鳥篭の夢

求める縁は真か偽か/4



「・・・・・・ロック・・・」

ジトッとした私の目線。
それにあらぬ方向へと視線を泳がせたロックに、私は思わず1つ大きくため息を吐きました。
ロックは本当にタイミングが悪いと言いますか・・・。

「これ以上拗れたら流石にフォロー出来ませんからね?」
「・・・悪ぃ」

船が無事に大三角島へと到着して、私達とシャドウさんを加えた4人と、セリスさんとレオ将軍のお2人の二手に別れて行動する事になったのですが・・・。
その際、出発直前に意を決して話しかけようとするセリスさんをロックが無視したんですよね。
絶対に仲直りのチャンスだったと思うのですが・・・まぁ私も全て飲み込めとは言いませんけれども。
そんな何ともスッキリしない雰囲気のまま私達はサマサの村へとたどり着くのでした。


「あれ?もしかしてじゃないか?」
「まぁ!久しぶりね。身体はもう大丈夫なの?」
「おやまぁ、!こんなに大きくなったのねぇ、良かったわねぇ」

等と、村に入った瞬間から囲まれてしまいましたが・・。
何とか村長さんにお目通りし、再会を喜んだ後に此方の目的を話せば“そういったものに一番詳しいのはストラゴスだろう”と教えていただいて、私達はストラゴスさんのお宅へと訪れました。

「おお、。久しぶりじゃゾイ。
村の外が騒がしかったのはお主じゃったか」
「お久しぶりです、ストラゴスさん。お騒がせしましてすみません」
「何。もうあれから何年も経つからのう。
お主が無事に成長した姿を見れて、皆も嬉しいんじゃゾイ。勿論、わしもじゃ。
リルムに会いに来たなら上におるが・・・」
「あ、いえ。お会いしたいのは山々ですが今は別件ですかね。
・・・ストラゴスさん、この近辺に幻獣の目撃情報はありませんか?」
「幻獣とな・・・?」

問う言葉に、ストラゴスさんは私の手を引くと部屋の奥まで連れていきました。
ハラハラとしたティナの顔が目に入って一度にこりと微笑みます。大丈夫ですからね。

「あの連れの者達には何処まで話しておるのかゾイ?」
「この村が私の故郷である事。私は魔法が使える事だけです。
魔導士の村である事はまだ伏せてます」
「幻獣の目撃情報と言っておったの・・・。
お主らが既に幻獣と関わっておるならば魔導の力にも関係しておるのじゃろう?
よくよく集中すればあの若者2人からは何やら魔力を感じるが」
「そうですね・・。説明すると長くなりますが、訳あって幻獣に力を託されましたから」
「なんと・・・!!?」

ストラゴスさんは目を丸くして声を上げました。
どうしたのかと此方に来たロック達へと驚きの視線を向けます。

「まさか・・・お主らは魔石を託されたのかゾイ?」
「魔石をご存知なんですか?」
「ふむ。には話しておらんかったか。
遥か昔・・魔大戦の頃、人間は魔石から力を取り出して魔導士となったのじゃ」

・・・・・・え?

「いや、初耳です。
流石に私は由来まで教わった事は無いですし、書物にもありませんでしたよ?」
「当然じゃ。これはあくまで秘匿すべきもの。
一部の者にだけ口伝えられておる話じゃ」

それはつまり確実に魔大戦の繰り返し・・・という事ですか?
んん。流石にこれは困りました。
いえ。幻獣達の善意と決意、その想いを無下にするつもりはありませんが。
意図せず皆さんを私達の先祖と同じ魔導士にしてしまうなんて・・・。

?魔導士がどうのって、どういう事だ?」

キョトンとするロックに、ストラゴスさんは1つ頷きました。
村長さんからは話す許可をいただいていませんが、どうされるのでしょうか?

の仲間であれば信頼も出来るじゃろう。
幻獣から力を託されたとなれば尚更な。・・・・此処は」

「おじーちゃーんっ!」

突如、階上から響く声。
ドタドタと大きな足音と共に勢いよく扉が開かれて、現れたのは金色の巻き毛と青い瞳。
何処か懐かしい・・お姉さんの面影を残した可愛らしい女の子でした。ああ、大きくなりましたね、リルム。
旅に出る前は手紙でやり取りはしていましたが会うのは本当に久しぶりです。

「おじいちゃん、さっきから1人で五月蝿かったけど、お客さんがいるから?
何かあったの?あ、この人達も魔法を使えるとか??」
「こりゃ、何言っとるんじゃリルム。
が久しぶりに帰ってきたんじゃゾイ」
・・・・・・おねーちゃん!?」

ぱっと顔を顔を輝かせて、ティナと私を一度見比べてから私へとぎゅっと抱きついてくださいます。
忘れられてなくて良かった・・!そして、身長があまり変わらない事実がちょっと悲しいです。

「おねーちゃん。リルム、ずっとお手紙待ってたんだよ!!
なのに旅に出るからーなんてお手紙で最後になっちゃうなんて酷いよ!
あ、でも遊びに来てくれたのはリルムすっごく嬉しい!
いっつも代わり映えしないジジイの相手ばっかりしてさー・・・」
「ジ、ジジイ!?」

とてもショックを受けてらっしゃいますけれど?
それからパッと視線を移して、インターセプターへと近付きました。

「まぁ、可愛い犬」
「よせ、噛みつかれるぞ」

手を近づけるリルムに・・・って、シャドウさんそんな訳無いじゃないですか。
私の事だって覚えてた賢いインターセプターが、リルムを噛むなんてあり得ませんよ。
そして然り気無く“これが可愛い?”なんてどん引かないでください?ロック。
どう見ても可愛いじゃないですか!
インターセプターは差し出された手をペロリと舐めて、リルムもくすぐったそうに笑います。

「リルム、今は大事な話をしとるんじゃ。
奥に入ってなさい」
「えーっ!何でなのよ、この頑固ジジイ!!」
「良いから行くのじゃ」
「・・・・・・は~い」

渋々と言った表情を隠しもしない素直さが愛らしくて目を細めて見ていれば、リルムに手を取られて・・・?

「えへへ。でもおねーちゃんはリルムが連れてっちゃうもんね!
わんちゃんも一緒においで!」
「ワンッ!」

ニコニコ顔で見られては断る訳にもいきませんかね。

「ティナ、先に謝っておきます。色々伏せててごめんなさい。
後。ストラゴスさん、私に教えてない情報もお伝えするなら後で教えてくださいね!」
「うむ。すまんの、

いえいえ。可愛いリルムのお相手でしたら幾らでも。
当のリルムはストラゴスさんに一度舌を出して見せてからバタンッと勢いよく扉を閉めましたが。
でもほんの少しだけ淋しそうな顔をしてらっしゃいますから、拗ねてるだけですかね。

「ねぇねぇ、おねーちゃんとわんちゃんの似顔絵を描いて良い?」
「勿論。絵の練習をしてるとお手紙に書いてくださってましたものね」
「えへへ。でもリルムは更にそれをオリジナルの技にしたんだよー!
おねーちゃんにも見せてあげる!」
「・・・技、ですか?」

絵と技・・・?

「危険でなければ是非見せてください」
「・・・・・・わんちゃんって強い?」
「とても強いですよ」
「・・・・・・やっぱり普通の似顔絵にする」

つまり危険なんですね?思わず苦笑してしまいましたが。
2階に到着した私達はリルムに促されるままに椅子に座ります。
紙と鉛筆を取り出して、私達をジッと見つめてからリルムは描き始めました。
真剣な瞳。紙の上を鉛筆が滑る音だけが部屋に響きます。

「・・・・・・おねーちゃんはさ、町に行ってたんでしょ?
住んでたのってどんな場所なの?」
「素敵な場所ですよ。海も山も近いですし、港町ですから色んな物も入ってきますし。
活気があって、皆さん外から来た人にも優しいですし」
「ふーん。おねーちゃんは町で何してたの?」
「此処にいた頃とあまり変わりませんよ。
修行したり、調薬したり。家の事をお手伝いしたりです」
「えー?青春を満喫しなかったの?勿体なーい!」
「ある意味満喫しましたけどね。フィガロのお料理も作れるようになりましたから」
「そっちの満喫かー・・・リルムには分かんないなー」
「そうですか?でもリルムなら風景画とか沢山描きそうですけれど」

ピタリ。手が止まると真剣な瞳が私に向きました。

「良いスポットとか沢山ある?」
「綺麗な景色は沢山ありますよ」
「良いなぁ~!リルムも行きたい!!」
「もう少し大人になったらですね。
それに今はまだ帝国の事もありますから」

和平を締結したとはいえ、まだ油断は出来ませんし。


!」
「インターセプター、行くぞ」


階下から響くロックとシャドウさんの声。
あら、もうタイムリミットでしたか。

「描けましたか?」
「まだまだ全然~」

とはいえ、素人目には完成しているように見えますけれど。
鉛筆画なのに繊細で緻密なタッチ。あの短時間でここまで描けるなんて本当に素晴らしいです。

「では続きはまた明日、時間のある時にしましょうか。
幻獣が見つかれば多少余裕もあるでしょうから。
シャドウさんにもお願いしてインターセプターにも来てもらいましょう」
「インターセプター・・・?わんちゃんの名前?」
「はい、そうですよ」

もしかしたらリルムは覚えてないかもしれませんけれど。

「・・・インターセプターちゃん、またリルムと遊んでくれる?」
「ワンッ」

鳴いた一声に、リルムは“約束だよ”と笑顔で撫でて私達は皆さんの元へと戻りました。
ティナが笑顔で迎え入れてくださったので私も笑顔を返します。

「ティナ、ロック。幻獣のいそうな場所は聞けました?」
「西にある山が怪しいって話だぜ」
「あー・・・」

なるほど。確かに魔力の強い山ですしね。

「あそこならよく知ってますから案内できますよ」
「そりゃ助かるな」
「・・・・・・、あの山は子供の立ち入りを禁止にしておった筈ゾイ?」

ひぇっ!?背後からとんでもなく低い声ストラゴスさんの声。

「・・・・・・いや、ちょっとしたお散歩コースですよ。
何時も良い子に夕方には帰ってたでしょう?
それにもう10年以上前ですし、時効ですよね?」
「時効で済むかっ、このお転婆娘がっ!!!」

時効ですってば!そもそもお転婆だったのは小さい頃ですし、今は落ち着いてますからね?
ティナが吹き出すように笑うので、私もつい苦笑してしまいましたが。
後、シャドウさんも睨まないでくださいよ。シャドウさんがサマサに来る前の話ですし。

「それはともかくとして。情報ありがとうございました、ストラゴスさん。
西の山であれば今から行けば日暮れまでにはたどり着けますかね」

途中で野宿しても良いですが。

「安心しろ、何があってもは俺が守るからな!」
「え。このバンダナ男、おねーちゃんが好きなの?」
「いえ。彼は女性を守りたい病に罹ってるんです」
「酷い言い種だな」

あら、リルムの疑問にお答えしただけですよ?

「というか、前にご辞退させていただきましたよね?」
「今はマッシュがいないだろ。
守ってくれる奴が側にいないんだからそういう時位は頼れよ」
「そりゃあ彼はいませんが・・・流石に地元ですしねぇ」

そんなに心配する必要も無いとは思いますけれど。

「大丈夫、は私が守るわ」
「・・・ほら、ロックの所為でティナまで罹患したじゃないですか」
「俺の所為なのか!?」

どう見ても貴方の影響でしょう。
ギュッと私の手を握りしめるティナの頭を撫でながら宥めて、ロックに呆れた目線を送ります。

「ねぇねぇ」

きゅ。服の裾を引かれて見れば、どこか輝くリルムの目がありました。

「マッシュって誰?おねーちゃんの彼氏??
えー。おねーちゃん、修行ばっかりとか言ってちゃんと彼氏いるんじゃん!」
「あ、いや・・・その・・」
「違うわよね、
良い?リルムちゃん。マッシュとは愛し合ってて将来を約束してるのよ」
「ちょ、待ってくださいティナっ!」

なんて自信満々な笑顔で!!
“きゃー!”って、リルムも両頬に手を当てて顔を真っ赤にしなくて良いですから!
その興味津々なお顔を私に向けないでいただきたい。

「ほほう。それは初耳ゾイ?で、そやつは何処にいるんじゃ?」
「いません!連れてきてません!!」
「何でじゃ。折角の祝い事じゃろうに勿体無い。
ついでに此処で式も挙げてしまえば良いゾイ」
「そうなるから連れてこなかったんです!」

とんだ足止めになるじゃないですか!
あ。そのニヤニヤ顔止めてください、もう!!

、放電してるぜ」
「ロック!」

ニヤニヤ顔その2はお黙りください!
然り気無く電撃を避けるとか・・・ちょっと慣れてきましたね?

「元はと言えばロックが原因ですよね?」

マッシュの名前を出さなければバレなかった可能性は高いですよね?
その素知らぬフリをするのは如何かと思いますよ。

「まぁまぁ、今から西の山を探索となれは遅くなるじゃろう。
折角村に戻って来たんじゃ、飯ぐらいはご馳走するゾイ。
宿にも言っておくから今夜はゆっくり休むと良いじゃろ」
「やったー!インターセプターちゃんも一緒にご飯しようね!」
「わふっ」
「ありがとうございます」

あの外からのお客様が来たら機能する宿屋ですね。
使わせていただけるなら確かに助かりますから素直に頭を下げます。

「おねーちゃん、旦那の話聞かせてね!」
「まだ旦那様じゃありません」

気が早いんですから、もう。



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