鳥篭の夢

求める縁は真か偽か/6



「ケフカ!」

レオ将軍の驚いたような声。
目の前に現れたケフカは、数体の魔導アーマーを引き連れています。
何故こんな所に?そもそも貴方は終身刑だったのでは?
嫌な考えが過って・・・いえ、全く頭に無かったと言えば嘘になりますが、レオ将軍へと視線を向けました。

「レオ将軍、これは一体・・・っ?!」
「いや。私は聞いていない」

動揺の顔と声。
ですが、レオ将軍はすぐに気を引き締めるとケフカの前に歩み出ます。

「ケフカ、これは一体何の真似だ!?」
「ヒヒヒ・・・勿論、皇帝の命令ですよ!
やれ!魔導アーマー隊!その力を見せつけてやれ!」

言葉に魔導アーマーが射撃体勢をとります。私達も武器を────って、早!?
身構える隙も魔法を唱える暇もなく。
とはいえレオ将軍が瞬時に爆撃を両断するなんて業を見せてくださったおかげで直撃は回避したものの、私達の身体は爆風に吹き飛ばされました。
意識はかろうじて保ちましたが・・ぐらぐらと視界が揺れて、身体に上手く力が入りません。

「何をするっ!」
「命令に従っているだけですよ。
───幻獣達を魔石化して持ってこいとの事ですからね!
見よっ!幻獣を魔石化させる秘技を!!」

楽しそうな、ケフカの声。
幻獣を魔石化・・・?それはつまり幻獣を殺す技という事ですか?
ざわめく幻獣達の声が。悲鳴が。溢れていた魔導の力が凝縮されていくソレが。
───ああ、そんな事が許されてはならないのに。
身体が動かなくてもどかしくて。動いてください・・・動いて、・・・・・・動け───っ!

────・・ッドォン

落雷の落ちる音。感情の奔流。
霞む視界に、ケフカのすぐ脇の地面が焦げているのが見えて。
満足そうに魔石を握りしめているその姿が・・・・・・許せなくてっ!

「面白くないからこんな村なんて焼き払っちゃいな」

響く声音は明らかに退屈の色を示していて・・そんな理由でこの村を攻撃するんですか?
私達が来たから。結局は迷惑をかけて。
なのに何も出来ずにこのまま地面に転がってるだけなんて・・・・・・っ!

「そんなの・・・・・・いや・・・」

掠れた声。それでも心から強く願います。
魔導の力を練り上げて体力の回復と身体の強化を同時に施して、よろけそうになる身体を叱咤しながら走り出しました。
感情の振れ幅が大きすぎて。体内に蓄積した力が大きすぎて。
どうやって使ったのかも自分ではよく分からなくなってきてますが。

「止めるんだ、ケフカ!」
「うるさい!!」

制止の声を上げたレオ将軍に、魔導アーマーが攻撃体勢に入ったのが見えました。
今なら理解出来る、向けられた銃口から発せられる魔導の力を帯びたソレ。
──絶対に、させませんっ!
レオ将軍の横に立つと、私は魔導の力を一気に組み上げます。

「カーバンクルっ!助けてください!!」

練り上げた魔力が根こそぎ持っていかれる感覚。
溢れんばかりの光が鞄から放たれたかと思えば、カーバンクルが姿を現しました。

『やっと呼んだな、。────任せとけ!』

彼の額にある赤い宝石から光が放たれます。
私達だけでなく村の建物。そして植物まで。
ケフカと彼が連れてきた兵士以外の全てに、その光が降り注ぎました。
と、同時にレオ将軍に放たれた爆撃のような攻撃が、光に弾かれたように見えます。

「ぎゃああっ!!?」

パイロットへと直撃したのでしょう。
操縦席と思われる場所が無残にも焦げていて、機械と肉の焦げるような異臭が漂っています。

『ビンゴッ!やっぱ魔導の力による攻撃だったか!』
「流石カーバンクルです!」

本当に頼りになります。

『そりゃあお前の親友だからな。
補助は任せとけ!ま、それしか出来ねぇけど!』

カラカラと笑う姿は相変わらずですけどね。

「すまない、助かった」
「いえ。先程は私が助けられましたから。
それに今のはカーバンクルの力ですし」

初撃の勢いをレオ将軍が殺してくださったおかげで、意識を失わずに済みました。
改めて周囲を見渡して見れば、ティナ達は衝撃が強かったのか気絶しているようですね。
直撃したようには見えませんし、顔色も悪くありません。
今はカーバンクルの力で魔法も使えませんから申し訳ないですが一旦後で。
幻獣を助けられなかった事は・・・本当に悔しいですが。
眉根が寄っていたのでしょうか。消えかけのカーバンクルがそっと前足を私の頭に乗せます。

『あんま気にしてんなよ。魔石ならまだ魂は生きてんだ。
後、が過剰に魔力譲渡するから、他にも色々もおまけしといたぜ』
「・・・ありがとうございます」

確かに。無我夢中でしたから思い切り込めた気がしますが。
ニッと笑って消えるカーバンクルを見送って、私はケフカへと向き直りました。

「“アレ”が貴女の力の秘密・・・という訳ですか。
今手に入れた魔石の中にも同じ力は無さそうですね・・・・・・嗚呼、口惜しい。
良いでしょう。レオを葬った暁には貴女を操りの輪でお人形にして差し上げましょう!」
「え、それ持ち歩いてるんですか?」

怖・・・・・・。
って、そんな背筋を薄ら寒くさせている場合ではないですね。

「そのような戯れ言を・・・!
ケフカ!お前の行い、もう許す訳にはいかぬっ!」

手にしていた剣を構えたレオ将軍はすかさず衝撃波をケフカへと放ちます。
凄い剣圧・・・っ!ケフカは何とか耐えたようですがそれでも服と身体が・・・・・・あれ?

「今。ぇ・・・?」

見間違いでしょうか?ケフカの身体が一瞬だけ揺らいだような?
そのままレオ将軍は追撃だと斬りかかりますが・・・・・・。
いえ。でも・・・そうです。いくら魔導士と言えどもその身体から感じる魔力量が強すぎます。
自力で出てきたカーバンクル程ではありませんが、とても近い・・・まさかっ!

「レオ将軍、そのケフカは───」
「おやおや。こんな時にお喋りとは暢気なものですねぇ・・・っ!!」

言いかけた言葉にケフカがレオ将軍を蹴り飛ばし私へと向かってきたので、剣を抜いて迎撃の姿勢。
口止めしようとするのはやはり彼が実体ではないからなのでしょう。
ですがその切っ先が私に届くより前に、追いついたレオ将軍の手にある剣が煌めきます。

「暢気に構えているのは貴様の方だろう、ケフカっ!」

綺麗な一閃。直後、ケフカの剣が握られていた手がボトリと地面に落ちました。
剣がくるくると飛んで地面へと突き刺さる音がして・・・一瞬の静寂。

「───ヒ」

ケフカの喉の奥から引き攣ったような声が響きます。

「ヒヒヒ・・ヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・・ヒーッヒッヒッヒッ!」

凄絶な光景にレオ将軍と私は思わず言葉を失いました。
ええ、切られた手首から血を噴き出させながら笑う姿はゾッとさせられるものがあります。

「流石はレオ・・・私をこのような目に遭わすとは・・・」

どこか楽しそうに口の端を吊り上げながらケフカは姿を消しました。
気配はありますから・・・バニシュでしょうか?

「どこだ・・・・・・ケフカ、姿を見せろ!」


「ガ ス ト ラ 皇 帝・・・
お い で く だ さ い・・・・・・」


何処か不穏な響きを持つ声音。聞き取れない程微かな詠唱。
直後にレオ将軍の眼前に一人の老齢した男性が現れました。
これは・・・この方が、ガストラ皇帝ですか?
先程のケフカと同じ強い力を感じますから彼も偽物なのでしょうか?でも何か違和感が。
片膝をつき頭を垂れるレオ将軍に、皇帝らしき男は“騙していてすまなかった”と告げます。
そして今回の目的が“魔石を手に入れる事”であったとも。
流石に困惑を隠せないレオ将軍が食い下がりますが、ガストラ皇帝はそんなレオ将軍へと穏やかな表情を向けました。

「レオ。お前は疲れているのだ。暫くの休息を命じよう。
それも・・・・・・ずっとずーっと長ーくだ」

冷たい目線。ニィ、と不自然なまでに口を吊り上げて笑う顔に、ゾワリと何かが背筋を這うような感覚。
違います、これはただの偽物じゃありませんっ!

「レオ将軍、危ない・・っ!」
「くっ!!」

斬りかかるガストラ皇帝とレオ将軍との間に割って入りますが、一撃が・・・重っ!!
弾かれた私をレオ将軍が抱き留めてくださって何とかなりましたが。手がじんじんと痺れています。

「流石、純粋なる魔導士の血統とやらは違いますね。
魔力の流れを読んだのですか?それとも別の何かでしょうか?
・・・・・・それに比べて、こんな本物と偽物の違いも分からないような木偶のクズが将軍?
全く、ふざけやがって!こんなにも歴然とした力量差があるというのに・・・!!」

ガストラ皇帝の姿が靄にかき消えたかと思えば、その場にケフカが姿を現します。
先程までの幻影・・と言ってもカーバンクルのものと違って実体がありましたが・・その時には無かった人間らしい雰囲気がありますから、こちらは本物なのでしょう。

「レオ、気付かなかったでしょう?
お前が倒した気になっていた私・・・それは私の幻影なのだよ。
そして意気地無しのガストラ皇帝も、勿論、幻影!
なのに将軍気取って何時も何時も何時も何時も良い子ぶりやがって!」

何度も振り下ろされるケフカの剣を、私を片腕で抱えたまま受け止めてますが・・・いえ、あの離していただいて結構ですよ?
とは言え流石にこの状況下では言葉を挟めませんけれども。

「ケフカ!お前という奴は・・・・・・っ。
私に対してはともかく、皇帝への侮辱の言葉は取り消してもらうぞ!」
「ヒーッヒッヒッヒ!流石、良い子のレオ将軍は言う事が違いますねぇ!
ですが・・・そもそも私はその皇帝の命を受けて此処に来ているのですよ?
此処で殺り合うのは帝国への裏切り行為。困るのはそちらでは?
お前の大切な大切なガストラ皇帝を、自ら裏切るおつもりですか?!」
「そうではない!お前の言動と行動が目に余ると言っているのだ!!」
「嗚呼・・・・・・だから、そのっ!お前の態度が!気に食わないんだよ!!」
「・・・っ!サンダラ!!」

視界の端に何かが映って、危険だと反射的にサンダラを放ちます・・・が、急でしたから魔力をあまり込められませんでしたね。
ケフカの蹴りがレオ将軍の脇腹に見事に入って一緒に吹き飛びました。
強い衝撃。私、直撃しなかった筈なのですが。見れば離れた場所でレオ将軍も同じように地面に倒れています。
・・・・・・え?魔導士ですよね?どれだけ脚力強いんですか、あの方は。
ケフカへと視線を向ければ、所々焦げてダメージはあるようですがあくまで平然と立つ姿。

「ヒヒヒ・・・女を庇って倒れるとは無様なものだな」
「・・・・・・っく」
「安心しろ。皇帝にはレオは本心で裏切ったと報告しておいてやる!
ヒーッヒッヒッヒ!!」

まるで道端の小石のようにレオ将軍を足蹴にして・・・・!
短剣の刃が煌めいて、深くレオ将軍へと突き立てられて。引き抜いたソレをもう一度・・ああ、目の前が赤くなる感覚。
大丈夫、カーバンクルのかけていてくださった“色々”のおかげかまだ身体は動きます!

「止めなさい、ケフカっ!」
「止めろと言われて、止める者がおりますか!」

鞄から薬を取り出して蓋を開けたままレオ将軍へと放りつつ、そのまま剣を持ち直すとケフカへと斬りかかります。
短剣を引き抜きすぐに背後に飛び退かれたので、切っ先が僅かに掠った程度ですが。

「レオ将軍!」
「す、まない・・・」
「喋らないでください、出血が酷いです・・・っ」

最初に放った薬がじわじわ効いてきていますがまだ足りませんね。
鞄から事前に作っていたハイポーションを幾つかかけて何とか止血します。
とはいえ抉るように幾度も裂かれた傷は深かったのか、血溜まりが出来る程の出血量ですし。
それに内蔵へのダメージも気にかかりますから、状況的に危ない事に変わりありません。
早く安静に寝かせて、出来るなら造血剤も服用していただかないと。

「何故こんな奴ばかりが許容される・・?
何故ぼくちんじゃなくてこんな奴ばかりが認められるんだっ!何で何で何でっ!!
力があるのは俺で、こいつは魔導の力すらないってのに・・・・・・ああああああっ!!
・・・・・・嗚呼、そうだ。私にもっと力があれば。多くの力を集めれば。
を手に入れるのは俺なのだから。その力を、その何もかもを・・・・・・!」

何だか後半、聞き流すには物騒な内容になっていたような気がしますが。
何時の間にか背後にいたケフカに腕を捕まれて、無理やり立たされます。
が、その手からまるで干渉するように魔導の力が入ってきて、視界がぐらりと揺れました。

「・・・・・・っ!」
「さぁ、もう逃げられませんよ。
観念して私のものになりなさい」
「はな、して・・・くださ・・・・・・っ!ごほ!!」

魔力の影響が強くて、呼吸が乱れます。これは、彼が所持している魔石の所為でしょうか?
それとも彼が持ち得る、注入された魔導の力の所為でしょうか?
薬を飲んでいる筈なのに頭がくらくらして・・圧が強くて咳も出ますし。

「嗚呼、成る程・・・・・・貴女は“おかしい”のですね!」

人が苦しんでいるのに何て失礼な言い草でしょうか。
後。調子を崩してますから、その笑う声が頭に響くのですが。

「魔導の力の方から貴女に集まるだなんて。
魔石の魔力すら・・・何なんですか?貴女は!何て素晴らしい!!
魔力を集める器なんて、面白いじゃあないですか!!」

こんな今にも壊れそうな器に一体何の価値を見出だしたのでしょう?
それより・・・何とかしないと、本当に。心臓が、痛くて・・・。

「何処まで耐えられるのですか?
ほら、もっともっと魔力を注いで差し上げましょう!ヒーッヒッヒッヒ!」
「・・・サンダガ」

苦しい。

詠唱も、魔導の力を練り上げる事も、出力を調節する事もせず、ただ力を解放します。
ああ・・ダメですね。痛くて、苦しくて、ぐるぐるして、ぐるぐる・・・。

「素晴らしい!なんて威力だ!!
それを私のものにすれば────っ!!!」
っ!』

カーバンクル・・・の、声ですか?1日に2回も出てくるなんて、初めてでは?

『くそ・・っ!一旦退くぞ!』
「逃がすものですかっ!」
『テレポ!』

ガクンと、身体に強い負荷。
それに薄れかけていた意識は完全に闇に飲み込まれたのでした。



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