鳥篭の夢

集う者達/3



走りつつ戦いを観察しますが、どうもケフカはセリスさんの魔封剣と魔法を警戒しているようですね。
魔封剣を使われればそれだけでケフカに隙は生まれるでしょうから。それを避けているのでしょう。
セリスさんが魔法を使おうと詠唱を始めれば、同じく詠唱を返して魔封剣を使う動きに変えさせている。嫌な攻撃の仕方です。
こうしてみるとやはりティナが一緒の方が良かったかもしれませんが・・多分、その時はまた対応されるのでしょう。

「っく!!」
「セリス!!」

大きく振り下ろされた剣をロックが短剣で受け止めます。
が、そのまま追撃での容赦ない蹴りが腹部に見事入りました。
セリスさんごと吹っ飛んで・・・嫌な音がしましたから、何処か思い切り打ち付けたのかもしれません。
どうやら気絶してしまったのかお2人共動かないですね。

「全く、手間取らせてくれましたがこれでお仕舞いにしましょう」

嘲笑う声。紡がれる詠唱。マッシュに向けて伸ばされた手。
そうですね、魔法を受けた事の無い人であれば確かに初期魔法でも多大なダメージになるでしょう。
幾ら私の放電を浴びた事があっても、あれは一応害するつもりで放っている訳ではありませんから。
ですが────

そんな事、させませんよ。

「リフレク」

咄嗟に自分に唱えて、マッシュとの間に割って入ります。
良かった。ギリギリ間に合いました。

「な・・・っ!?」

直後に放たれたサンダーは私の前で弾かれてそのままケフカへと直撃しました・・・が、大したダメージではないでしょう。
前回のあの放電よりも、もっと威力としては弱いですから。

「く、くくく・・・」

笑い声。勿論、ケフカの・・・。

「くはははっ!まさかっ、まさかまさかまさかっ!
こんな所でまたお逢い出来るとは夢にも思いませんでしたよ!名も知らぬ魔導の娘ぇっ!!」

怖っ!?やはりヤバい方のお相手とか本当に無理ですっ。
マッシュが危なくなければ絶対に矢面に出るなんてしませんでしたからねっ!!本当はこっそり回復する予定でしたのに!
恐怖心と戦いながらも鞄から薬瓶を2つ取り出して、マッシュに投げて寄越します。

「っと。これは・・・」
「ポーションにフェニックスの尾を混ぜたものです」

前にもお話しした気がしますが。

「・・・何か増えてないか?」
「増やしたんです!何があるか分かりませんから!!それよりお2人にお願いします。
したくないですが、私はほんの少しだけあの方のお相手をしますので」
「まさか力を?!」
「あの方にはもうバレています。それより早く!」

私の言葉に漸くと動いたのが見えて・・・なら、もう大丈夫ですね。
改めて私は楽しそうに笑い続けるケフカへと視線を向けました。

「コソコソと何を無駄な事を・・・。
それよりも先程の力は一体何か伺ってもよろしいでしょうか?」
「何の事ですか?」

とぼけて見せれば、ケフカはニィと口の端を吊り上げて笑みを浮かべます。
早口の詠唱。長く紡がれるそれは初級魔法では無いでしょう。
とは言え、ただの魔法である限り何も怖くはありませんが。

「貴女のそのっ、魔法ですよっ!!───ブリザラぁっ!!!」
「あら、ご存知無いですか?」

魔力そのものを跳ね返すこの魔法を。
私の親友────カーバンクルの得意魔法を。

「今の世の中では本来、使い途の無い魔法ですよ」

見えない光の壁は、私へ向けられたブリザラの“魔法”そのものを跳ね返します。
魔法に拘ったのが仇になりましたね。そのままケフカは氷漬けになってしまいました。

「っぐぅ・・・!」
「サンダラ!」

追加でサンダラも放てば、身動きが取れないケフカはそのまま直撃を受けます。
暫くは動けないでしょう。流石に、今度こそ直撃させましたからね。

「・・・貴様が魔法を使う事もだが・・・何だ、その出鱈目な効果は」
「あら。帝国では本当に知られてないんですか?」

そうしたら使うのは早計でしたでしょうか?
まぁでも全滅の危機でしたし。判断ミスでは無い・・・筈、です。多分。
セリスさんはキッと私へと鋭い視線を向けますが、今は説明している場合でもありませんし。
それよりお2人共、外傷は治ってるようですね?ならば一安心です。

「ありがとうございました、マッシュ」
「いや。こっちこそ助かった」
「・・・・・・って。いや、ちょっと待て。何でが魔法を??」

混乱するロックにあえて、はて?と首を傾げて見せます。

「一体何の事でしょう?」
「今更とぼけるのかよ!」
「あはは、冗談です。しかし・・・」

1人傷だらけのマッシュへとケアルラをかけて癒します。
これで皆さん怪我は全て治りましたよね?確認して、私は笑みを向けました。

「詳しくはまた後程。
寧ろ、私はガウとカイエンさんのチームに戻っても良いですか?」

もう大丈夫ですよね?私がいなくても何とかなりますよね?

「いや。それだけ強いならが相手しろよー」
「え。嫌ですよ。今回は向こうが魔法に拘っていたから何とかなっただけで・・・」

普通に戦えばただでは済みませんからね?絶対に。
ロックは何て恐ろしい事を仰いますかね。


「ぁー・・・何故だ」

ゾッとする、地を這うような低い声。

「此処から離れるのは無しにしておけ、。何かアイツ、ヤバいぞ」
「そのようですね」

マッシュが私の前に出てケフカから隠してくださいますが・・・。
雰囲気が。見なくても凄い怖いのですけれど。

「何故私ではない。こんな小娘ばかりが何故魔導の力を持ち得る。
何故私の力がこんな魔法に。あんな魔法は識らない。まだだ。足りない。まだ足りない。力が欲しい。憎い。羨ましい。どうすれば手にはいる。
ああ、やはり。やはりやはりやはり───っ!」

素早い詠唱。直後、ケアルラを使ったケフカの傷が一気に癒えました。
流石にそう簡単には終わりませんか。
何処か恍惚とした表情。生理的嫌悪を催す笑み。私だけを捉える・・・。

「やはり、先ずは貴女を手に入れるところから考えましょう。
貴女を使えばその身に宿す魔導の力も私だけのものになる!」
「んな事させるか!」

マッシュがいち早く駆け出して、ケフカに肉薄します。
とはいえ剣を抜いたままのケフカは逆に迎撃の構えで、容赦なく振り上げられた斬擊を何とか装備していた爪で引っかけて止めましたが・・・。
危ないですね。口元が小さく動いていて・・・あれは、詠唱ですかっ!

「セリスさんっ!」
「ああ、任せておけ!」

「ブリザド!」

直後にケフカがブリザドを唱えますが、それは高く掲げられたセリスさんの剣へと吸い込まれて消えました。

「全く、忌々し───っ!?」
「これでも喰らえ!───メテオストライク!」

ケフカを掴んだマッシュは空へと高く跳び上がると、そのまま地面へとケフカを叩きつけます。
・・・うわ、ゴキッて音がしましたよね?今。
着地したマッシュはそのまま距離をとりますが・・いやいや、あの音で何で起き上がれるのでしょう?痛覚が無いのでしょうか?

「・・・これで勝ったと思うなよ!」

雪と血に濡れた顔。血反吐を地面へと吐き捨て、それからケフカは楽しそうに笑います。

「貴女がリターナーに属している事は分かりました。
今回はそれが知れただけでも僥倖だとしましょうか。
“次”にお逢い出来る時を切に待たせて頂きますよ────

ぞわわっ。名前を呼ばれて悪寒がしたのは初めてです。
そのままケフカは消えてしまいましたが・・・気配もありませんからバニシュでは無いのでしょう。

「テレポ・・・ですかね?」
「だろうな。逃げ足だけは早い男だ」

セリスさんの吐き捨てるような言葉に、私は深く安堵の息を吐きました。

「大丈夫か、?!」
「いや・・・ほんっとに、怖かったです」

身体は寒さとは別に震えていて、それをマッシュが抱き締めてくれます。
温かい。マッシュの体温が、まるで恐怖に捕らわれた身体を解すように、包み込むように温かくて。
暫くそうしていれば次第に震えは治まりました。・・・ああ、本当に恐ろしい人でした。

「気持ちは分からなくもないが、いちゃついてる場合じゃないだろ」
「・・・ゃっ!!ロック、何て事言うんですか!」

え、やだ。恥ずかしいっ!
いえ、確かに恥ずかしい事をしてるのは私ですけれど!

「落ち着け。放電してる。
ロックが泣きそうになってるぞ」

ぽんぽんと抱き締められたまま背中を優しく叩かれて・・・。
っは!私とした事が羞恥心を刺激されて何て事を!
道理で先程から身体が痺れてると思いました。ではなく。改めてマッシュから離れて頭を下げます。

「あの・・・ごめんなさい、ロック」
「いや。俺もからかって悪かったよ」

って言いながらも涙目のまま震えてますけれどね?ロック。
いや、あの・・・本当に申し訳ありませんでした。

「というか、マッシュは何で平気なんだ?」
「あー。俺は慣れてるからなぁ」
「慣れてるって・・・」

“あの電撃をか・・・?”なんて青ざめてますけれど。
ちょっと、そんな悪魔を見るような目で私を見ないでくださいっ!


「皆、無事か!」
「兄貴!」

後ろからはティナとバナン様の姿もありますね。
ガウとカイエンさんもいらっしゃって。ああ、誰も大きな怪我をしていないようで一安心です。

「兵士達が突如として消えたが、心当たりは?
・・・・・・ロック大丈夫か?」

顔色の悪いロックに真剣に心配するエドガーさんの表情。

「いや、これはが──」
「何でもありません。
ケフカが撤退する時にどうやら魔法を使ったようなので、兵士が消えたのはそのせいかと」
「そうか・・・」

ロックの怪訝そうな顔。でもまだ気付かれていないのであれば、言わない方が良いですから。
それにどうせ知られてしまうなら、自分の口から言いたいですし。

「悪い、兄貴。みすみすケフカを逃がしてしまった」
「撤退させる事には成功したんだ。問題はない。
後は幻獣が無事かどうかの確認をするべきだろう」
「わしは長老に、帝国軍が撤退した事を伝えてこよう。
氷漬けの幻獣の確認は任せたぞ」

あ。ご一緒されないんですね?なんて頭の端で考えましたが。それは置いといて。
私達は崖の上にいる氷漬けの幻獣の元へと足を運んだのでした。



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