鳥篭の夢

目覚める悪意/2



「成る程。魔導士の村か・・・。
が俺達に隠していた事はそれだったんだな」

飛空艇のロビーでお互い今迄にあった事を話をした後。
深く息を吐いたエドガーさんに私は一度頷きます。

「そうなりますね」
「サマサの村が魔導士の隠れ里である事は秘匿されるべき事実じゃからの。
弱まっているとは言え力は力じゃ。今の世では帝国に悪用されんとも限らんゾイ」
「確かに。魔導の力の研究をし、普及してきた帝国が知れば使者を送っただろうな。
とはいえ流石に人間相手に非人道的な行いをするとは思えないが・・・」

レオ将軍の言葉に、ほぼ全員が疑惑の目線を向けました。いえ、彼としては本心なのでしょう。
自国の事ですから認識が甘くなるのは仕方ない事でしょうけれども。
とはいえ兵士として前線に送るか実験に使われるか。どちらかは行われたのではと私は考えます。
事実がどちらであれ、それが私達から見た帝国への認識ですから。

「だが秘密を俺達に話して良かったのか?」
「ストラゴスさんが話して良いと判断されましたから。
それに・・・皆さんも幻獣に力を託されて魔法の力を得ていますし」

問題ないとの事ですから大丈夫なのでしょう。
ですから、マッシュはそんなに心配そうな顔をしなくて良いですからね。
と、苦笑していれば不意にガウが頭に乗っかってきます。何だかこれも久しぶりですね。

っ!ジジイもビリビリつかえるか?
ちいさいのも、つよいのか??」
「リルムは小さくないしっ!
それに、ちゃんとリルムって名前があるの!」
「リルム!ガウー!おいら、ガウだ!」
「えーっと、ガウ?が、名前なの??」
「ガウガウ!」

嬉しそうに笑うガウに、リルムは怪訝な顔をしました。
それからハッと気付いたようにその指をガウに突きつけます。

「じゃなくてさ、リルムだってちゃんと戦えるんだからね!
それにおねーちゃんに乗っからないでっ」
「がう?」
「まぁまぁ、何時もの事ですから」
「おねーちゃんは甘過ぎなのっ!」

とか言いながらも私の隣を陣取る姿は可愛らしいですけれどね。
その様子を眺めながらロックがニヤニヤと笑いました。

「モテモテだな、
「嬉しい限りです」

好意を真っ直ぐに向けられるのは、やはり少しくすぐったく感じますが。

「・・・と、話が脱線したな。魔導士、というからには貴方達も魔法を?」
「うむ。わしは青魔法を得意としておる」
「青魔法?」
「クポー?」

聞き慣れない単語なのでしょう。
モグさんをふかふかしながら、ティナが首を傾げます。

「うむ。魔物が使う技を覚えて使うのじゃ。
純粋な魔法の力・・・という訳にはいかなくとも、相当の威力はあるゾイ」
「不思議な魔法だとは思ってたけど、そうだったのね」
「そう聞くとガウに似てるな」
「確かに。ガウ殿も魔物の真似をして技を出しておられたな」
「ガウー!おいら、すごい!」
「リ、リルムだって凄いもん!
スケッチしたら、その魔物とか人の得意技が出せちゃうんだからね!」
「へー、そりゃ凄ぇな。
あ。だからあの時、達が慌てて止めてたのか」

“自分の技で攻撃されるとか想像しねぇもんなぁ”なんて笑うマッシュに、リルムの頬が一気に紅潮していきます。

「リルム、凄いかな?」
「おう。めちゃくちゃ凄いぞ」

乱暴に頭を撫でられたリルムは下を向いてしまって、ですがその口元が緩んでいるのが見えました。
ああ、照れてらっしゃるんですね。可愛らしい姿に思わず私も笑みが零れます。

「リルムにしてもストラゴスさんにしても、戦力としては申し分無いと保証しますよ」
「そのようだな。巻き込んでしまう事は心苦しく思うが、助力に感謝するよ」

エドガーさんの言葉にリルムとストラゴスさんはそれぞれに笑みを見せて返しました。

「後は帝国の・・・ケフカ達がこれからどうするつもりなのか?よね。
ケフカは封魔壁から出てきた幻獣達も魔石化させたって話だもの。
力としては申し分無い筈・・・・・また戦争でも仕掛けるつもりなのかしら?」
「いや、帝国の奴らは封魔壁に向かったみたいだぞ。何かの像を見つけたとか・・・?
ま、城内が慌ただしかったおかげで俺達も無事に脱出出来たんだがな」
「もしや!」
「それって・・・!」

セッツァーさんの言葉に、私とストラゴスさんは顔を見合わせました。
封魔壁で見つかった像。それはつまり三闘神の・・・・・・っ!?

「・・・聞こえる」

不意に窓の外へと視線を向けて、ティナが呟きます。

「ティナ、どうしたクポ?」
「島が・・・!?大地が・・・叫び声を上げている・・・」

まるでティナの言葉に呼応するように、飛行中の艇内からでも地響きが聞こえます。
窓の外に何か巨大な塊が一気に飛翔したのが見えて・・・・・・って、もしかして今の地面では?!
強大な魔導の力を秘めたソレに、マシになっていた筈の身体が再度圧迫感を訴えました。

、無理するなよ」
「・・・・・・はい」

マッシュにはやはりお見通しですね。
鞄から薬を取り出して飲んでから、1つ息を吐きます。

「ストラゴスさん、今の力は・・・」
「うむ。魔導の始まり・・・・・・三闘神・・・その力じゃろう」
「あれが?」

驚くティナにストラゴスさんは真剣な表情で返します。

「石化せし三柱が向かい合い、力を中和させる事で自らを封じたと言われておる。
3体の石像の視線がずらされた時、バランスが崩れその力は世界を滅ぼす・・・」
「えっ?!」
「まだバランスは保たれているようですが・・・。
三闘神を目覚めさせようなんて、帝国は世界を滅ぼすおつもりでしょうか?」
「まさかっ!?」

ガタン。動揺したレオ将軍が立ち上がります。

「帝国が目指していたのは世界統一による安定した政治の為だ!
国々の間での無用な争いを起こさぬ為にも国を纏める・・その為に今まで戦ってきた筈だ」
「・・・そうね。私もそう教わってきたし、ずっとそのつもりで戦ってきたわ。
だけど・・・世界各国、その民達をよく見れば分かる。
レオ将軍。私達が今までしてきた事は、本当に何でもないただの侵略行為よ。
そして人間と何ら変わらない・・感情を持つ幻獣達を、使い捨ての道具にしてきた。
今回だってそう。強大な力を得る為だけにガストラ皇帝は、私や貴方を騙してまでも・・多くの幻獣を犠牲にしたの!!」
「・・・・・・私は・・・っ」

苦々しい表情。そのままソファに座り直すと、黙り込んでしまいましたが。
セリスさんも心配そうなお顔でレオ将軍を暫く見つめますが、やがて首を横に振るとエドガーさんへと頷いて見せました。

「あの浮遊した大地にケフカやガストラがいる可能性は高いだろうな」
「乗り込むのか?兄貴」
「ああ、この世界を破壊させる訳にはいかない・・・!」

真剣な表情のエドガーさんに、セリスさんも頷きます。

「そうね。それに私も・・・ちゃんと帝国との決着をつけたい」
「セリス・・俺も一緒に行くぜ。俺が絶対に守るから」
「・・・・・・ありがとう、ロック」

まるで不安を払拭させるようにロックがセリスさんの手を握り締めて、それにセリスさんも柔らかく微笑んで返します。
と、俯いていたレオ将軍が漸くと顔を上げました。

「私も共に行かせて貰っても良いだろうか?」
「でもまだ体調は万全では無いでしょう?」
「だが・・私は真実を知らなければならない」

・・・私としては療養すべきとは思いますけれど。
ちらりとエドガーさんへと視線を向ければ、彼はそっと目を伏せました。

「1日は様子を見よう。
力を欲しているとはいえすぐに行動を起こすとは思えないし、此方の準備もある。
だが体力が回復しきらない貴方を連れていける程、我々としても余力がある訳ではない。
明朝迄に万全では無い場合は悪いが此処に残ってくれ」
「・・・・・・分かった」

決して納得はしていない。そんな表情ではありましたが、レオ将軍は頷きます。
それからロック達と共に、レオ将軍やストラゴスさん達へ飛空艇内設備の説明と個室の案内をしてから私達は解散となりました。
一応リルムも個室にはしましたが・・・まぁインタセプターが一緒にいますから大丈夫ですかね。

数日、修理の時以外には使われていなかったのでしょう。
多少埃っぽくなった飛空艇の共用部を軽く掃除してから自室へと戻ります。
昨日は酷い目に遭いましたからね。
剣に綻びはないかの確認と手入れ。薬の残数チェックと一通りの調薬を終えてから私は一息吐きました。
カーバンクルもご無事なようで良かった。
もしあの時ケフカに取り上げられてしまっていたら、きっと・・・・・考えかけて、私は首を横に振ります。
指先で優しく撫でて、ふわりと光を帯びるそれに一度笑みを見せました。
さて。次は何を────・・考えた所で扉がノックされます。


「ちょっと休憩しないか?また根詰めてんだろ」

マッシュの声がして扉を開ければ、ティーセットをトレーに乗せて微笑む姿がありました。

「お茶淹れてきた。飲むか?」
「はい。ありがとうございます」

ふふ。何時もなら私が淹れるのに・・・立場逆転ですね?

「あ。でもお茶請け忘れたなー」
「お気にせず。それはまたおやつの時間にしましょう」
「そうだな」

笑って、ソファーに座ってからマッシュが手ずから淹れてくださったお茶に口をつけます。
サウスフィガロでもよく飲んだ、マッシュのお好きな茶葉の香りと味。
変わらず好ましいソレが喉の奥へと落ちていって、心地好い感覚に一度長く息を吐きました。

「美味しいですね」
「ああ」

お互いに顔を見合わせて、笑います。
穏やかな時間があるのは何だか久しぶりな気がしますね。最近はずっと慌ただしかったですから。
カップを持つお互いの腕が僅かに触れあって、そこからじんわり伝わる熱が温かくて安心感。
離れていた分、お話ししたい事があったようにも思うのに・・でもこの静寂が心地好くて。
飲み終えたカップを片手で遊びながら、反対の手は自然とマッシュの大きな手と絡まりました。
気恥ずかしさと同時に幸福感があって。何だか自分の感情が忙しなく動くのは不思議です。
旅の途中でも修行を続けていたその手は、本当に頼もしくて・・・離れてしまうのは、淋しくて。

?」
「いえ・・・」

明日の事が少し頭を過って、勝手に感傷的になってしまっただけですから。
マッシュはきっと行ってしまうでしょう。お強いですから頼りになりますしね。
考えが伝わったのか、それとも同じような事を考えていたのでしょうか?
マッシュは私と繋がっている手に僅かに力を込めて、一度カップをテーブルに置いてから真剣な表情で私へと向き直りました。

「明日。は行くつもりなのか?」
「残る予定ですよ。・・・だって、行って欲しくないでしょう?」
「あー・・・」

乱暴に頭を掻く仕草。それに私は笑って見せました。

「今回は無理しないつもりです。レオ将軍もあの様子では全快しないでしょうし。
そうなれば看ている人間も必要になるでしょう。
とは言え・・どうしようもなく危険だと判断すれば、飛び出してしまうかもしれませんから」

そちらも無理は厳禁ですよ、と私は言葉を続けます。

「・・・・・自分があの場所と相性が悪い事は理解していますから。
三闘神の力で浮かせた島なんて・・どれ程か測れなくても魔導の力が強い事位は分かりますし。
離れた場所にあるのに今もその力が伝わってくる程ですからね。
薬を服用しても、あの場に私の身体が耐えられる保証はありません」

その状況でついて行っても足手まといになるだけでしょう。それだけはなりたくないですから。

・・・・・約束する、絶対に戻ってくるから。だからそんな顔するなよ」

ふわりと、まるで壊れ物を扱うように優しくマッシュの両手が私の頬を包みました。温かさが滲んで、それが凄く切なくもなるのですけれど。
何処か痛ましいものを見る目線なのは、きっと染まってしまった瞳の事でしょう。
言わないでいてくれていますが・・・ええ、セッツァーさんが気付く位には違うのですから。

「大丈夫。私だってきっとちゃんと待てますよ。
今までだって修行に向かうマッシュ達を、おば様とずっと待てたんですから・・・ね?」
「ああ、そうだな」

唇が近づいてきて、思わず目を瞑った私の瞼にソレが落ちてきます。
私の手からマッシュがカップを取り上げて、テーブルへと置きました。

「マッシュ・・・?」
「ん。ちょっとだけ補給させてくれ。
何ていうか。ここ数日離れてたら、分が足りなくなってなー」
「何ですか?それ」

くすくすと笑って、落ちてくる口付けに応えます。
ああ、でも確かに腑に落ちると言いますか。
触れた箇所から充足感が満ちるのですから、あながち間違いではないのかもしれません。
マッシュの首に腕を巻き付けるように抱きつけば、何故かぎこちなく抱き締め返されました。

「あの・・・さん?」

そんなに動揺しなくても良いのでは?
お顔が真っ赤ですし、何かさん付けになってますし。

「いえ、私もマッシュ分を補給しようと思いまして」
「・・・・・・~~っ!あーもう、可愛いな」
「えー?最初にしたのはマッシュじゃないですか」

その定義ですと可愛いのはマッシュになるのでは?

がするから可愛いんだろ。あー・・・本当にヤバい」

マッシュの私への扱いもなかなかヤバいですけれど。
わしわしと頭を撫でて抱き締めるのは子供とかペットとかに近い気がしなくもないのですが。
あ、いえ。嘘です何も考えてません!
まるで考えを読まれたかのような目線に慌てて首を横に振れば、マッシュはふと笑みを溢します。
そしてそのまま幾度も落ちてくる口付けと体温を、私も瞳を閉じて享受するのでした。


「皆さん、気を付けてくださいね」

さて翌日。
今回はティナ、セリスさん、ロック、マッシュ、エドガーさん、ストラゴスさんのメンバーで、魔大陸への上陸となりました。
ティナにばかり負担がかかっているのではと不安でしたが笑顔で大丈夫だと仰ってましたから。
それに魔導の力に長けた方が多くいらっしゃるのであれば一先ずは安心・・といった所でしょうか。
ストラゴスさんは若い頃に世界中を旅した事があるとの事ですし魔物にも詳しいでしょう。

私、リルム、ガウ、モグさん、カイエンさん、セッツァーさん、レオ将軍はお留守番組です。
何かあった際に動けるように、飛空艇に残る人も勿論必要ですから。
レオ将軍は流石に体力が戻りませんでしたので残念ですが私達と飛空艇に待機で。
造血剤を飲んでも流石に1日2日で元通りとはいきませんしね。
“行ってきます”と甲板へと出られたティナを見送って、それから不満顔のリルムへと苦笑します。

「ぶー・・・リルムも行きたかったのに・・」
「まぁまぁ。リルムはインタセプターのお世話がありますからね」
「おねーちゃんも真面目おじさんのお世話があるもんね」
「真面目おじさん・・・は、レオ将軍の事ですか?それだとカイエンさんと被りません?」

カイエンさんもとても真面目な方ですよ?

「そっちはほら、ゴザルおじさんじゃん?」

ゴザルおじさん。

「カイエン、ござるー!」
「おお?ガウ殿、どうなされた?」

楽しそうに笑いながらじゃれつくガウに、カイエンさんは驚きつつも嬉しそうにされています。
まぁ、良いんですかね?気にされているようでもないですし。
さて、レオ将軍にはもう少し休んでいただいて・・・・・・考えていれば、視界の端に何かが過ります。
窓へと視線を向ければ・・あれは機械の乗り物?でしょうか。
帝国の兵器らしき何かが幾つか横切っていって同じように気づいたレオ将軍が目を見張りました。

「あれは帝国空軍!?何故こんな場所に!」
「・・・・すみません、少し甲板に行ってきます!
カイエンさんはレオ将軍をお願いしますね」
「うむ、承知したでござる」
「リルムも行くっ!」
「ワンッ!」
「ガウガウっ!!」
「クポー!」

んん?何だか沢山ついてきてらっしゃいませんか?



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