鳥篭の夢

集う者達/2



「ったく、相変わらず無茶するなぁ。

崖の上まで移動しながら、何処か呆れたような顔でマッシュが乱暴に頭を撫でました。
先程のカイエンさんとのやり取りの事を言っているのは明白で、それに私は苦笑で返します。

「でもカイエンさんが心配でしたから」
「気持ちは分かるが、怪我したらどうするつもりだったんだ?」
「え。マッシュが助けてくれるでしょう?」

その時は。
・・・・・・なんて。それは軽い冗談のつもりで口にしたのですが。
当の本人は驚いたように瞠目してから、照れたのを誤魔化すようにわしわしと私の頭を更に撫でます。

「まぁ、それはそうなんだが・・」
「本当ですか?それなら良かったです」
「いや。良くはないぞ」

“自分でも気を付けてくれ”なんて少しだけ拗ねたような顔。
それに私はくすくすと笑いながら、ぐしゃぐしゃになった髪を手で梳かしました。
本当は冗談でしたが・・・そう返して頂けるととても嬉しいものですね。
と、不意にティナの足が止まったのが視界に入ります。

「すみません、ちょっと行ってきますね」
「ん?・・・ああ」

柔らかく笑んで送り出してくれるマッシュを後に、私はティナへと近付きました。

「大丈夫ですか?ティナ」
「あ。ええ・・大丈夫」

言い淀んで、それからティナは私へと目線を合わせました。

は、私に近いのね」
「近い・・・?」
「魔りょ・・・あ、いいえ。あの・・・」

もごもごと言葉を口の中で転がして、ああ・・約束を守ってくださっているんですね。

「そうですね。この力は私が元々持ち得るものですから。
・・・セリスさんは違っていたんですね?」

先程お話しされていたようですから。
言葉にティナはひとつ頷きます。

「人工的に植え込まれたと言っていたわ」
「そう、ですか・・・」

人工的な魔導士・・・私達サマサの村の祖先と似てますね。着実に歴史を繰り返しているような。
いえ、だからこそこれ以上力をつけない為にも妨害するのでしょうが。

は・・・・・・」

言いかけて、ティナは何度か首を横に振りました。

「何でもないわ」

何でもない、という顔には見えないのですけれどね?

「ティナ・・また心がツラくなってませんか?
今回はクッキーがないので飴ですけど。良ければどうぞ」

モブリズで購入した物ですが。

「・・・ありがとう、
「ガウガウ!いいにおいっ!っ!おいらもっ!!」
「ひゃっ!」
っ!?」

上からずっしりと乗られて少し驚きましたが・・・いえ、大丈夫ですよ?ティナ。
ガウが突然来るのはそろそろ何時もの事になってきてますから。だいぶ慣れましたし。

「はい。ガウもどうぞ」
「あめ、うまい!ガウー」

にこにこと飴を頬張る姿に、初めは怪訝にしていたティナもくすくすと笑いました。
挙動が可愛いですよね?ガウは。

「がう?」

まぁ、当の本人はきっと良くは分かってないのでしょうけれど。
それにしても───

「流石に崖近くまで来たら少し寒いですね」
「そうね」

後は幻獣が近いからか少し強めの圧迫感が出てきましたか。
久しぶりの感覚ですね。戦いが始まる前には薬を飲んでおかないと・・・。

「ガウ。、ぬくぬく」
「ガウ用に靴とかコートとか持ってくれば良かったですかね?」

当然のように私に引っ付いて暖をとってますけれど。
提案に、ガウは心底嫌な顔をしました。

「ウウ・・・ふく、くつ、おいらにがてだ」

“ぎゅーってなる”という主張に苦笑しつつ。
今、私がぎゅーってなってますからね?ガウ。主に首が・・・ぐぇ。

で暖まるなよ、ガウ」
「がう?」

マッシュがガウをひっぺがすとやっと首が楽になります。流石に絞まるかと思いました。
と、それにエドガーさんがくつくつと楽しそうに笑います。

「仲が良いのは素晴らしい事だが、そろそろ作戦会議を始めても良いかい?」

言葉に私達は頷きました。

「・・・とはいえ、ケフカは魔導士ですから近付くのは容易ではないですよね?」
はケフカが魔導士だと知っていたのかい?」
「はい。一応・・・ドマで・・・」

交戦したという程の事でもありませんでしたが、本人が魔法を使ってましたからね。

「ならば話は早い。
それにガードの報告によるとケフカは結構な数の兵士を連れているらしい。
ガード達は万が一の為にナルシェの守りに徹している。人数では此方が不利だな」
「じゃあどうするんだ?」

マッシュの問いにエドガーさんは、眼前へと視線を向けます。

「此方は地の利を使おう。
幸い、ここら辺は入り組んだ地形をしている。おかげで数で圧倒される事はないだろう。
3つにメンバーを分けて帝国軍を迎え撃つ」
「3つ・・・ですか?」

首を傾げる私にエドガーさんは一度頷きました。

「ロックとティナとセリス。とガウとカイエン。マッシュと私だ。
まずは達で進軍する兵士達を引き付け、討伐してもらう。
ガウに関しては共に行動していた君達であれば特に問題は無いだろう。
それにカイエンがドマの戦士・・・サムライであるならば、実力として申し分ない事は理解している。
は薬による回復など、彼らの補助をメインにしてやってくれ」
「心得た」
「了解です」
「あばれるか?ガウ、あばれていいか??」

いえ、暴れるのはもう少し待っててくださいね。

「私とマッシュは達の取りこぼしを迎え撃ちつつバナン様の警護だ。
幻獣の元へ奴らをたどり着かせる訳にはいかないからな。確実に片付ける」
「任せとけ!」

拳を掌に打ち付けて、マッシュはニッと笑います。

「そしてロック達はケフカの殲滅を狙う。
魔導士1人に対してこちらが2人で対処すればいくらケフカとてただでは済まないだろう。
ロックは陽動がメインだ。危険だが、その分ティナ達も魔法が使いやすくなるだろう。
ティナとセリスはその隙にケフカに魔法を放てば良い」
「おう、了解だ!」
「奴の魔法に関しては、私の魔封剣で対処可能だ。あらゆる魔法を封じられるからな。
ただしその間は私自身が無防備になるから注意が必要ではあるが」

魔封剣・・・初めて聞きました。魔法を封じれるなんて凄い能力があるんですね。
サイレスとは違うのでしょうか?・・・・・・ええと、あれ?でも・・。

「あらゆる魔法・・・という事は、魔法を封じる対象は選べませんか?
もし敵味方関係なく全体効果であれば、ティナの魔法も封じちゃいませんかね?」

サイレスであれば対象は1人だけなのですが。
青魔法しかり、特殊な魔法は全体がけなんて事もありますからね。
言葉に、セリスさんは一度半眼になると頷きました。

「そうだな。私の魔封剣は一定範囲内で起こる全ての魔法を封じるものだ。
他の魔導士と組む事がなかったから気に留めた事も無かったが・・・。
確かに上手くタイミングをずらさなければティナの魔法ごと封じかねないな」
「ふむ。ではメンバーを変えよう。魔法を封じられる利点は大きい。
マッシュとティナを交代して、セリスが魔法を封じている隙に2人で一気に叩く」

マッシュとロックが大きく頷いて・・・それはそれで少し心配ですけれどね。
あの時対峙した際に持っていた事を考えれば、ケフカは剣も使えるでしょうし。
魔法を封じておしまい・・・とはいかなさそうではありますが。

しかし、正直に言えば・・・私、ケフカに目をつけられているんですよね?あの流れはきっと。
あまり顔を会わせたいとは思いませんからこのメンバー構成は助かる気持ちも少しだけあります。

「では各自配置に着き、帝国軍を迎え撃つぞ!」
「「「「おう!」」」」
「「はいっ!」」

エドガーさんの言葉で、私達は各々の配置に着きます。
さて、忘れずに薬を飲まないと。幻獣と魔導士・・・少し多めに飲みますか。念の為。
ガウが興味津々に見てますが・・・美味しくないですからね?これは。薬ですからね、ガウ。
と、カイエンさんが神妙な面持ちで私達の前へと立ちました。

殿、ガウ殿。先程は失礼した」
「がう?」
「先程ですか?」

言われて・・・ああ、セリスさんとの!

「おいら、なんかあったか?」
「ふふ、ガウはもう忘れちゃってますね。
私の事もどうか気になさらないでください。寧ろ出すぎた真似をしてしまいましたから」
「それでも拙者がお二方に助けられたことは事実でござる。
あと少しで怨恨でのみ動く愚者に成り果てるところでござった。本当に面目ない」
「いいえ。それにカイエンさんは大切な仲間ですから」
「なかま、なかま!」

“ねー”と明るく顔を見合わせれば、カイエンさんは優しい笑みを浮かべてくれました。

「恩にきるでござるよ。お二方」

いいえ。私達はカイエンさんが笑顔でいてくれた方が嬉しいだけですよ。
と。いち早くガウが何かに気付いたと、視線を向けました。

「ガウウ・・・!」
「足音・・・ですかね」

それも結構な数の。

「皆、来るぞ!」

高い場所からロックの声が聞こえて・・・とん、と軽い調子で着地します。とても身軽なんですね。
ケフカに見付かりたくはないので物陰に隠れながら様子を窺えば、相変わらずの極彩色の衣装が目に飛び込みました。
本当にああいうのがお好きなんですね。

「おやおや、ガード達ではなくリターナーのお出ましとは。
どうやらナルシェは中立を止めてそちらの側についたという事ですね?」

“ならば手加減の必要もないでしょう”なんて、心にも無いであろう言葉を笑顔で続けます。
パチン、と指を鳴らせば沢山の兵士達がケフカの前に整列しました。

「ゆけ!虫けら共を蹴散らせ!」

ときの声を上げて、兵士達の足音が聞こえます。
戦闘開始・・・ですね。流石に緊張しますが頑張りましょうか。

「では作戦通りに、頼むぞ皆!」

エドガーさんの声が響いて、私やカイエンさんも剣を抜きます。

「では、私達は大暴れと行きましょう。
ガウ、今回は好きなだけ暴れても大丈夫ですよ」
「ガウ、ガウっ!!」
「ドマ王国戦士、カイエン・・・参る!」

ガウとカイエンさんがいち早く攻撃を開始して行きます。

私達の役割は兵士を引き寄せてからの討伐。
それは結果としてロック達が進軍する為の導線の確保にもなりますから気合いを入れないとですね。
・・・とはいえ。

「ぬおおおおおっ!必殺剣、舞!」
「ガウガウっ!」

お2人がとてもお強いので私は本当に補佐ポジションですかね?
合間に回復薬を使うか、すり抜けて来た敵を倒すか。その程度で大変申し訳ないですけれど。
あんまり近づくとお2人に巻き込まれそうですから、距離感は大切です。

「よし、行くぞ!」

背後から響くロックの声。
かなりの兵士を倒したのを確認してか、進路が確保できたのかロック達が脇を抜けていきます。
と、ケフカに着く直前に巨大な“何か”が3人の前に立ちはだかりました。
魔獣・・・でしょうか?あれは。頭に何かが乗ってますが、それに兵士が騎乗していますね。

「ガウ」
「がう?どーした?」

呼べば、ガウは大暴れしていた動きを止めてキョトンとした顔を私に見せてくれました。

「一瞬だけ。あの敵の注意を引き付けられますか?
なかなか強そうですから、皆さんをケフカとの戦いの前に消耗させる訳にはいきません」
「がうー、わかった!」
「出来ればマッシュ達を少し離れた場所に。ガウもすぐ避難してくださいね」
「ガウ、まかせろ!」

素早く駆け抜けるガウに・・ガウは速すぎるから、私も少し焦りますが。
鞄から1つ取り出したその薬品の蓋に手をかけて───チャンスは一度ですよ、私!

殿、それは?」
「これは───投げますっ!」

ガウが魔獣に体当たりをして、騎乗している方共々バランスが崩れます。
そのままガウが身を翻してマッシュ達へと向かおうとするその瞬間、私は薬品の蓋を開けて力一杯に投げつけました。


────ッドォン!!!


爆発音。炎と同時に黒煙が上がって・・・・・・わぁー、予想以上の爆発ですね。うん。
確認するまでもなく敵は倒せましたが・・・改良しないと駄目ですね、これは。

殿・・・今のは何だったのでござるか?」
「いやぁ、試作していた爆薬なのですが・・・凄い威力ですね」

皆さん、ご無事ですよね?
考えていればガウは行きと同じく猛スピードで私の元へと走る────とぉっ?!
そのまま私に、衝撃は凄いけれど決して痛くない絶妙な体当たりをしてきました。

っ!おいら、じょーずだったか?」
「はい。とてもお上手でしたよ、ありがとうございます」

よしよしと頭を撫でれば、嬉しそうな顔。ああ、ガウは可愛いですねぇ。
・・・と、そうではなくて。見れば、やや巻き込まれて煤けたらしいケフカはヒステリックに何か叫んでますね。早口過ぎて聞き取れませんが。
その隙をついてセリスさんが一撃入れようと剣を幾度か振りますが、それを軽く往なされています。
やはり剣も使いますか。しかもなかなか実力があると言いますか、躊躇いがないといいますか。手強いお相手なのは遠目でも分かります。

「ほー・・・。裏切り者のセリス将軍が・・・まさかリターナーと共にいるとは。
丁度良い、まとめて始末してあげましょう!」

ケフカの何処か上機嫌な声を背後に、残りの兵士を一掃すべく私達も動き出します・・・。
気になりはしますが今は自分の役割をこなすのが先ですからね。
とにかくと近くの兵士に睡眠薬を投げつけたり、向かう兵士に剣で応戦したりしていきます。

「こちらはあらかた片付いたでござるな」
「ですね。怖じ気づいて逃げた兵士もいますし・・・」
「ガウ!いっぱいあばれた!」

凄い満足そうですね、ガウ。
ちらと、やはり気になるマッシュ達へと視線を向ければ・・・むむ、消耗してますか。

「・・・すみません。カイエンさん、ガウ。
少しお2人だけでお願いしても良いですか?」
「む。構わぬが・・・」
「ロック達の回復が間に合って無いようなので行ってきますね」
、ひとりへーきか?」
「はい。ガウはカイエンさんの言う事をちゃんと聞くんですよ?」
「ガウ、できる!まかせろ!」

念の為、こちらを。とポーションを幾つかカイエンさんに渡して私は駆け出しました。



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