鳥篭の夢

行方を求めて/5



「無事なようで良かった。
急に光の塊がの鞄から出て2人が消えた時は驚いたぞ」

謎のノコギリ型の機械を片付けながら、エドガーさんは1つため息を落としました。

「光の塊・・・あぁ、アイツか」
「ですね」

確実にカーバンクルです。

「兄貴こそよく此処だって分かったな。後、そんな機械持ってたっけ?」
「コイツは2人を探している間にちょっとな。
2人の事はシャドウの連れている犬が、先導して此処まで案内してくれた」

魔力を追ったのでしょうか?サマサで育った犬ですし、出来そうな気はします。
或いは犬の嗅覚は侮れないと言ったところでしょうかね。
そんなインターセプターには犬でも食べれる干し肉をあげましょう。ああ、待ても出来るなんて良い子ですねぇ。

「それで何があった?」
「あ。それが、テレポで跳んだ先でティナが見つかりまして。
どうやらラムウさん・・・こちらの方が助けてくださったみたいです」
「ティナが!!」

慌てて駆け寄るロックに、ラムウさんは1つ息を吐きました。

『これこれ。やっと落ち着いた所じゃ。
使い慣れない力を一気に使ったからの』
「貴方は・・・?」
『わしはラムウ。幻獣ラムウじゃ』

エドガーさんの問いにラムウさんが名乗れば皆さん驚いたようにざわめきます。

「幻獣!?って、別の世界の生き物じゃなかったのか?」
、マッシュ。お前達は知っていたのか?」

明確なお言葉をいただいていた訳ではないですが。
まぁ話の流れて的にそうだろうなぁ、と。

『別にこの世界で生きていけない訳ではない。幻獣にも色んな姿の者がおる。
たまたま、わしは人とあまり変わらんから此処に住んでいるだけじゃ。
幻獣と気付かれる心配もないからな。・・ふむ、お主は彼奴の事を何も語らなんだのか?』

あまり私に話題を振らないで欲しいのですが・・・。

「カーバンクルは“人に見つかる訳にはいかない”と言っていましたから。
でもあの時の“人”とは、幻獣の住んでいた場所に襲撃した方々の事だったんですね」
『そうさな。とはいえ強い力が在れば欲しいと思うのが人間の強欲さよ。
それは魔大戦でも今の世でも然程変わらぬ。人と幻獣が相容れぬ道理じゃ』

“お主の判断は賢明じゃろうて”と笑む姿は、どこか悲しげにも見えました。

「でも、ばあちゃんは言ってた。
昔は人と幻獣がこの世界に住んでいたと・・・お伽噺だけどな」
「俺達も昔お袋から聞いたな。なぁ?兄貴」

マッシュの言葉にエドガーさんも頷きます。
私も聞いた事がありますから、何時の世でも語られる寝物語の1つでしょう。
きっと人間と、魔導士と、幻獣では内容が少しずつ違うのでしょうけれども。
それにラムウさんは“魔大戦が始まる前までは、仲良く暮らしていたのだ”と返されました。

ラムウさんは杖を1つ鳴らして語ります。
幻獣と魔導士の間で起こった魔大戦。己の力を利用される事を恐れ、幻獣界に移り住んだ幻獣達。
そうして生きてきた中で、20年程前に人間達が幻獣界に迷い込んだそうです。
その時に秘密を知った人間達は、大群で押し寄せると多くの幻獣を捕まえていったのだと。

『扉を作り、人間達を幻獣界からは追い出したが・・・。
その時に捕らえられた幻獣達は今でも帝国の魔導研究所に捕まり魔導の力を取り出されている。
わしは危うく難を逃れ此処にこうしているという訳だ』
「それが帝国が魔導の力を手に入れた経緯か」

エドガーさんは低く唸るように呟きます。

「・・・ティナも幻獣なの?」

セリスさんはすやすやと眠るティナを眺めながら訊ねます。

『半分はそうじゃろうな。
ティナが暴れていたのは自分の存在に不安を抱き苦しんでいるからじゃ。
幻獣とは魔導の力に依る存在。魔導の力とは人間で言う精神エネルギーに近いからの。
幻獣に近い姿で不安を抱けばそうなる。ましてや自分の存在への懸念ともなれば・・・』
「助ける方法は無いのか?」

即座に返すロックに、ラムウさんは多少面食らったように瞠目します。
それから穏やかな瞳で頷きました。

『ティナが己の正体をはっきりと悟った時、不安は消えるだろう。
──・・・ガストラの魔導研究所に捕らえられているわしの仲間ならティナを救えるかも知れん』
「魔導研究所・・・あそこに・・・・・?」
「セリスさんはご存知なんですか?」
「ええ・・・そうね」

歯切れの悪い返事は、きっと何かがあるのでしょう。

『仲間を見捨てて自分一人だけ此処に隠れ住んでいた。
だが、それももうお仕舞いじゃ』
「どういう事だ?」
『ガストラの方法は間違っておる。
幻獣から無理に力を吸い出した所でその魔導の力は完全にはならない。
幻獣は魔石化してこそ魔導の力が生かされる───自ら魔石となりお前達の力となろう』
「っ?!そんな、ラムウさんっ!」
「おい待てって!それは死ぬって事だろ!?」

慌てる私達に、それでもラムウさんは穏やかに微笑みます。

『なるほど。カーバンクルの気持ちが分からんでもないの。
お主らは会ったばかりの、わしのような者にもそんな顔をしてくれるのか。
嗚呼、何と心地好い事か。このような感情が浮かぶのは久しいのぅ』
「って、死ぬってどういう事だよ!?」
『幻獣が死す時、力のみをこの世に残したものが魔石・・・。
これは帝国から逃げ出す時に死んだ仲間達。そしてわしの力もお主らに託そう』
「っ!?」

ラムウさんは混乱する皆さんにも説明されると、杖を振り上げました。
ふわりと光が舞い上がって幾つかの魔石が現れます。

────カツン

杖をつく音。それと同時に強い力と光が部屋中に広がりました。
魔導の力が凝縮されて、空間そのものの力と光が弱まって・・・魔石に、なってしまったんですね。

「じいさん。死んじまったのかよ」

魔石を拾い上げて、ロックが呟きます。

「これが魔石?」
「自分の命と引き換えに、私達に力を与えたと言うのか?
どうして、そこまでして・・・」


我らを力として用いれば
星は死に命は途絶える
止めるのじゃ
魔大戦を再び起こしてはならぬ




まるで頭に響くようにラムウさんの声がしました。
その為に・・・死んでしまうんですか?人間の強欲さに巻き込まれて、こんな目に遭って尚も?
悪いのは幻獣ではないのに。争いの引き金を引いたのは人間で、魔導士で・・なのに。

「・・・。行けるかい?」
「はい。勿論です」

頷いて、私はベッドで眠るティナの頭をそっと撫でました。

「ティナ・・・大丈夫ですよ。絶対に貴女を助けます」
「待ってろよ、ティナ。必ず迎えに来るからな」

ロックと共に声を掛けて・・・さて、行かないとですね!


「がううっ!みつけたーっ!」

聞き覚えのある声。壊れた扉から飛び込むように大きめの影が体当たりしてきました。
抱き締めてくださってるんでしょうけれど。と、それよりもですね・・・!

「どうしていらっしゃるんですか?ガウ」
「ガウ、さがした!いっぱい、いっぱい!
ござるも、みんなもみつけた!」
「お前わざと間違えてないか?・・・俺はござるじゃねぇっての」

“本物のござるはどうした?”と続けるマッシュにガウは首を傾げながら振り返りました。

「ガウ殿。流石に、階段を一気には・・・拙者でも堪えますぞ・・・」

ぜぇはぁと肩で息をしながら、それでもすぐに追いつけたカイエンさんはとても凄いと思いますよ?
そしてすぐに呼吸が整うところもとても素晴らしいです。

「皆、無事のようで安心しましたぞ。
ガウ殿の勘は侮れんでござるな」
「ガウ、スゴい!おいらスゴい!みんな、みつけるー!」
「え。直感だけで来られたんですか?」

私達もかなり駆け足で此処まで来ましたけど。

「コーリンゲン迄は情報を得たのでござるが、ジドールは寄らなんだでござるな。
何やら“こっちに皆がいる”とガウ殿が・・・」
のびりびり!びりびり、あった!
つよいちから、いっぱい!いっぱいだ!がううー・・・ちがうか?」

急に考え込んでしまいましたが・・・魔導の力を感じた、という事でしょうか?
もしかしたらカーバンクル達幻獣のものかもしれませんね。此処に来てから私は魔法を使ってませんから。
と、カイエンさんの視線が動いてシャドウさんを捉えます。

「ん・・・?おお。シャドウ殿ではござらぬか!」
「ああ」
「変わらぬご様子で何よりでござる。此度も殿に?」

カイエンさんの言葉にシャドウさんは1つ頷きました。
あ、ため息吐かないでくださいよ!
結果として放って行ってしまったのはちょっぴり申し訳なく思ってるんですから。

「して、ティナ殿は・・・」
「その件も含めて話そう。
、補足して貰うかもしれないが構わないかい?」
「はい」

言葉に頷けば、エドガーさんは先程の事をカイエンさんにお話ししていきます。
私達が唐突にいなくなって探してくださっていた事。
幻獣であるラムウさんとの出会い。力を貸す為に魔石になった事。
そして、ティナを助ける為に帝国にある魔導研究所へと行く事。

「そういや、じいさんの話し振りだとは幻獣の事を知ってたのか?」

ロックの言葉に頷いて、私は鞄から魔石を取り出します。

「これは、魔石?!」
「はい。この子はカーバンクルといって、私が子供の頃に出会った幻獣です。
私とマッシュをこの場所にテレポの魔法で送ったのもこの子ですね。
私は今まで経緯は知りませんでしたが・・・ラムウさんの仰っていた、帝国による幻獣狩りの際に帝国の手から逃れたのだと思います。
出会った頃は傷だらけでしたし。人に対しての警戒心も強かったですしね。
とはいえ、今は魔石になってしまいましたが・・・」
「帝国による幻獣狩り・・か。そうして、帝国は幻獣から力を・・・」
「本当なのか?セリス」

訊ねるマッシュにセリスさんは首を横に振ります。

「私達は眠らされたまま魔導の力を注入されたのではっきりとは覚えていない。
でもそういう噂は聞いた事がある」
「そしてティナ殿を目覚めさせるには、その帝国の幻獣を助けねばならぬ、と。
では乗り込むのですな?帝国へ」
「ああ。カイエン、ナルシェやバナン様の守りはどうなっている?」
「うむ。各地に派遣されていたリターナーの面々を集め、守りを強化されたでござる。
集合までに時間もかかり今頃の合流になり申したが・・・」
「何、本番はこれからだ。問題はないだろう」

“それでこれからの動きだが・・・”なんて進むお言葉に、流石、王様と側に仕えていた武人だと感心します。
私は流石に作戦云々はお手伝い出来ませんから。

「話したのか?」

少し離れてお2人を見ていれば、不意にシャドウさんが側に来て小声で問われます。
それはきっと魔法の事。それからサマサの村の事でしょう。

「ラムウさんとマッシュには全部。
あ、一応場所や名前は伏せましたが・・・すみません。結局、秘密を守れなくて」
「俺に謝る事はない。
・・・そもそもお前は嘘を吐くには向かなさすぎる」
「そう、ですかね?」

引っ越してからずっと隠してきましたが。
・・・あ、いえ。でもそうですね。結局は話してしまってますから・・・向いてはないのでしょう。
インターセプターにもつい構ってしまいますしね。

「今まで気付かれなかった事がそもそも奇跡だ。
あいつに感謝するんだな」
「あいつ・・・?」

とは。・・・・・・あ、マッシュですか?シャドウさんの視線で漸く気付きましたが。
確かに彼には沢山のご迷惑をかけ、フォローをしていただきましたから。

「ええ。本当に、どれだけ感謝しても足りませんよ」

思わず苦笑してしまいます。
私の言葉に一度目を閉じて、それからシャドウさんは私から離れました。

「俺は抜けさせて貰うぞ。
探し人は見つかった。依頼はこれで完了だ」
「ああ、そうだな。
此処まで助かった。ありがとう、シャドウ」
「・・・行くぞ、インターセプター」
「ワンッ」

私達を一瞥すると、シャドウさんとインターセプターはそのまま去っていきました。
相変わらずあっという間に行ってしまうのですから・・少し寂しいですが。

それから私達も、何時までも此処に留まる訳にはいかないと、一度ジドールを目指しました。
あ。壊した扉を直して簡単には開かないように強化するエドガーさんとマッシュの手際はとても良かったですよ。
王族・・・?という気分にはさせられましたが。いえ、とても頼りになります。
ガウはひょいひょいと階段を身軽に降りていって・・・ああ、もしかしたら行きもこんな感じだったのでしょうか?

「カイエンさん、よくガウに追い付けましたね」
「これでも鍛えておりますからな」
「私も頑張らないといけませんねぇ」

ガウに何時も置いていかれてしまってますから。
ちょっと鍛えないと駄目かもしれません。

「何、殿はそのままで十分でござるよ。
余り鍛えすぎると筋肉が付きすぎて動きが鈍くなりますからな。
殿の剣技であれば今位が丁度良いのでは?」
「ですかね?自分でもそのつもりで筋力キープしてたのですが・・・。
マッシュとかガウを見ると、もうちょっと鍛えたくなりますよね」
「はっはっは。2人と我々では戦い方が根本的に違うでござるよ。
気にされる事などありますまい」

それは確かに。からからと笑うカイエンさんは、きっと励ましてくださっているのでしょう。

「では私なりに頑張ってみますね。
ありがとうございます、カイエンさん」
「うむ」

それならもっと剣の練習もしないとですね。
どうしても慣れてくると手癖で剣を振ってしまいますから・・・父にもよく怒られましたしね。
技術面の向上を狙っていきましょう。

「そういや。魔石の使い方ってどうするんだ?
元々持ってるし、何か知ってるんじゃないのか?」
「いや、知らないですよ。教えてもらった事ないですし」
「知らないのかよ!」

んん・・・でも、そうですねぇ。

「身に付けている、というのは重要かもしれません。
私が使う魔力反射の魔法・・・リフレクと言いますが、あれは元々カーバンクルの力ですから」

後はテレポもそうですね。カーバンクルの恩恵でしょう。

「ああ、あのとんでも魔法の事ね」
「とんでもって言わないでくださいよ、セリスさん。
後は・・・ずっと昔、魔石になる時に“少し位なら手伝える”と言ってましたっけ。
もし力を貸してほしい時にお願いしたら手伝って頂けるかもしれませんね」

今まで日常の中で何度か話しかけてもカーバンクルは出てくれませんでしたが・・・。
今回やティナの件で出てきてくれた事を考えると、そういった手助けの際に出てくれるのだと思います。

「ならば皆で分けておくか。
魔法の使い方は私達には分からないが・・・教えて貰えるかい?」
「あ。私は駄目かもしれません、感覚的に使ってるので」
「じゃあ私が教えるわ。
魔導の力を注入されてからはかなり練習したから、コツとか教えられると思う」
「そうしていただけると助かります」

本当にうっかり出ちゃう位には感覚的なものなので、説明のしようが・・・。

「ガウも!ガウもできるぞ!!
まもの、まねする!あばれる!びりびりでるー!!」
「そうですね。ガウもとてもお上手です」
「うむ。道中も使っておられたな。して、やり方は?」

ピタリ。急に動きを止めて、ガウは首を傾げます。

「・・・・・・・・・まもの、まねする?」
「紛れもない感覚派だな。と一緒じゃん。
っつーか、魔物の真似で魔法が出るってガウも相当だよなぁ」

ロックの言葉にはあえて黙秘させていただきます。
確かにガウの力の出所は不思議ではありますが、魔導士の生き残りが他にはいないなんて分かりませんし。
藪をつつけば蛇が出ますから。くわばらくわばら。

「ああ、そろそろジドールが見えてきましたね」

なんて皆さんの気を逸らして、私はとにかくと微笑むのでした。



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