鳥篭の夢

縁を手繰る先/3



巨大な飛空艇が帝国上空を飛ぶのは危険だと、少し離れた場所に降りた私達は帝国首都であるベクタを目指しました。
セッツァーさんは“何かあった時の為に何時でも飛び立てるようにしておく”と飛空艇に残りましたが。
助かるやら申し訳ないやら。
とにかくと、訪れたベクタは・・・何と言いますか物々しい雰囲気が漂っていて少し落ち着かないです。
後は魔導の力が強いですかね。土地柄・・・というよりも作り物めいた感覚ではありますが。

「一応事前に伝書鳥でメンバーにベクタに行く事は伝えたが・・・。
そもそもどんな経路になるんだ?」
「そうね・・・。
私達が侵入する魔導研究所へ行くには、あっちの魔導工場を通るのが一番早いと思う」
「魔導工場?」
「ええ、魔導アーマーの製造工場ね。
注入する魔導エネルギーは魔導研究所から送られているから2つの施設は隣接しているの」
「なるほど。だからこの街の魔導の力は作り物っぽいんですね」

取り出されて加工された分、違和感があるのでしょう。
とはいえ私はティナのようにハッキリと分かる訳ではありませんが。

「・・・やっぱりは留守番してた方が良かったんじゃないのか?」
「マッシュ、それもう3回目ですよ。
大丈夫です。薬も多めに飲んできましたし、追加分も持ってきてますし。
それにほら、圧のかかり方で多少の経路は分かると思いますしね」
「最後のヤツは大丈夫じゃないだろ」

いえ。かかるといっても酷くなる前に対処できますからね?
だからそのジトッとした視線は止めていただきたいのですけれど。

「無茶はなりませぬぞ、殿」
「これから何が起こるか分からないからな。
身体に不調があればすぐに報告する事。良いね?」

カイエンさんとエドガーさんの言葉に私は、勿論です、と大きく頷きました。

「・・・ん?おい、じいさん。
こんな所で寝てたら危ないぜ?」

魔導工場へと進む途中、不意にロックが声をかけました。
木箱にもたれ掛かるおじいさんからはアルコール臭がふわりと漂います。
酔っぱらってらっしゃるんでしょうか?と、その瞳にロックを捉えて───

「しっ!貴方がロックですかな?私はリターナーの同士です」
「っ!?アンタがそうだったのか」
「私が帝国兵を引き付けます。
その間にこの箱から鉄塔に飛び乗って魔導研究所に忍び込んでください」
「分かった。だがどうするつもりなんだ・・・?」
「まぁ任せてください」

一度ウインクして、おじいさんは覚束ない足取りで魔導研究所のある方。
その前に立ちはだかる帝国兵達の前へと進み出ました。

「ういー!酔っぱらっちまったー!
おうおう、兵隊さん。聞いてくれよぉ~」

と、ちょっと性質の悪い酔っぱらいのような演技をしながら兵士達に絡みます。
兵士さんは演技に気付く様子もなく、邪険にしたり相手にしたりしていて・・・。

「セリスさんにも負けない演技力ですね・・・」
「本当ね。これは負けられないわ」
「そこかよ。ほら、早く行こうぜ」

あ、軽い冗談ですよ。
だからそんな首根っこ掴んで行こうとするの止めていただけないですか?ロック。
セリスさんと共にやや引き摺られながら、私達は魔導工場へと侵入しました。
ええ。無事に潜入は出来ましたが・・・・・・。


「拙者こそ飛空艇で待機しておった方が良い気がしてきたでござる」
「いえ、お気持ちは分かります」

流石工場と言うべきか、機械だらけですからね。
巨大なパイプが工場内に張り巡らされ、ローラーコンベアには魔導アーマーらしき部品が流れていますし。
フックを上手く使いながら移動したり・・と、目が回りそうになります。
機械が動く音がする度に、カイエンさんと共に勢いよく振り返り。
ガウが怪しい機械を触ろうとしては、カイエンさんが全力で阻止して・・・精神的疲労が。

「しかし、そうぼやいてもいられませんな」
「ですね!一緒に頑張りましょう」

私も機械はよく分からないですし!
カイエンさん程ではないですが、やはり少し苦手意識はあります。
うんうん。と2人で頷いて・・・あら?ガウ。一体どちらに・・?

「ガウ、そっちは危ないですよ?」
「ガウ?」

ご機嫌で進みますが足元見えてますか?ローラーが・・・っ!!

「がうっ!?」

やはり気付いてらっしゃらなかったですね!?
コンベアのローラーに足をとられて転んだガウを私とカイエンさんで追いかけます。
が。んん、手が届かないです・・・っ!

「今行きますからねっ!」
殿!飛び込んでは危ないでござるよ!」

でもガウ単独も相当危ないですよ?
なんて、我先にと勢いよく飛び込みました。

、ガウ!今行くぞっ!!」
「マ、マッシュ殿まで?!
拙者どうしたら良いでござるかー!?」
「ちょっと皆・・きゃっ!?」

何故か背後がとんでもなく騒がしいのですが。
どんがらがっちゃん。
・・・・・うーん、凄い音もしてらっしゃいますけれど。

「だぁぁ!お前らどうして皆で行くんだよ!」
「どうして君達はこう・・」

更にロックの叫ぶ声と、エドガーさんの困ったような声。
・・・とと、コンベアの終点が見えてきましたね。
転がりながら流されていたからか、ガウはふらふらしていますが。

「はうー・・ぐるぐるー・・・」
「ガウ、大丈夫ですか?」

ガウを支えながら、手から癒しの力を送ります。
結構流されてしまいましたが、此処はどこら辺になるのでしょう?

!・・・ガウ、大丈夫か?」
「ゥゥ・・・ぐるぐるいっぱい、ガウおどろいた」
「ふふ。少し目を回されたみたいですね」
「成る程な」

ぐったりと私にもたれ掛かるガウに、マッシュはわしわしと頭を撫でました。
と。皆さんもコンベアに乗られていたようで順番に降りてこられます。

「もう・・・ビックリしたわ」
「それは俺の台詞だって。セリスも勝手に行くなよ」
「私は巻き込まれただけよ」
「わ、分かってるって!」

セリスさんに睨まれて、ロックは大慌てで首を横に振りました。

「ガウ殿。無事で何より。
・・・いやしかし、これは心臓に悪いでござるな」

“どうなるかと思いましたぞ”などと、やや蒼白とした表情で仰られてますが大丈夫ですか?
ケアルを唱えれば“かたじけない”と困ったように微笑まれました。

「ウウ・・・カイエン、へーきか?
おいら、わるい。ガウ、わるいした」
「何。悪気があった訳ではなし、怒りはせんでござるよ。
ただ次からは注意してくだされ」
「わかった。ガウ、ちゅういする」

頭を撫でられたガウは、ぐぐっと両手を強く握りしめました。

「さて。一段落ついたら此処を出る道を探そうか」
「そうですね」
「うー・・・・・・あっち、なんかくるぞ!」

ガルル・・と、唸りながらガウは少し段差のある通路の奥へと視線を向けます。

「隠れろ!」

エドガーさんの言葉に、幾つか散らばっていた木箱の影へと各々隠れました。
何かを引き摺るような音。それからコツコツと高い靴音。
んん・・・何でしょう?幻獣程ではないですが今までより強めの魔導の力を感じます。
少しの圧迫感。まだ平気ですが、後で薬を足さないとご迷惑をかけそうですね。

「俺が神様だよ・・・ヒーッヒッヒッヒ」

聞き覚えのある声と特徴的な笑い声。
姿を見なくても分かります・・・ケフカ、ですね。これは。

「幻獣をもっと集めて・・・魔導の力を取り出してー・・・。
そして───三闘神の復活だー!!!」

ご機嫌に笑います・・・が、三闘神。まさかこんな所で聞くと思いませんでした。
幻獣を生み出したとされる、魔導の力を齎した三柱の神。
今は自らを石化させ、互いを監視する事で力の均衡を保っていると言う話ですが・・・。
帝国はそれを復活させようとしているという事でしょうか?でも、どうやって?

「もう魔導の力を吸い付くしたようだね・・・お前は用無しだ!!
お前も、いーらないっ!ヒーッヒッヒ!!」

何かを放り込む音。それから笑い声が響いて、足音は遠くへと消えていきました。
気配ももう無いですよね?そろりと視線を向けて、私達は立ち上がりました。

「ケフカはこんな所で一体何を・・・?」
「“魔導の力を吸い付くした”と言っていたな」
「・・・・・ごくごく弱いのですが、先程から魔導の力がするんですよね」

ずっと感じていた人工的ではないものです。
そう言葉を続けて薬を飲めば、マッシュは幾度か目を瞬かせました。

「もしかして、幻獣・・・か?」
「可能性はあるな。行ってみよう」

エドガーさんも頷いて、ケフカが何かを棄てた先・・・ローラーコンベアへと乗り込みました。
その先にいたのは・・・人?では無いですよね。
弱いですがその魔導の力は純然たるものですし、人と呼ぶには肌の色や角など異なってます。
ぐったりと横たわる女性へと駆け寄れば、薄く瞼を開きました。

「大丈夫ですか?」
『あなた達は誰・・・?』
『・・・・・帝国の手の者、では無さそうだな。
我々と同じ力を感じる。カーバンクル・・・に、ラムウの力か?!』

目の前の男性のような方の言葉に鞄の中の魔石が光りました。
それからロックの持っているラムウさんの魔石も。
何かを語りかけているのかもしれません。私達は分かりませんが、お2人は“成る程”と頷いていますし。

『この者達にカーバンクルやラムウ達が力を託したという事か』
「こいつらの事が分かるって事はもしかして・・・」
『ああ。私達も幻獣だ』

やはりそうでしたか。でもラムウさん達に比べると驚く程に力が弱まっています。
幻獣は魔導の力に依る生き物ですから。それが弱いと言う事は・・・。

『そんな顔をしないで。貴女は優しいのね』

ヒヤリと冷たい手が触れますが、伝わる力はやはりごくごく弱いものです。

『仲間達は皆ガストラによって捕らえられ、此処で魔導の力を吸い取られているのだ。
私達もこの研究所のビーカーに入れられ力を吸いとられた・・・』
『魔導の力が無くなると此処に捨てられるの。
後は死すのみ。私達ももう長くはないわ・・・だから私達もあなた方の力に成らせて?』

弱々しい笑顔。

『このイフリートと私・・・シヴァは、ラムウとそれぞれ3対の力をもつ兄弟。
ラムウが力を貸したのなら、私達も───』

お2人の身体が光って、弱かった力がそれでも驚くほど強く凝縮されていきます。
冷たかった手の感触が消えて・・・その手の中には1つの魔石が残されていました。

「シヴァさん・・・イフリートさん・・・・」


仲間ももう命は長くない
お前達に力を貸すだろう




何故、なんて・・・そんな疑問を抱くべきではないのでしょう。
ラムウさんがもう既に答えを出してくださっていますから。

「ありがとうございます。
絶対に、無駄にはしませんから」

握りしめれば、軽い頭痛。
同時に魔石から手を伝って魔導の力が私の中に入ってくるような、己の身体に干渉されるような、そんな感覚がしました。
なるほど・・・多分こうして私はカーバンクルの魔法も使えるようになったのでしょう。
あの頃は小さかったので覚えていませんでしたが。
もうひとつの魔石。イフリートさんのも拾い上げれば同様の感覚。
んん。魔法の早期習得とでも言えば良いのでしょうか。
これは・・・私の干渉されやすい性質故か、それとも魔導士の家系としての血筋故か。

、どうした?」
「・・・・・・いえ。どうかこれは皆さんでお役立ててください」

言いながら、ロックに魔石を渡してもう一本薬を足します。
薬で頭痛が抑えられるという事は、やはり魔力に関係するのでしょう。

「やはり魔石の力が影響を?」
「でもカーバンクルの魔石はずっと持ってるだろ?」
「そうですね。カーバンクルはずっと一緒でしたから。
初めての魔石だと多少の影響があるみたいです。
あ、でも幻獣とはまた違いますから持ってても平気ですよ」

だからそんなに警戒しないでくださいね?

、さっきよりつよい!つよくなったか!!」
「どういう事でござるか?ガウ殿」
。いし、もつ!ぴかぴか、ぴかぴかした!
、つよくなったぞ!」
「・・・・・・ガウは本当に凄いですよね」

それは魔石の魔法を習得した事を言っているのでしょうけれど。
何故分かったのでしょうか?
それでも首を捻る皆さんに、私は1つだけ苦笑しました。

「まぁ、魔法のバリエーションが増えたという事です。
問題はありませんからご安心ください」
「増えた・・・・」

あ、だからロックはどうしてそんな顔をするんですかっ!もう!!

「あ、あっちに扉があるから行ってみようぜ」
「逃げたわね」
「うむ」
「ガウー」
「とにかく、我々も行くとするか」

エドガーさんの言葉に頷いて私達もロックの後を追いかけました。

「なぁ、。さっきのヤツ、影響はないのか?」
「魔石ですか?微々たるものですよ。
それより魔法が増えるメリットの方が大きいと思いますし」

マッシュは心配性ですね。
そう言えば“無茶する奴がいれば心配するのは当たり前だ”なんて。
ああ、何だか前にも似たようなやり取りがありましたね。立場逆転ですが。
くすくすと笑えば、ぽんぽんと軽く頭を撫でられました。



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