鳥篭の夢

目覚める悪意/3



沢山後ろにいらっしゃるのは一先ず置いといて。
とにかくと慌てて甲板へと出れば、既に何機かが飛空艇を取り囲んでいます。
皆さんもだいぶ魔法を上手に使用されて迎撃していますが・・・。
むむ。数が増えていく一方ですから、このままでは消耗戦になりそうですね。

!・・・皆も、何しに来た!
流石に今見送りするには危なっかしい状況だぜ?」
「お気遣いありがとうございます。ですが援軍のつもりですので。
それよりセッツァーさん!あれは・・・!」
「ああ。インペリアル・エアフォース・・・ま、帝国空軍ってヤツだな。
数が多くて引き離すには少々面倒だ。手を貸してくれるか?」
「そのつもりでしたから、お任せください」
「ガウも!ガウもやるぞ!」

精神を集中させてサンダラを放てばエンジン部から煙を上げながら機体は落ちていきました。
良かった。前回のクレーンとは違ってこれには雷の魔法も通るようですね。
ガウも上手にサンダラを機体に当てていきます。あ、飛びかかったらダメですよ?ガウ。

「セッツァー、あの島に飛空艇を降ろせるか?!」

エドガーさんの問いに、セッツァーさんは飛空艇を旋回させながら眉を寄せます。

「いや。あの島の形状じゃあ飛空艇を降ろせる場所がねぇな・・・。
出来る限り寄せるから、そのまま飛び降りてくれ!」
「了解だ!ティナ、行けるかい?」
「ええ。勿論」
「頼もしい限りだ」

迷い無く頷くティナにエドガーさんは優しい笑みを向けて、ティナの頭を一度撫でました。

「帝国空軍は此方で迎撃しますから、皆さんはタイミングを見計らって上陸を!」
「ああ。そっちは頼んだぜ!」
「リルムもお手伝いするよっ!えーいっ!」

スケッチブックに絵筆を滑らせれば、直後にビームのようなものが放たれます。
帝国の兵器にも有効なんですね?流石、リルム。

「よっしゃ今だ!気をつけて行ってこいよ」
「怪我の無いようにレビテトをかけておきますね」
「ええ。ありがとう!」
「では上陸するぞ。皆、油断するなよ」

全員にレビテトをかけると、ティナとエドガーさんがいち早く島へと飛び降りました。

「程々に手加減してやれよ、
「ロックは私を何だと思ってらっしゃるんです?」

そんな極悪非道みたいに言わなくても・・・。

「お転婆娘だろ?じゃあな!」
「異論はないゾイ。
リルムも良い子に留守番しておくんじゃぞ」
「ストラゴスさんまでっ!」
「もー!子供扱いしないでよ、おじいちゃんっ!!」

むすっと頬を膨らませるリルムにストラゴスさんは笑って、ロックに続いて飛び込みます。

「ふふ。気を付けてね、皆」
「じゃあ、行ってくるな」
「はい。どうかご武運を」

言葉にセリスさんとマッシュは笑顔で行ってしまいました。
落ちていく先を見送って・・・・・・んん?何でしょう?あれ。

「おねーちゃん、あれオルちゃんじゃない?!」
「ええ。それにあのピンク色の魔物も・・・皆さんを狙ってますね」
「どうしよう?遠すぎてリルムのスケッチ、届かないよ?!」
「魔法で仕留められると良いのですが・・・」

狙いが遠いと、なかなか加減が難しいですからね。
とはいえ無防備な皆さんを相対させる訳にはいきません。
魔力を練り上げながら目を細め、動く的の先へと目標を定めます。

「────サンダラ!」

唱えれば狙い通りに鋭い電撃が落ちて、オルトロスと謎の魔物は煙を上げながらゆっくりと皆さんから離れていきました。

「これで大丈夫ですかね」
「おねーちゃん、強いよねぇ」
「サンダラは使い慣れてますからね」
「ワンワンッ」
「ぇ・・・きゃあっ!?」

唐突に吠えるインターセプターにリルムが押し倒されたと同時。ビームがその箇所を掠めて通りすぎます。
あ、ぶなかった・・・インターセプターが助けてくれなければリルムに直撃だったでしょう。
振り向けば、モグさんが槍でさばいて操縦席のパイロットを叩き落としてくださってますね。
私、戦うところは初めて拝見しましたが、ふかふかのお手々なのにお上手なんですね。感動です。

「リルム、ご無事ですか?」
「うん、ちょっと頭ぶつけたけど」
「くぅん」
「ありがとね、インターセプターちゃん」

抱き締めるリルムにインターセプターは鼻を鳴らしながらすり寄りました。
さて残りは・・・と、周囲を見てみれば、ガウに容赦なく暴れられたのか幾つかの帝国兵の機体には無数の傷がついています。
そろそろヒートアップし過ぎてガウが飛び込みかねませんね。

「ガウ、雷を使うんですよ」
「・・・っガウ!ゥゥゥ・・・ガウゥッ!!」

吠える声と共に電撃・・・やはり何度見てもサンダラと思われるソレを放ちました。
追撃にと私も同じように唱えれば、更に幾つかの機体へと直撃します。
・・・・・・んん?何だか動きが先程とは変わってきましたね。
結構な数を落としたからでしょうか?帝国の方々は軌道を変えて、飛空艇から離れて行きました。

「ガウかった!ガウつよいっ!」

肩で息をしながら、ガウが満面の笑顔を見せます。

「はい。とてもお強かったですね」
「ガウー」

ケアルで傷を治しつつ差し出された頭を撫でれば嬉しそうに笑う顔。

「モグさんも、とてもお強いんですね」
「クポ!ぼくはモーグリ族の戦士クポ!
これでもリーダーとして仲間を守ってきたクポー!」
「なるほど」

それなのに今は私達と来てくださってるんですね。
とてもありがたい限りです。

「ふかふかなのに凄いねー」
「モグつよい!すごい!」
「クポォー・・・」

リルムとガウもきらきらとした視線を向けていて、モグさんは照れたように笑います。

「帝国の奴らも撤退したな。皆、助かったぜ」
「いえ。飛空艇もご無事のようで良かったです」
「あいつらも無事に上陸出来たみてぇだし、こっちは小休憩だな」
「ですね」

セッツァーさんは一度島へと視線を向けてから肩を竦め、それから大きく伸びをしました。


殿、ガウ殿。皆の者もよくご無事で」
「ガウがんばった!おいら、つよかったぞ、カイエン!」
「おお!それは何よりでござる」

“良く働きもうしたな”とガウの頭をわしわしと撫でた後にじっと見つめるリルムに気付くと、その頭を優しく撫でます。

「わっ!リ、リルム子供じゃないしっ!」
「む。左様でござったか。失礼した」
「べ、別にー・・・何て事ないけどさー・・・・・・」

語尾がゴニョゴニョしていますから照れてるだけですかね?
カイエンさんと顔を見合わせて、分かっているのだと言わんばかりに微笑まれます。
もにょもにょと聞き取れない声で何事かを呟くとリルムは走り去ってしまいました。
ガウとモグさんも後を追いかけて行ってしまいましたね。

「あれだけの数を撃退したのか」
「魔法が通れば何とかなりますし、あちらも途中で撤退しましたしね」

それにガウ達がとても頑張ってくださいましたから。
私1人ではこれだけ早く撤退させる事は出来なかったでしょう。

「さて。では、レオ将軍」
「ん?」
「お薬の時間です。造血剤と、効果を上げる為のお薬ですね。
それとこれも。早く体力を戻さないと何かあってからでは遅いですから」
「ああ、すまない」

笑顔で受け取ってそれをレオ将軍は口に運びます。
どれも効果重視で調薬しましたからとても苦い筈なのですが、流石と言いますか・・・顔色1つ変えずに一息に飲まれる姿は思わず拍手したくなりますね。
お口直しに冷えた果実水を渡せば一気に飲み干しますから、やはり苦かったのだと分かります。

「・・・レオ将軍は、今回の件についてはどうお考えですか?」
「情けない話だが未だに理解が出来ずにいる・・というのが本音だ。
ケフカを牢から出した事も、私達に差し向けた事も、幻獣と和平を結ぶという言が虚偽であったかもしれぬ事も・・・」
「私からすれば、そもそもケフカのような方が将軍である事も驚きですけれど」

危なっかしいでしょう?破壊衝動も強くて、部下を蔑ろにする。
どれだけ実力があろうとも上に立つ人間になるべき人材ではない筈です。

「ああ・・昔はあそこまで卑劣な男ではなかったのだがな。
確かに正々堂々とは言い難い戦術も多く意見が対立する事もあったが、奴なりの筋が通っていた。
あのような思考になったのは・・・あぁ、魔導の力を得てからか」
「人造魔導士・・でしたか」
「前に仰っておりましたな。
帝国はかの施設にて幻獣の生命を力に変え、人工的に人体へと注入したとか」

カイエンさんの言葉に私は一度頷きました。

「当時は確立した技術もなく半ば人体実験のような形で行われたものだ。
年齢、体格、精神レベルを加味し、被験者に選ばれたのは私とケフカのみだった。
とはいえ私は魔導の力というものに忌避感を抱いていた為、被験者になる事を辞退したが・・・ケフカは自ら魔導実験に志願したと聞いたな。
結果として魔導の力を得る事に成功。
指揮能力や判断力に不備も見られなかった為、初の帝国魔導士として軍事再編成の際に将軍の地位に就いたんだ」
「あんだけイカれてんのにか?」

レオ将軍の言葉に、セッツァーさんが目を丸くします。

「言動が破綻している訳でもなく、帝国への忠誠心もある。
確かに昔よりも多少敵への配慮が欠けていたようには見受けられたが・・・」
「その“多少”なんて甘い考えが、ドマへの毒を流すなんて事を許す結果になった訳か」
「・・・・・・ああ。ドマと交戦していた私が言えた義理では無いが・・・あの時、奴を止められなかった事、気付けなかった事は一生の不覚だ。
あれだけの犠牲を出すなどと・・・絶対に許されていい事ではない」

ドマの話題を出すのは如何かと思いますよ?セッツァーさん。
カイエンさんはすぐご自分の身の内に負の感情を押し込んでしまいますから・・・。
強く拳を握り締めて押し黙るカイエンさんの上から手を重ねれば、気付いたと私へと視線を向けてから苦笑してくださいます。

「悪ぃ。余計なこと言ったな」
「気に召されるな。セッツァー殿」
「ああ・・・」

言いながらも、セッツァーさんは目を伏せてしまいましたけれど。

「・・・なるほど。ケフカはその頃から魔導の力に精神を侵されているんですね。
確かに私も大きな魔導の力に干渉されれば思考がぼやけますし・・近い症状なのかもしれません」

精神エネルギーとされる魔導の力を多量に得れば、感覚や思考に影響が起こる事は否めません。
魔導の力は本来精神に作用しますから。
私は基本的に身体面に不調が出ますけれど、同時に思考する余力が無い事も多いですし。

「そう言えば・・・・確かケフカは元々帝国出身では無かった筈だな。
元いた国の戦争によって身内を失い、それからは一人で生きてきたのだとか。
傭兵紛いの事をしていた時に腕を買われて帝国にスカウトされたという話だ。
奴とは過去を語り合うような事はなかったが、帝国の国家統一に関しては“それが1つの手段になるといい”とは言っていたか・・・」
「だからこそ魔導実験も受けた可能性があると?」
「そこまでは流石に。だが事を成す為に力を欲するというのは気持ちとして分からなくもない」

なるほど?確かにそうなのかもしれません。
リターナーの方々もそうでしたものね。力を得る為に幻獣やティナに助力を乞いましたから。

ケフカの本当の目的は何だったのでしょう?

国家統一による平和?或いは支配?それとも単に力を得たかっただけでしょうか?
彼は何時も私の力を欲していた。・・・厳密には、彼の知らないカーバンクルの力を。
狂気すら孕んだあれはただ純粋な知的欲求とは違っていたように思います。
単純に魔導の力を欲していた?己にとって過剰な迄の力を・・・・・・過剰?

?」
殿、どうなされた?」
「・・・・・・いえ、どうして思い至らなかったのだろうと今更に気付きまして」

言葉に、セッツァーさんとカイエンさんは首を捻りました。

「自分が当然に使えていたからつい忘れてしまうのですが・・・本来人の身に魔導の力は過ぎたる力である。と、されているんですよね。
ケフカのように人工的に注入されたのであれば尚更でしょう。
ですから、もしかしたら私の薬が効果を発揮するかもしれません」
「薬?」

レオ将軍が首を捻るのと同時にカイエンさんが一度手を叩きます。

殿の“魔導の力に干渉されにくくなる”という薬でござるな」
「はい。あれには体内に過剰に溜まった力を体外に排出する効果もあります」
「成る程な。それを使えば、アイツの人工的に入れた分を出せるかもしれねぇって訳か」

可能性の話ではありますが。

「カイエンさん、セッツァーさん・・すみません。少しだけ無茶をしに行きますね」
「なりませぬぞ、殿!
斯様な土地で身体にどれたけの負担をもたらすか分からぬと仰られたのはご自身にござる」
「ええ。ですが・・・私はケフカの真意を知りたい。
確かにこの薬で彼を弱体化させられるとも、精神汚濁の解除が出来る確証もありません。
それでも戦力を多少でも削ぐ事が出来るのでしたら・・・或いは彼の真実が見えれば、もしかしたらこの状況を打破できるかもしれません」

仮に彼の望んでいた事が仮に平和でも、罰を受けていただくのは勿論の事ですけれど。
それにケフカを無力化したとして全てが解決するなんて楽観視は全く出来ませんけれどね。
ただ魔導の力を使う世界統一なんて・・・・私達魔導士はそれを許容してはいけませんから。

「ごめんなさい、カイエンさん。
やっぱり私、ストラゴスさんが言っていた通りお転婆娘だったみたいです」
殿・・・」

悲しげに顔を歪めて・・・あ、いえ死にに行くつもりは毛頭ありませんからね?

「良いじゃねぇか、カイエン。
その1つの可能性に賭けようって心意気は、俺は嫌いじゃあないぜ」
「セッツァー殿・・・しかし・・・・・・」

言いかけて、カイエンさんは言葉を止めました。

「拙者も共に行く事は叶いませぬか?」
「それこそ、また帝国空軍がいらした時はカイエンさん頼みじゃないですか。
ガウやリルムもお強いですがまだ幼いですし、セッツァーさんは飛空艇の操縦もあります。
ですからカイエンさんがいてくださる事がどれだけ安心できるか・・・」
「左様でござるか。この場で頼られる事の、何と複雑な思いにござる」

すみません。そう言おうとして、ぎゅうっとカイエンさんに強く抱き締められて口を閉じます。

「どうか無事に戻ってきてくだされ」
「・・・・・・ええ、勿論です」

生きて戻ってきますから。きっと・・・・・・。
身体が離れてから私はレオ将軍へと向き直りました。

「すみません、レオ将軍。
少しだけお付き合いをお願いしても良いですか?」
「構わないが、私はまだ動かせないと言ったのはの方だろう?」
「ええ。ですから手をお借りしますね」

言われるがままに差し出されたレオ将軍の手を握り締めて、魔導の力を注ぎます。

「これは・・・?」
「ケアルの応用です。造血剤は飲まれてますが造られる迄に時間がかかりますからね。
薬を全身に巡らせながら変換させて、すぐにでも動けるように血液そのものと体力を回復させます」
「は・・・・?そんな事が可能なのか!?」
「一応は、ですけれどね」

これに関しては成功の保証がありませんから。
既存の魔法でもなく、ただ魔導の力を変化させるものですから詠唱も存在しない。
精神の集中。身体中を通る血管を意識して、手のひらからゆっくり力を伝えます。

「先にして貰えば共に行けた気がするのだが」
「そう仰られると思ったから言わなかったんですよ。
本来存在する魔法とは違いますし・・・あまりアテにはされたくありませんから」
「・・・・・・っ。すまない」
「いえ。お気にせず」

そう素直に謝られると、此方が困ってしまいます。秘密にしていたのは私ですから。
レオ将軍は神妙な面持ちで、彼の手を握り締めた私のそれを眺めていたのでした。



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