鳥篭の夢

縁を手繰る先/4



長い階段を上りきれば、そこはまた少し異質な空間でした。
様々な機械と、巨大な空のビーカーが通路に並んでいます。

「何だか気味の悪い場所ですな」
「カプセル・・・いや、ビーカー・・・か?」
「それってさっきイフリートが言ってたやつかい?兄貴」
「魔導の力を吸い取るってやつだよな?」
「可能性は高いな。
何か感じるかい?

不意に話題が振られて、私は1つ頷きました。

「そう、ですね。少し圧迫感が強くなってきましたから。
多分他の幻獣さん達も近くに捕らえられていると思います」
「私、研究所にこんな場所があるなんて知らなかった・・・」

呆然としたセリスさんは零れるように呟くと、苦しそうな表情で視線を床へと落とします。

「私のこの力も・・・捕らえられた幻獣の・・・・・」
「セリスは知らなかったんだ。あんまり気にするなよ。
それに気付けたんだから良いじゃないか!
これ以上こんな事を許さない為にも、幻獣達を助け出そうぜ」
「ええ、そうね!ありがとう、ロック」

ロックの言葉に、セリスさんは微笑みました。
そうして通路の奥へと進んで行けば、先程よりも多くのビーカーと捕らえられた幻獣達の姿。

『人間か』
『あの者達が、イフリート達が力を託した・・・』
『そして、あのカーバンクルが友と認めた人間か』

ヒソヒソされてますけれど、カーバンクル?
貴方は本当にお仲間からどんな認識をされてらっしゃるんです?
・・・・・・と、そうではないですね。

「あの・・どなたかティナをご存知ではないですか?」

そもそも彼女を助ける術を求めて此処まで来たのです。
もしもうお亡くなりになっていればアウトなのですが・・・。
“ティナ?”“あの子だ、マドリーヌの・・”“人間との子か”等とざわめく声。

『ティナは、私の娘だ』

不意に響いた声に、私は幾度か瞬きました。
鍛え上げられた巨大な体躯はマッシュを上回る程ですね。

「あんたがティナの父親!?」
「成る程。研究所に捕らえられた仲間なら助けられる・・とはそう言う事か。
どうか我々と共に来てもらえないだろうか?私達はティナを救いたい」
「お願いします。
ラムウさんが仰るには、ティナは自分の存在に不安を抱いているそうです。
魔法が使える事。人とは違う姿になった事。
その不安を取り除けるのは、きっと貴方しかいないと思うんです!」

言葉にティナのお父さんは瞳を伏せました。

「とにかく、まずはそこから出ようぜ。多分このスイッチだろ?」
「マッシュ殿!また確かめもせずにスイッチを・・・!」
「大丈夫、大丈夫。カイエンは本当に機械が苦手だな」

からから笑うマッシュに、カイエンさんはため息を吐きました。
まぁまぁ、何だか機械も止まったみたいですし。ね?

『お前達は我々を助けようというのか・・・』
『いや、だが我々の命はもう長くない。
イフリートと同じように死してお前達の力となろう』
「でも・・・それでは・・・・・・!」

それでは皆さんは死んでしまうじゃないですか!
イフリートさん達程ではないにせよ、力が弱まっているのは分かります。
でもだからと簡単に命を投げ出してしまわれるなんて・・・っ!

『気にするな。カーバンクルと絆を結ぶ稀有な人間よ』
『この姿のままでいても、お主らへ十分な助力は叶わないだろう』
『・・・魔石であれど、ティナに言葉を伝える事は可能だ。
ティナの・・・娘の為にこのような場所まで来てくれた事に感謝を。
そしてどうか、我々の力を役立ててくれ』

穏やかな笑みを浮かべてらっしゃいますが・・・私には、かける言葉も無くて。
強い光。凝縮した力は形を変えて、1つ残らず魔石に変化していました。


「そこで何をしている!」

鋭い語調。黄色いローブのような服を纏った1人の男性が大股で此方に歩み寄ってきます。

「此処は関係者以外の立ち入りを禁じておる筈だが?・・・ん?」

不意に気付いたと、男性はビーカーの魔石へと視線を向けました。
まるで私達の存在を忘れたかのように食い入るように見つめて回ります。
そして機材の何かの数値を眺めながら何事かを呟いて唸っていますが・・・。

「うぉっ!どうしたんじゃ急に・・・!!」

────ガシャン・・ッ

驚く声。魔石がふわりと光を帯びると、ビーカーが割れて私へと集まりました。
あ、ちょっと待ってください。そんなに大量に来られると心の準備が・・・ぁぃたたたっ。
頭痛が。結構キツいやつ来てますからね?
それと同時に干渉もされてますし。視界がぐるりと回って・・薬っ!薬飲まないと!!
干渉が終わってから近くにいらっしゃったエドガーさんに魔石をお願いして、薬を足します。

「シド博士」
「おお、セリス将軍!戻っておったのか。
何じゃこの怪しい奴等は?お前さんの部下かい?」
「いいえ、そうじゃなくて・・・私は・・・・・・」

男性・・シド博士に訊ねられて、セリスさんは口篭もります。

「何でも反乱を企てておる連中に、スパイとして潜り込んだと聞いたが・・・?
全く、そんなもんはもっと下の奴等にさせれば良いものを・・」
「ぇ?」

ブツブツと文句を仰ってます。が、セリスさんがスパイ??
いえ、でもセリスさんも呆気にとられてますよね?違いますよね?

「セリス・・・?」
「ぁ・・あの、ロック・・・違・・」

疑惑の目線。それにセリスさんは何度も首を横に振っていて・・・。


「ヒーッヒッヒッヒ!
成る程!!魔石か!!」

唐突に響く声。ケフカ・・・ですか?
でも、何で?流石にタイミングが良すぎませんか?

「泳がされていたと言う事か」
「くそっ!」

武器を構えようとするエドガーさん達に対して、ケフカは悠然と立っています。

「でかしたぞ、シド博士!!そして・・・・・・」

そして・・・セリスさんへと愉しむような視線を向けて。

「セリス将軍!!さぁ、もう芝居はよい。
そいつらの魔石を持ってこっちへ来い」

手を伸ばす仕草。
それは一見すれば“戻ってこい”という所作にも見えるでしょう。

「セリス、騙していたのか!?」
「・・・っ!!違うわ、私を信じて!!」

ロックの責めるような言葉に、セリスさんは咄嗟に返されて。
・・・・・・何で?なんて、そんな言葉が過ります。

「ヒッヒッヒ。
裏切り者か・・・・・・セリスにぴったりだね」

嗚呼。どうして?

「ロック・・・・・・信じて・・・」
「俺は・・・」

どうしてそんな事を言わせてしまうんですか?
どうしてそんな顔をさせてしまうんですか?

ツカツカと近付いてロックの胸ぐらを掴みます。
背が高いからあまり意味無いとか、そんな事を言ってる場合じゃありません。

「何で・・・っ!どうしてそんな事を言うんですか?ロック!
セリスさんは仲間じゃないですか!!」
・・・」
「どうして貴方が信じないんですか?
今までこんなにも助けてもらって・・本当に全部嘘だなんて思ってるんですか!?」
「お、れは・・・俺は・・・・・・」

もう、そんな煮え切らない態度をされるとこちらが困りますからね!
手を離してくるりと方向転換。セリスさんの手を取れば、唖然とした表情に困惑が浮かびます。

「とにかく、一旦戻りましょう!
ロックへの弁明なんて後でも出来ます。何かしらの事情があるなら私もお伺いします。
言いましたよね?私はセリスさんを共に過ごす仲間だと思ってるんですから」
・・・私・・・」

何処か泣きそうな顔に私は一度笑みを向けました。

「はい。ご意見は後でお伺いしますね。
まずはテレポで離脱しましょう。少々頑張ればこの人数でも───っ!」
「きゃっ!?」

ぞわりと背筋が凍る感覚。セリスさんを突き飛ばして、詠唱の時間も惜しいですから一気に魔力を組み上げます。
ケフカがファイラを放った直後にリフレクを唱えて、反射されたそれをケフカは追加で唱えていたブリザラで相殺。
なるほど。リフレクを使われる前提で動いていましたか。

「全く・・・貴女は本当に興をそぐのがお上手ですね。
仲間ごっこ?信じる?大いに結構。
ですが他の方々はこの裏切り者のセリス将軍を許さないのでは?」
「それも含めてお話すれば良いでしょう?
貴方には関係のない話です」

そもそも今回の件は冤罪でしょう?

「それは生きて帰れればの話だろう?
行け、皆殺しにしろ!!」

パチン。ケフカが指を鳴らせば、後方から魔導アーマーが2体現れます。
魔導の力を使うなら跳ね返せますが・・そうは行かないですよね?
突進してくるそれに魔法を使おうとして──ぇ?
ガバリと装甲が開いて、中からミサイルが発射されて・・・ひぇっ何ですか、あれ!!?

っ!!?」

咄嗟にロックが前へ出て、身体が押されて転がりました。
そのまま魔導アーマーから放たれた攻撃がロックへと直撃して。
迎撃しようとした皆さんも、そのまま機体が撥ね飛ばして・・・。

「皆さんっ!!」

土煙。それが晴れた先には倒れる皆さんの姿。
意識を失っているのかどうかも遠目からでは確認出来ませんが・・・どれ程の怪我をされているのでしょうか?
立ち上がって近付こうとすれば、背後から髪の毛を強く引っ張られる感覚。
とか、生易しい表現してる場合ではありません!痛いんですけどっ!!

「ヒーッヒッヒッヒ!!良いですねぇ、その顔。
絶望しましたか?。ですがご安心ください。
貴女は私がお人形にして丁寧に丁寧に可愛がってあげますからね」
「っぅ・・・く・・」

髪を掴み上げられて・・・ちょっと、止めてくださいっ。
抜けます、抜けますってば!髪の毛大事ですからね!
キッと睨み付ければケフカは愉しそうに笑います。

「無駄な抵抗はしない方が賢明ですよ?
貴女の大切なお仲間をペチャンコにされたくなければね。
さぁ・・・全部教えてください、
貴女のその全てを、どうか私の物に」

ちょ!やだ、いちいち台詞が気持ち悪いのですけれど!?
手に何か・・・サークレットですか?輪っかのような物を持ってますが何でしょうか?あれは。

「止めてっ!」
「ああ゛?」

セリスさんの声。それにやたらドスのきいた声でケフカが返します。
それでも臆する事なくセリスさんは前に進み出ました。
同時にどこか安定しない魔導の力が周囲に満ちていって。これ、は・・・?

・・・・ありがとう。仲間って言ってくれて、信じてくれて。
だから絶対に貴女を助ける。操り人形になんてさせないわ!
・・・・ロック・・今度は私が貴方を守る番ね。そしてこれで・・・・私を信じて」

まるで泣き笑うような、そんな表情。安定しないままの力がセリスさんへと集まって。
いえ、でもそのまま魔法を使うのは危険ですからね・・・?

「セリスさん、何を・・・・・・っ!」
「止めろ、セリス!くそっ、お前にはその力は・・・っ!!」

「テレポ!」

唱えた言葉。それはセリスさんが使えない筈の魔法で。
歪んだ空間。捕まれていた髪から痛みが消えて・・・ケフカと帝国兵は消えていました。

「セリス・・・っ!!」

目が覚めていたのでしょうか。ロックの悲鳴に近い声が響きます。
それでも、もう呼ばれた当のご本人はいらっしゃいませんけれど。

「セリスさん・・・」

ご無事でしょうか・・・?いえ、まずは皆さんを治さないとですね。
詠唱をしながら出力を上げて全員へとケアルラをかけます。

「皆さん、大丈夫ですか?」
「ああ、すまない。油断してしまった。
は大丈夫かい?」
「はい。セリスさんが・・・助けてくださいましたから」

使えない筈の魔法を行使して・・・それはどれだけの力が必要だったでしょうか?
俯いていれば、マッシュにぐいと抱き寄せられてポンポンと背中を優しく叩かれました。
横から更にガウがギューッと強く抱き締めてくださいます。ちょっと痛い位ですが。

「がうう・・・、かなしいか?
おいらもかなしい。がうー・・・」
「ガウ殿・・・」

「ごほっごほ・・・何が起こったんじゃ?」

そういえばシド博士、いつの間にかいらっしゃらなかったような・・・?
一体何処にいらっしゃったのでしょうか?
と、すみません。先程からちょっと苦しいんですが・・・圧がかかるのってガウが原因じゃないですよね?
ゴゴゴゴ・・なんて嫌な音も建物全体からしているような。

「地鳴り?」
「むむ。これは一体何事でござろうか・・・?」
「こりゃいかん!今のショックでカプセルのエネルギーが逆流したんじゃ。
此処は危険じゃ!急いでこっちへ!!」

シド博士に先導されて・・一度顔を見合わせましたが、私達はついていきました。
罠であれどうあれ、此処に残る事は得策ではないでしょうしね。

、平気か?」
「いえ・・ちょっと。
でもまだ薬も残数ありますから、動けます」
「すぐに飲んどけよ」
「はい」

まるでお母さんみたいですよ?マッシュ。なんて。
よく見ていただいていると言えば良いのでしょうけれど。

エレベーターで降りながら、シド博士は肩を落として語ります。
脅されていたとはいえ、幻獣の命を力に変えていた事。
セリスさんの事は幼い頃から知っていて、娘のように思っていた事。
それと同時に魔導戦士としての教育も担っていた事。

「もう一度会えるならば謝りたい。わしのしてきた過ちを・・・」

それはまるで懺悔する言葉にも聞こえました。
って。ちょっと待ってください?
また何処か遠くからケフカの笑い声が響いてませんか・・・!?

「いかん!もう戻ってきおったか!
これに乗れば魔導工場の外に出られる筈じゃ。急げ!」

エレベーターが着いたと同時に、あれよあれよとトロッコに乗せられます。
いや、あの全員で乗ると狭いですね?これ。身動きとれないですが。

「行け!!!」


────ッガチャン


トロッコが動き出して────ぇええっっ!!??
ちょっとハイスピード過ぎませんかね!ひぇっ、速いぃぃっ!!!
マッシュとエドガーさんが支えてくださらなかったら風圧で飛んでます!
そしてトンネルが暗くて、どうなっているのか良く分からないのですが!

「うおぁっ!?ちょっと待て、何かいるぞ!!?」

何かいる気配は分かりますけれど、ちょっと見る余裕ないです。
その余裕どこにあるんですか、ロックーっ!!

「くそっ!この状況じゃ攻撃が当たらねぇ!」
「ガウ、飛び掛からないでくれよ?
流石に私達は助けに行けないぞ」
「ううー・・・」

悔しそうにガウは唸っていますが。
あれ?もしかして余裕無いのって私だけだったりします?

「ええと、でしたら私がやってみます!
でもちょっと余裕無いので、外したらごめんなさいっ!」
「ガウ!ガウもするぞ!ビリビリ、いっしょ!」
「ありがとうございますっ!」

ではご一緒に・・・!

「サンダラっ!!」
「ガウウーっ!!」

周囲を明るく照らす程の放電がトンネル中に充満します。
いえ、ちょっとこのスピード感が怖かったとかそんなのではない筈です。
ガウも頑張ってくださいましたし、それでですよ。きっと。
とはいえ、力が干渉されたり使用したりで、少し疲れてきましたけれど。
精神的疲労といいますか。倦怠感といいますか。

「ガウももスゲーな。今の魔物、全部消し炭になったぞ」
「ガウ、すごい!もすごい!」

ふふ。自信満々なガウの言葉に、思わず笑みが零れます。

「ちょっと休んどけ、
「・・・はい、そうさせていただきます」

凄まじい筈の風圧が気にならなくなった位には疲れている自覚がありますから。
後はお願いしてしまいましょう。うとうと。意識が霞がかってきます。

「そのまま寝てしまっても大丈夫だ」

エドガーさんの優しい声。それに、すとんと意識が落ちました。



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