を呼ぶ。

「今までありがとう。
皆に出会えて、旅をしてこれて本当に良かった」

羽ばたく音。主の竜が舞い降りてきて・・・そろそろ行かれるんですよね?勿論、お供します。
だってほらアタシは貴方様のガーディアンで、お友達だから・・・ね!

「いや・・嫌です!行かないでっ!!」

ニーナは叫ぶ。不意に袖を引っ張る感覚がして、そっちを見たら・・不安そうなマミの顔。

・・兄ちゃんは、もういないだか?もう・・会えんのじゃろうか?」
「ううん、いるよ。大切なマミを置いていったりしない。
大丈夫きっとまた会えるから」

フォウルと一緒に会いに行く!絶対に・・約束するから。

「だから、泣かないで?マミ・・・」

ぎゅうって一度強く抱きしめて、大丈夫、大丈夫って何度も背中を優しく叩く。
やる事を全部終わったらすぐに行くと思うから。あ・・そうだ、それから。

「サイアス、マミを村まで送って貰っても良いかな?」

アタシは送ってあげれそうにないから。
そう言葉を続けたらサイアスは一度頷いてくれた。やっぱり優しいな。
本当はもっともっとずっと一緒にいたかった。暫く、お別れ・・・。



サイアスが声をかけて・・なんだろう?

「・・・い、いって・・・らっしゃい・・・」

それは帰ってきて欲しいと願う言葉。
帰ってきて欲しいから・・・言う、言葉。

「うん、行って来ます!」

“また、きっと会えるから”って主が仰られて・・うん、アタシもそう思ってる。
主の竜の手にそっと乗って、ふわり、一気に舞い上がる。身体まで軽くなったみたいな変な感覚。

大丈夫。すぐに会える。
それまでのお別れだから・・・寂しいけど、全然淋しくないよ。



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