鳥篭の夢

行方を求めて/3



早朝の方が移動しやすいからと、砂漠を抜けて何とか此処までやって来ました。
寝起きすぐにセリスさんやロックに腕輪の件を突っ込まれたり、エドガーさんに生暖かい目で見られたり。
朝からとんでもなく気恥ずかしい思いで放電直前でしたが・・・マッシュのおかげで助かりました。

さて。コーリンゲン、でしたか。此処で何かしらティナの情報が見つかれば良いのですが・・・。
効率が良いからと皆それぞれに散って行きましたが私はどこら辺に行きましょうかね?



不意に呼ばれて見ればロックの姿。やけに真剣な顔をされていますけれど。

「少し、付き合って貰ってもいいか?」
「はい。良いですよ」

別段、此処に詳しい訳でも無いですし。
それにきっと、この為に私をメンバーに薦めたのでしょう?なんて。言葉にはしませんが。
歩調を合わせてくれているのかゆっくりと歩くロックと共にのんびりと村を散策します。
ああ、今日もとても良い天気です。

「なぁ、
「はい」
「・・・人間って死んだら何処に行くんだろうな」

唐突な質問ですね。ええと・・・死者が行く先となれば・・・。

「やはり魔列車に乗って霊界に行くのだと思いますけど」

途中まで体験した身としては、そうお答えするより他にないのですが。

「えらい具体的だな」
「この間、乗る機会がありまして」
「乗ったのか・・・」

“マジか、本当に規格外だな”等と怯えないでいただきたいのですが。
そもそも乗る切っ掛けを作ったのは私ではなくてマッシュですからね?

「ええと。魔列車に乗った魂は、霊界で永遠の安息と安寧を手に入れる・・・でしたかね。
きっとどんな風に亡くなった方も、あちらでは心穏やかに過ごせるのでしょう」
「それなら・・・・・・俺がしている事は・・・・・」

ロック?どうしたのでしょうか?

「少し、話を聞いてくれないか?」
「勿論。構いませんよ。ただ・・・」
「ただ?」

ぼんやりしていましたか?ロック。貴方の方がそういうのは敏感かと思っていましたが・・・。
ずっと後をつけてられているような気配。背後へと視線をやれば、風に靡く金髪が視界に入りました。
見つかったと慌てるような素振りはもう誤魔化しようも無くて、思わず苦笑してしまいますが。

「セリス・・・」
「あの、2人を見かけたから・・・つい。迷惑だった?」

セリスさんがチラリとロックへと視線を向ければ、彼は首を横に振ります。

「いや。セリスも来るか?」
「・・・・・・?ええ」

真剣なロックの瞳。

「と言っても、本当に・・・俺がどうしようもない男だって話でさ。
俺は、あいつを・・・守ってやれなかった・・・・・・」

そう、前振りをしてからロックは静かに話始めました。
過去の話。ロックにはこの村に住んでいたレイチェルさんと言う恋人がいらっしゃったそうです。
だけれどトレジャーハンティング中にロックを庇って事故に遭われてしまい、記憶を無くしてしまった。
レイチェルさんの為に一度は村を離れて・・・そうして次に戻った時、レイチェルさんは帝国の攻撃によって亡くなっていたのだと。

「俺は・・・あいつを守れなかった。死ぬ直前に、記憶が戻ったという。
俺の・・・俺の名を、呼んで・・・“愛していると伝えて欲しい”と、そう言って!
俺はあの時レイチェルの側を離れるべきじゃなかった。
俺が離れたから。俺は・・・あいつを、守ってやれなかった」

握りしめた手は震えています。それはきっと自責の念が強いのでしょう。

「此処だ」

着いたのは、一軒の小さな家。
黙って扉を開けて先へ進んでしまうロックを、セリスさんと共に追いかけました。

「薬品の臭い・・・?」

独特な。何と言いますか、家中に染み付いたような、そんな臭い。
昔ちょっと保存関係であれこれ試した事がありましたが、その時の防腐剤が似たような臭いでしたか。
ただ、そう考えると先程の話と合わせてロックがしている事は・・・。
何も言わずに階段を下りていくロックについていけば、薄暗い部屋に横たわる女性の姿。

「・・・っ」

セリスさんは絶句してその女性を見つめていますが・・────やはりそうでしたか。
横たわる女性はとても綺麗な寝顔ですが、血の気のないそれは“生きていない”のだと示しています。
薬品臭。全身にしっかりと浸されたであろうソレ。腐らないように。朽ちないように。不自然な程に綺麗な姿のまま。
ああ。きっと彼女が“レイチェルさん”なのでしょう。

「おお、ロックかい?久しぶりだ!久しぶりだ!
あんたの宝物は変わらずに綺麗だろう?心配しなさんな。大事に大事にとっておりますよ」

急に出てきたお爺さん・・・いえ、気配で近付いたのは分かりましたが。
この方はご遺体を管理されてる方なのでしょうか?少し独特の雰囲気ではありますね。
“けっけっけっ”と更に独特な笑い声を響かせてレイチェルさんへと視線を向けました。

「あの時、偶然出来た例の薬で、この娘の亡骸は永遠に年を取らずにこの姿のまま・・・。
ロックの、たっての頼みとあっちゃあねぇ。薬を使わない訳にはいかないもんねぇ。
その顔じゃあ、ま~だ幻の秘宝は手に入ってないんだろう?魂を呼び戻す、かの秘宝とやらは!」
「ロック・・・」

心配そうなセリスさんの表情に、ロックは一度拳を握りしめました。

、セリス。
無茶を承知で訊くが2人の力にそういうのは無いのか?
死者の魂を呼び戻すような・・・」

言葉に、私は首を横に振りました。

「そんなものがあれば、世の中から死者はいなくなってしまいますね」
「私もそんな魔法は使えない」
「そうか・・・」

ああ、ロックは生き返らせたいんですね。レイチェルさんを。
現世に戻ってきて欲しいと。そう望んでしまうんですね。

「悪いな、変な事に付き合わせて」
「いえ」

少しだけ悲しい顔をして、ロックは階段を上がっていきました。
お爺さんに1度礼をしてから私達も上に戻りますが・・・あの薬品と独特の笑い声が残る感覚。切り離されたような異質な空間。
まぁそれはそうなのでしょう。“死ぬ”事から切り離された、時の止まったあの空間は・・・ただ、異質で歪でした。

「私、少しだけ散歩してくるわね」

扉を開けると、そう言ってセリスさんは行ってしまいました。
衝撃的ではあったでしょうね。戦場で見る遺骸とはまた違うでしょうから。

はさっき、死者は魔列車に乗って霊界へ行くと言ってたよな?」
「はい」
「そうしたら俺は、レイチェルの魂を縛りつけてしまってるんだろうか?」

呆然と呟いて、掌を眺める姿。

「私達は普段、幽霊の姿を見る事は出来ませんから・・・それは何とも」

彷徨っていても。縛られていても。とうに霊界へ逝っていても。
それを私達が知る術はありませんし。

「俺がしてる事が間違っているとは分かってるんだ。
こんな事をして、あるかも分からない秘宝なんて物を探して・・・」
「でもロックはあると信じているんでしょう?
それに何が間違いで、何が正しいかなんて誰にも分かりませんよ。
結局は自分が納得できるかどうかです」

生き返らせるなんて事は、確かに正しくはないでしょう。倫理的に見れば歪です。
生物には寿命があり、最期は死ぬのが当たり前で。それが当然の理で。
何時死んでしまうかも分からないからこそ学び、成長し、縁を繋ぎ、未来を紡いでいる。
私はそう思って生きてきましたから。
共に終焉を迎えたかったと望んだ事は有れど、誰かを生き返らせるなんて発想はありませんでしたね。

「自分の行いが、正しいかどうか。間違いだったのか否か。
それはきっとロック自身が答えを導き出さなければ意味がないでしょうから」

魂を呼び戻そうとする事をレイチェルさんが望んでいるのか否かも知りません。

「でも不幸なままではないと思いますけれどね。私は」
「え?」
「レイチェルさんは“愛している”と伝えてくださったのでしょう?
それは後悔の言葉ではないですから・・・きっと・・・」

カイエンさんの奥様も“幸せだった”と仰っていたように、レイチェルさんだって・・・。
なんて勝手に想像出来るのも生きている人間の特権でしょうけれども。

「まぁ遺される側はツラいですけれどね」

その想いをご本人に確認する事すら出来ませんし。

「俺は・・・そうだな。それでもまだ諦めきれない。
仮に不幸でなかったとして。いや、そうでないなら尚更、レイチェルを・・・俺は・・取り戻したい」
「はい。ロックはそれで良いと思いますよ」

それがロックの想いなら、確かな願いなら誰かに止められるものではないでしょうから。

「・・・には無いのか?どうしても喪いたくなかった誰かは・・・。
リターナーに協力してるって事は少なからず帝国に良い感情は無い筈だろ?」
「確かに両親の件がありますから、帝国に友好的に・・・とはいきませんが。
そも帝国自体、侵略国からの徴兵等もありますし。それに────」

両親を手にかけたのは・・・・帝国の、“常勝将軍”は・・。
ああ、駄目ですね。考えないようにしていましたが、彼女は、私の・・・・・。

?」
「・・・今は、ケフカ対策を練った方が良いかなと心の底から考えますかね」

咄嗟に言葉を返せば、とても絶妙な顔をされてしまいましたが。

「ああ、何か狙われてるもんな」
「はい、何か狙われてるんです」

困った事に。なんて続ければ、僅かに苦笑。

「だったら何かあったら俺がを守るさ」
「あ、いえ。ロックはこれ以上誰かを抱え込まない方が良いですよ。
それに私にはマッシュがいてくださいますから謹んでご辞退させていただきます」
「ノロケか」
「はい。ちょっとだけ」

言葉にされると恥ずかしいですが、ちょこっとだけノロケてみました。
でも、だから私の事まで抱え込んで欲しくないというのも本音ですよ?
答えにロックは笑って、それから身体を大きく伸ばします。

「さて。そろそろ真面目に情報収集しないとな!
・・・ティナは絶対に俺が守る!」
「是非よろしくお願いしますね」

それは本当に心強い限りです。

「話・・聞いてくれてありがとうな、
「いえ、お気にせず」

望む答えを渡せたかは分かりませんが、ロックが少しでも前に進めるならば。
ほんの少しでもそのお手伝いが出来たなら幸いですから。

さて。それから2人で情報収集をしましたが・・・。

「今のところは南のジドールへ飛んでいったってのが有力そうだな」
「みたいですね」

“光の怪物が南のジドールの方へ飛んでいった”
今まで集めた情報を要約するとこんな感じでしょうか?

「これ以上の情報は無さそうだし、合流するか」
「確か、待ち合わせは宿屋でしたね」

多分もうどなたかいらっしゃいそうな気はしますが。

「お待たせしてないと良いですねぇ」

なんて他愛ない会話と共に宿に入れば・・あら?まだ誰もいらっしゃらないみたいです。
もしかしたら買い物とかもしているのかもしれませんね。これから先も何かと入り用ですし。
奥の酒場で座って待ってましょうか?なんて席を見渡せば、見た事のある黒装束と犬の姿。

「ク────・・・っシャドウさん!」

あっっぶなかったです!滅茶苦茶怖い顔で睨まれたおかげか、何とか間違えずに済みましたが。
黒装束の奥で覗く瞳が呆れの色を含んでいます。いえいえ、それよりも・・・。

「お久しぶりです、シャドウさん。お元気そうで何よりです」
「お前は相変わらずだな」
「って、ちょっと待て、
シャドウと知り合いなのか?!何か凄いアサシンって訊いたぞ!!」
「・・・?はい。前にちょっとはぐれた時にお世話になったんですよ」

あの時は本当に助かりました───っ!と、また忘れる所でした!!

「あの、シャドウさん。前回、案内して頂いた時のお支払いを忘れてて・・・。
申し訳ないですが今でも良いですか?今なら手持ちが・・・」
「いや」

財布を出そうとすれば、その手を制されました。いや・・・?

「・・・はっ!まさか身うt」
「違う」

えー・・・残念。てっきり身内サービスかと。
というか身内すら言わせて頂けない勢いで否定しなくても良いと思いますよ?
サマサの村は皆身内みたいなものじゃないですかー。

「前回の件は金額提示もしていなかったからな。必要ない。
ただし次からは前払いで貰うぞ」
「ありがとうございます!」
「自分のミスだ。礼などいらん」

いえいえ、やはり優しいですね。

「では前払いでまたお願いしても良いですか?
今回は人を探していまして、人手は幾らあっても助かりますから」
「頼んで大丈夫なのか?!」
「え?シャドウさんお強いですし、一緒なら心強いですよ?」
「いや、そうかもしれないが・・・!」

そんな肩をガクガク揺さぶらないで欲しいです。
ぺしぺしと腕を叩けば漸く気付いたとロックは手を離してくれました。

「人探しか・・・」
「大丈夫です。今度こそちゃんと払いますから!」

「ならそれは俺が出そう、

背後からの声。振り返れば、穏やかな顔をしたエドガーさんが・・・。

「しかし流石に凄腕アサシンを警戒無く雇おうとするのは感心しないな。
せめて事前に相談して貰えると俺としても助かるのだが」

あれ?もしかして怒ってらっしゃいませんか?

「いえいえ。大丈夫です、お金なら私もありますし。
もし気にされるなら二手に別れて・・・と言う手もとれますし、ね?」
「そうだとしても───」

「お!シャドウ、元気だったか!
いやー。あん時は本当に世話になったなー」

エドガーさんの言葉を遮るように後ろから来ていたマッシュが嬉しそうに近付きます。

「是非シャドウさんに同行をお願いしようと思っているのですが」
「そりゃ良いな!シャドウが入れば百人力だろ」
「マッシュ、お前もか!」

ですよね!と、意気投合する私達にエドガーさんがツッコミを入れます。
おかしいです。ドマの件を知っていた事も含めてシャドウさんの情報網は侮れない筈。
そしてあれだけの実力者だというのに一体何がご不満なのでしょう?

「俺は別に雇われる分には一向に構わんが、どうする?」
「秘密が厳守出来るのかは確認したい。我々は今リターナーに属している。
こちらが不利になる情報が出た際に帝国側にそれが流れるのは避けたいからな」
「わざわざ秘密を触れ回る趣味はない。それに・・・」

チラリと私を一瞬だけ見て、シャドウさんはため息を吐きました。

「いや。秘密は守ろう。俺には関係の無い事だ」
「そうか」

ホッとしたようにエドガーさんは一つ息を吐きました。

「そうだな・・・人探しの手伝い程度なら犬の餌代位で引き受けてやるが。
まぁ、3000ギルってとこか?」
「是非お願いします!」
「よっしゃ!そしたらティナ探しが捗るな!」

即答する私にマッシュも続ければ、エドガーさんとロックの大きなため息が響きます。
え。何でですか?その反応は解せないのですけれども!
とにかく!と、いそいそとお財布を出そうとすれば、今度はエドガーさんに制されてしまいました。

「俺が出すと言っただろう?
義妹に出させては兄の沽券に関わるというものだ」
「我儘を通していただきましたし、充分では?」

そしてまだ義妹ではありませんし。
食い下がる私の頭を、マッシュはぽんぽんと何度か軽く叩くように撫でます。

「まあまあ。兄貴が良いって言ってんだから気にすんなよ。
ありがとな。助かるよ、兄貴」
「ああ。・・・ではシャドウ、これから暫く頼む」
「気が向いたら俺は何時でも抜けるがな」

あー・・・支払われてしまいました。
ガックリと肩を落とす私に、緩く尻尾を振るインターセプターの姿が見えて・・・慰めてくれるんですか?
ああ、可愛い可愛いインターセプター!やはり大きくなっても変わらずに良い子ですね!
なんて頭を撫でようとしたらシャドウさんに睨まれましたけれど・・・良いじゃないですか。酷い。

「そういや、インターセプターはには威嚇しないよな」

同じように手を出して噛まれかけたロックを見ながらマッシュがポツリと呟きます。
いやまぁそれは私が子犬の頃にお世話をしたからではありますが・・・。
しまった、確かに不用意に構いすぎましたか。シャドウさんも私を睨む筈ですね。流石に反省。

「俺にも分からん。警戒するにも値しないだけだろう」
「なんて酷い言い草!?それは流石に酷くないですか、シャドウさん!」

そんな“お前が悪い”みたいな目線は止めてください!
私が悪いですけれど!

「・・・え、何?何の騒ぎ?」

と、漸く到着したセリスさんを置いてきぼりに。
青ざめたロックとエドガーさんが仲裁に入る迄、笑うマッシュが見守る中で私はシャドウさんに食い下がっていたのでした。



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