鳥篭の夢

集う者達/4



、大丈夫?何だか顔色が・・・」
「いえ。大丈夫ですよ。やはり山登りは疲れますからね」
「そう・・・?」

やはりと言いますか。予想していた事ではありますが、近付く程に身体が圧迫されるような感覚。
事前に薬は飲みましたから酷くはないですが・・・・眼前に在る氷漬けになったそれは本当に幻獣なのでしょう。
そう言われればカーバンクルと一緒に遊んでいた頃位の圧はありますし。
何でしょう?遠目には鳥のようにも、蛇のようにも見えますね。

「氷漬けの幻獣は無事か・・・・」
「それにしても・・・生きているようでござるな」
「まさか・・・?」

カイエンさんの言葉にマッシュが返しますが・・・生きてますよね、この幻獣。
だって本来幻獣は肉体が死ねば魔石になりますから。カーバンクルもそう話してましたし。
封印みたいなものでしょうか?可能性はあります。

「・・・っ」
「ティナ?」

じり、と私の前にいたティナが後退り、私の肩にぶつかりました。

「ぁ、・・ごめ、なさ・・・」

青ざめて見える顔。震える声と、身体。一目で尋常ではない事態だと分かります。

「ティナ!」
「ティナ、どうした!!」

ロックは慌てて駆け寄るとティナの両肩を掴みますが、それとほぼ同時にティナからは青い光が溢れ出て───っ。

「ロック!?」

ロックの身体が宙に浮くと、そのまま崖へと弾かれました。
間一髪、セリスさんが助けてくださったのでロックは平気でしたが・・・流石に私も今の魔法は見た事も聞いた事もないのですけれど。
いえ、もしかしたら魔法ではなくて魔導の力の暴走・・・?

「ティナ!大丈夫ですか?一度、深呼吸をしてみましょう」

まるで過呼吸になったように浅い呼吸を繰り返すティナに声を掛けますが、もしかして聞こえてないですかね?
視線はずっと氷漬けの幻獣へと向いていて、ゆっくりと幻獣に向かって足が出ています。

「ティナ、落ち着け!」
「大丈夫か?」

心配そうに皆さん集まって来てますが、また青い光がティナから溢れ出て・・・。
あ、これ。さっきの!?

「ティナ、駄目です!」


「いやぁっ!!」


衝撃。強い魔導の力がまるで衝撃波のように広がって各々が吹き飛ばされました。勿論、私も。
ざりざりと地面に身体を擦るように打ち付けて、頭も打ったのでしょう。少しくらくらします。

断続的な青い光が辺りを覆いながら、何か・・・何でしょう?
まるで魔導の力が通じ合うようなソレは・・・。

「幻獣とティナが・・・」
「反応しているというのか・・・?」

あれが、反応?

「何っ、この感覚!?
・・・・・・ぇ?何、今なんて・・・!」

何も私には聞こえませんが。やはりそれが反応するという事なのでしょう。
でも双方に通じているというより魔導の力はまるでティナに一方的に送られているようにも見えて。
それは私が魔導の力の影響を受けやすいから余計にそう思うのでしょうが・・・。
とても恐ろしい事に思えて。

「ねぇ、教えて!私は誰?誰なの!」

「ティナ・・・!」
「幻獣から・・・離れろ・・・」

このまま放って良いとは思えなくて、ケアルを自身に唱えて私は無理やり身体を起こします。
ケアルラにすれば良かったですね、まだあちこち痛いですが。立ち上がろうと───。


『あいつ、寝惚けてやがるな。しゃあねぇ!』


小さい鞄から溢れる光。ずっと昔に何時も聞いていた、その声、は・・・。

「ぇ、何で・・・?」

、俺達から離れとけよな!』

“後、薬も飲め”と笑顔で続けて、氷漬けの幻獣とティナの間に割って入りました。
いや。私はそれよりも何故に姿を見せて喋れるのかを聞きたいのですけれど?カーバンクル。

『ったく。お前も方々に迷惑かけてんなよ』
「ぁ・・・あ・・・、わたし・・・私は・・・・何・・?」

ふるふると震えて、ティナは膝をつきました。

『アイツめ。無理やり力を呼び覚ましたな?
おい。お前、気をしっかり持て!このままじゃ力が暴走するぞ!!』
「ぼう・・・そう・・・?」
『力をコントロールしろ!この世界じゃ扱いにくい気持ちは分かるけどな。
気を落ち着かせりゃ、完全とはいかなくても何とか・・・』
「私・・・は、人じゃ、ないの?」
『お前の出生までは俺も知らねぇよ。自分で探せ。
ただ・・・俺達の同類にしちゃあ何処かが違う。それは事実だ』
「じゃあ・・・っ!」

それはまるで悲鳴のような。

「それなら・・・・・私は一体、何なのっ?!」

今にも泣きそうな、震える声。
青い光が辺り一面を覆う程に広がって、余りの眩しさに思わず目を閉じました。

『ぁ・・・ぁあ・・・っ』

まるで悲痛な声音。目を開けた先にいたのは、ティナでは無くて・・・いいえ、ティナ、ですか?
ふわふわとした淡いピンク色の被毛に包まれた、常とは違うけれど雰囲気までは変わっていなくて。

「ティナ?」
・・・っ』

怯えるような表情は、カーバンクルと出会った頃を思い出しました。
あの子も初めて会った時はあんな顔をしてましたものね。
だから安心させたくて。助けたくて。大丈夫なのだと伝えたくて、私は駆け出しました。
ティナの辺りに魔導の力が飛び散っているのは・・えぇ、私も身に覚えがありますけれど。

『っ!近づくな、!!』
「嫌です。それは聞けません」

こんなにも、ツラそうにしているティナがいるのですから。
ぎゅうっと潰さない程度に強く抱き締めて、背中を優しくとんとんと叩きます。
魔導の力がバシバシ当たって痛いですが・・・マッシュも何時もこんな感じなのかもしれません。

「よしよし、大丈夫ですよ。ティナ。
深呼吸して。私も側にいます・・・ね?もう怖くありませんからね」
・・・・・・私・・・っ』
「はい」
『私、貴女と同じだと思ってた。魔導の力があって、魔法が使えて・・・!
私は1人じゃないって言ってくれたから!だから・・・だけど・・、だけどこれじゃあ・・・っ!!』

“まるで違う生き物になってしまう”と、消え入りそうな声で続けました。
不安ですよね。私もティナが一体何者かは分かりませんし、寄り添う位しか出来ませんが。

「こほっ」

圧迫感・・身体を内から押し潰そうとする感覚。それに無意識に咳が1つ。
そうだ、カーバンクルに薬を飲めと言われていたのに忘れてましたね。
限界が近いのでしょうが・・それでも今は弱音を吐く訳にはいきません。
もう少し。もう少しだけもってください、私の身体っ。

・・・?』
「いえ、大丈夫です。
ねぇ、ティナ。きっと貴女がどんな存在なのか、知っている方がいると思うんです。
何処か分からなくても、もし見つけられれば、きっと・・・ティナの・・・ごほっごほ」

ティナの事も、分かる筈で。
その力を持った意味も、私達とは違う姿になれる理由も。きっと・・・。
伝えたくて、でも気管に上手く空気が入らなくて、ただ幾度も噎せます。

っ!!?』
『言わんこっちゃねぇ!俺達から離れろ、。死ぬぞ!』

カーバンクルの言葉に、ティナの身体が震えました。
ああ、そうですよね。怖いですよね。ティナは何時だって、誰かを害したい訳ではないですから。
本当に本当に、優しい普通の女の子ですから。すみません、そこまで気が回らなくて・・・。
安心させたかった筈なのに、焦ってしまって・・・。失敗してしまいましたね。

『ゃ・・いや・・・・・・いやぁっ!!』

私から距離を取ってふわりとその身体が浮くと、ティナは猛スピードで空へと飛翔しました。
あ・・・も、駄目ですね。呼吸困難。上手く、息が出来なくて、圧迫感が・・・。
カーバンクルに、何故無事な姿でいるのかも問い詰めたいのですけれど。

『っくそ。えーっと・・・・・お前・・いや違うな。こっちか!』
「ぇ・・うわっ!?」
『あー、何だっけか?名前。まぁいいや。とにかく久しぶりだな。
がそこで死にかけてるから薬を飲ませといてくれ。
俺じゃ触れないし、そろそろ時間切れだ』
「いや、それは分かったが・・・」
『おう、そんじゃ頼むな!』

声だけのやり取りは聞こえて、しかし目線を向けるだけの余力はありません。
一体何がどうなっているのやら。霞む思考と同時に胃が熱くなってごぼりと血を吐きました。

、鞄の中漁るぞ!・・・飲めるか?」

蓋を開けて渡されたソレに何度も頷いて。
口の中の血を全部吐き出してから薬を喉へと押し込みました。
圧迫感がみるみる内に引いていって、何度か咳き込めばやっと空気が入ってきて、何とか・・・。
その間ずっと背中を擦っていただいて・・・ああ、またご迷惑をかけましたね。

「ありがとうございます、マッシュ。本当に助かりました」

あと少しで死ぬ所でした。冗談抜きで。

「もう平気か?」
「はい。幻獣はどうしても魔導の力に依ってますから調子がいまいち・・・」

カーバンクルに言われた時も動揺して飲みませんでしたし。まぁ私が悪いのですが。
そういえばカーバンクルの姿がありませんね?また石に戻ってしまったのでしょうか??
・・・って、ぇ?!唐突に両頬を掴まれて、無理やりマッシュの方を向かされましたが。あの・・・?

、目が・・」

ぽつり。呟くようなマッシュの言葉。ああ・・・。

「青くなりましたか?」

言葉にびくりと僅かに身体が震えて。この方はどれだけ私の事情を知っているのでしょう?
情報発信源は両親でしょうから確かめようもありませんし。

「・・・少しだけ、縁の青みが強くなってる」
「ならばまだ大丈夫です。
マッシュのおかげで薬も飲めましたから、このままであれば何ともありませんよ」
「・・・そうか・・・・」

ホッと息を吐く姿。・・・やはり目の事は知ってますか。
“目が青に染まれば死んでしまう”
それは私も祖母から聞かされてきましたから。
だから決して無理をしてはいけない、とも。

「それより今は皆さんを助けないと!」
「・・・ああ、そうだな!」

とにかくと、私達は手分けして皆さんの手当てと救出に向かうのでした。



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