鳥篭の夢

行方を求めて/4



「いや、やはりシャドウさんの情報網は侮れませんね」

“光の化け物”というワードでお伺いしましたら一発とは。
ジドールの北。ゾゾと呼ばれる町に、ティナらしき光が飛んでいったそうです。
一年のほとんどが雨らしいこの場所は今日もしとしとと雨が降っています。

「セリスもも、あんまり離れるなよ。
この町は治安も良くないからな。はぐれた瞬間、何をされるか分からないぜ」
「まぁ良い雰囲気はしないですねぇ」

そしてセリスさんのような身体のラインがしっかり出ているような服装の方は余計危ないでしょう。

「元々、此処は身分の低い者や経済的な余裕の無い者、罪人をジドールから追放した結果出来た無法地帯だからな。
自分の利益になる為ならば他人の命すら軽視するような輩ばかりだ。
他国の政治にまで口を出すつもりはないが・・・この現状を放置する様はどうにも理解しがたくはあるな」
「お引っ越し先がフィガロで本当に良かったです」

肩を竦めるエドガーさんを見ていると、しみじみと実感しますね。

「ティナも無事だと良いのですが・・・」

そんな治安の悪い場所にいるかもしれないなんて不安で仕方ありません。
ティナ・・・一体どこまで行ってしまったのでしょう?


────・・・・・・


「・・・?何でしょう?この音」
「ん?何か聞こえたか?」
「いえ。耳鳴りのような、高い音が・・・」

『誰だよ、っせぇなぁ』

鞄が光って・・・いえ、正確には中からの光ですが、機嫌悪そうな声。

「ぇ?」

またこのパターンですか?カーバンクル?!
淡い光に包まれた姿は・・・あれ、向こう側透けてません?え、前もそうでしたっけ?どうでしたっけ?
そういえばアレコレ問いただそうと思っていたのに、慌ただしくてすっかり忘れてました!

『ったく。さっきからごちゃごちゃ呼び掛けやがって!
おい、。ちょっと文句言いに行くから付き合え。俺だけじゃ跳べねぇし・・・行くぞ!』
「いや、ちょっと待ってください。急にそんな・・・」
!?」
『テレポ!』

ガクン。と、テレポ特有の負荷がかかって跳んだのだと分かります。
近くに在った“何か”が包み込んでくれたおかげで衝撃が和らぎましたが・・・ああ、流石に驚きました。
室内に跳んだのでしょう。薄暗い中でもカーバンクルの淡く光る姿がよく見えます。

「もう、カーバンクル!」
『悪ぃ悪ぃ。俺の本体は鞄の中だから流石に俺だけじゃ跳べねぇんだよ』
「それは分かりましたが!そもそも、その姿は一体何なんですか?
この10年とちょっと、一度もそんな風に出てきてくれたこと無かったじゃな───こほっ」
『ああ、ほら。お前はとにかく薬飲めって』

んん。驚きすぎて気付くのが遅くなりました。この場所、何だか魔導の力が強すぎませんか?
カーバンクルだけじゃないですよね?気付いたからか一気に圧がかかって・・・流石に苦しいです。

「ほら、。薬」
「ありがとうございます、マッ・・シュ・・・・?」
「おう。気にすんなよ」

“まぁ毎度勝手に漁ったけどな”という言葉はまぁ大丈夫です。ありがたくいただきますけれども。
が、ええと。何故ご一緒に?というかあれですか!テレポの衝撃を和らげて下さったのってマッシュでしたか!
そうですよね?現状で抱き締められてますものね!全然周りが見えてませんでした・・・ひぇ。

『お前がこんなだから出てこれねぇってんだよ。力の影響が強すぎるだろ?
ただ、ちょっと多めに飲んどけよ。いるのは俺だけじゃないみたいだしな───そうだろ?ラムウ』

ラムウ?圧迫感が消えないので薬をもう一本飲みながら視線をさ迷わせれば、何もなかった空間に一人の老人が姿を現しました。

『全く。お前は相変わらず口が悪いのう。カーバンクル』
『うっせぇ。そんな簡単に変わるかっての』

広い通路の奥。一脚の椅子に腰掛けた、長い髭を蓄えた老人・・ラムウさんは穏やかな瞳でカーバンクルを見ています。
カーバンクルのお知り合いでしょうか?幻獣のあの子に?
考えながらラムウさんの側のベッドへと視線を向けて────っ!!

「ティナっ!!」

横たわっている姿。淡くピンク色をした被毛に包まれたソレは間違いなく姿を変えたティナで。
駆け寄れば、ティナはどこか苦しそうにもがいています。

「大丈夫か?ティナ」
『ゥ・・・グゥルルル・・・・・』
「ティナ・・・ティナ、大丈夫ですからね」

手を握りしめてケアルに近い力を伝えれば、ふ・・とティナは全身の力を抜きました。
落ち着いたでしょうか?そのまま力尽きたようにティナは眠り始めます。

『ほう。あれだけ怯えておったというに・・・。
この娘はお主らの仲間か?』
「はい」
『即答するか。カーバンクルの魔石を持ち、更に彼奴に気にかけられている。
お前さんは何者じゃ?先程の力と言い、普通の人間ではあるまい』

見定める目線。静かな圧力。バナン様の時とはまた違った、まるで試されるような緊張感。
ああ、でも・・・どうお話しするべきでしょうか?
先祖返りで偶然魔法が使える人間?何時ものように・・・いえ、きっとそれは許されません。
ラムウさんの目が、嘘を吐いてはいけないのだと伝えています。
魔大戦で幻獣と争った、魔導士の生き残りの末裔?魔導士の村の出身?どちらも周囲に隠してきた事です。

?』

カーバンクルに呼ばれて、肩が一度震えました。

『何そんな・・・・・・あー。そっか。お前んトコ色々面倒だったわな。
アレだろ?この・・・何だっけ?よく考えたら名前知らねーな。まぁ良いや。
コイツにあれこれ聞かれるのが不味いってんだろ?』
「俺か?」
『そうそう。お前』
「・・・そうなのか?

問われれば、是としか答えられません。
口にするのは憚られて、黙して返す事しか出来なくて・・・。

『なぁ、お前。別にが何だろうと気にしねぇだろ?』
「ん?そりゃあまぁ、そうだな」
『コイツにとって不利な情報は表に出さないよな?』
「勿論だ。が望まないなら絶対に」

瞳は真剣で、一片の偽りも見えません。

『ほら。ここまで言えんだから信じてやれよ、
コイツはお前の旦那だろ?』
「だ・・・っ!カーバンクルっ!!」

まだ婚約者です!旦那様というとちょっと語弊が・・・語弊がありますよね?
思わず顔を上げれば、カーバンクルのどこか楽しそうに笑う顔が目に入って・・・もぉ!
緊張は・・やっぱりしていますが。マッシュがそっと手を握りしめてくれて・・・。
んん。私も覚悟を決めなければならないですよね?一度だけ深呼吸。

「私は・・・とある村の、魔導士の子孫です」

流石に場所とか名前までは隠させてください。単に気持ちの問題ですけれども。
それでも言葉に少なからずマッシュやラムウさんは驚いたようでした。

『と言うと、魔大戦で我々幻獣と争った魔導士の血筋という訳かの?』
「遡ればそうなります。私達には詳しい経緯は伝えられてませんが・・・。
ただ魔大戦後に起こった魔導士狩りから逃れた者達が隠れ住んだのが始まりだと言われています。
カーバンクルとは幼い頃・・・15、6年程前でしょうか。その頃に出逢いました」
『・・・・・新たな魔導の力を求めてか・・?』
「いえっ!」

そんな訳無いじゃないですか!
言葉に反論しようとすれば、カーバンクルが私とラムウさんの間に割って入りました。

『あんま苛めてやんなよ?ラムウ。
コイツは俺の大事な親友だからな』

カーバンクルの言葉に、ラムウさんは驚いたように瞠目して・・・。

『お前さん、よくコイツと親友になれたのぅ。
幻獣界でも相当アレな奴じゃったぞ』
「え。カーバンクルは優しいですよ?」

思わぬ言葉についキョトンとしてしまいましたが。
それにラムウさんは噴き出すように笑いました。

『成る程、成る程。これは善き人間と巡り逢えたようだな、カーバンクル。
羨ましい限りじゃ』
『うっせぇ、当然だ。・・・それに、幻獣界に押し入ってきたバカは魔導士じゃねぇだろ。
魔法も使えない武装と物量で押してきた、ただの人間だ』
『知っておる。わしとてこの世界に来て長いからの。情報位は得ておるよ』
『じゃあ話早ぇーじゃん。知っててを苛めたな?ふざけんなよクソジジイ。
・・後。あん時のあの騒ぎの中で、命からがら逃げ出した俺を助けたのがだ。寧ろ恩人だっての』

然り気無く暴言を混ぜるのは如何かと思いますけれど・・・。

『うむ。そのようじゃな。無礼な物言いをして申し訳ない。
お主のその魔導の力・・・あまりに強すぎる故に我々を害する者かと勘ぐってしまってのぅ。
カーバンクルも魔石化しておるし』
『俺のこれは成り行きだ。誰が悪い訳でもねぇよ。
の魔導の力が強いのも生まれついての潜在的なものだしな』
『ほう。人の身にそれだけ強い魔力が潜在的に備わっとるとは・・・難儀じゃの。
しかし我らが同胞を救ってくれた恩人とは露知らず大変な失礼をした。どうか無礼を許してほしい』

ラムウさんは私に頭を下げますが、いえいえ、待ってください!

「あの、どうか頭を上げてください。
結果としてカーバンクルは魔石化してますし、無事ではないですし・・・」
「ん?石の状態って何か違うのか?」
『幻獣は肉体が死した時、魔石として力を遺す事が出来るのじゃ』
「・・・そうだったのか。
でも幻影だったか?とかで姿は出てこれるんだろ」

幻影?・・・もしかして今のこの状況でしょうか?

『それだけの力は必要じゃがな。
そうしょっちゅう出れるものでもあるまいよ』

“ほれ、奴ももう消えかかっておるじゃろ?”と言う言葉通り、カーバンクルの姿は薄くなっています。

『って!そーだ、そもそもお前に文句言いに来たんだよ!
こちとらちょっと前に力を使ったばっかだってのに五月蝿く呼びやがって!』
『ふむ。元気そうじゃがな』
『魔石に肉体疲労はねぇからな!
・・・そうそう。そこの寝てる奴、ちょっと前まで人間っぽかったんだが・・・。
ヴァリガルマンダが寝惚けやがって強制覚醒だ。割って入ったが遅かった。
しかもこんな人間界で力を解放するもんだから、コントロールなんて出来るかって感じだしよ。
つーか、姿は幻獣っぽいんだが何か違うよな?ラムウ知んねーか?』
『幻獣・・・人間・・・・・・まさか!』

悩むカーバンクルに、ラムウさんは何かに気付いたように手を叩かれました。

「ティナの事、何か分かるんですか?」
『ティナ・・・そうか、この娘の名はティナか!』
『何だ、知ってんのか?』
『カーバンクル・・・お前さん、マディンを覚えておるか?』
『マディン?当たり前だろ。あの人間を嫁にした物好きな────ああっ!!それか!!!』
『それじゃ!』

すっごいテンション上がりましたね。お2人共。
一度マッシュと顔を見合わせて、私達はラムウさんへと視線を向けました。
私達にはサッパリ話が見えて来ないのですけれども。

『成る程な。そりゃ俺達とは違うわ』
『うむ。じゃが問題はこの娘がその事実を受け入れられるかどうかじゃが・・・。
というかもう時間切れではないか?カーバンクルよ』
『げ、マジか。マジだな。いやでも色々スッキリしたから良いか。
じゃあな、。・・・久しぶりにお前と喋れたのは、やっぱ楽しかったぞ』
「私は色々言い足りないですよ?・・・でも、相変わらずで良かったです」

こほ。と、また1つ咳が出るので薬を一本足せばカーバンクルは苦笑しました。


、マッシュ!此処かっ!!」

「兄貴っ!」

唐突なエンジン音。扉が斜めに切り裂かれて・・・え、何ですか?ノコギリ?電動の??
唖然としたまま眺めれば、バッターン!と勢いよく倒された扉の先からエドガーさん達が現れました。

『お前の仲間ってホントにアレだよな・・・』

って、最後の言葉がそれですか、カーバンクル!
本当にそのまま消えてしまいましたが・・・・。
呆れた顔と声は何だか彼らしくて、私はつい笑ってしまいました。



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