鳥篭の夢

目覚める悪意/4



“無事に帰って来いよ”と見送られて、私とレオ将軍は島へと降り立ちました。
レビテトで衝撃を和らげながら着地したと同時に、ズシンと身体に重くのし掛かるような圧迫感。
ああ、“行かない”と判断したあの時の私は正しかったみたいですね。
念の為2本飲んだんですよ、強化版の薬を。
本来であれば過剰摂取とも言える量ですが、それでも鉛を背負わされたような感覚ですからね・・・・。

「平気か?顔色が・・・・・・」
「それは元々の体質ですから、お気にせず。
それより魔導の力が強くなってますから急ぎましょう」
「ああ。私でも分かるような異常な“何か”・・・これが件の神の力か」
「かもしれません」

一度大きく息を吐いて無理やり呼吸を落ち着けてから、私達は走り出しました。
途中、魔物も出てきましたがレオ将軍がご一緒でしたから難なく進めましたね。
だいぶ奥まで来たでしょうか?出来ればそろそろ辿り着いて欲しい位には魔導の力の圧がかかってきた辺りで、見覚えのある黒装束が・・・・・・っ!

「シャドウさんっ!」
「・・・・・か」
「無事だったか、シャドウ」

隣に立つレオ将軍へと視線を向けて、シャドウさんは怪訝な表情をされました。

「・・・・・・?何故お前がいる。
帝国を裏切った末に抹殺したとケフカが皇帝に報告していたが」
「まぁ、何を仰いますかシャドウさん。
私が側にいるんですから、そう易々と殺させませんよ」
「確かにがいなければ既に死んでいただろうな」

また無茶をしたのかと目線で訴えられましたが・・・・・そんな事無いですからね?
此処に来る為にはちょっと無茶をしましたけれども。

「インターセプターも無事ですよ。今はリルムに任せてます。
ただ少し元気無さそうでしたから早めに戻ってあげてくださいね」
「・・・・・・ああ、それは先に来ていた奴らから聞いた」
「マッシュ達にですか?」

シャドウさんは1つ頷きます。

「帝国の奴らが用済みだと殺しにかかってきてな・・・・・・油断した」
「それでインターセプターも傷だらけだったんですね」
「ご丁寧に傷を治した挙げ句、五月蝿かったから暫くは行動を共にしたが・・・。
一度は帝国にこの身を売った俺に、共に戦う資格などないからな」
「雇った側からすると耳の痛い話だな」

苦笑するレオ将軍に・・・えぇと。

「・・・・・・でもほら、お仕事ですし。
レオ将軍も目的があるとはいえ、ご同行していただいてますし」

そんなに思い詰めなくても良いのでは?
言葉を続ける前にガシッと頭を掴まれて、力を・・・・・・っいたたた!!

「お前は甘すぎる」
「痛いです、痛い!シャドウさんっ!!」

涙目で思わず叫べば漸くと手を離してくださいましたけれど。
アイアンクロー・・・ダメ、絶対。とんでもなく痛かったですからね?今の。

「関わった者全てに情けをかけるな。
敵味方の区別を正しくつけろ」
「・・・・・・はい」

関わりを持つと好意的に思ってしまうのは確かにあります。
レオ将軍と今後戦う事なったら・・・・嫌、ですね。それがシャドウさんの言う“甘さ”なのでしょう。

「シャドウは随分とを気にかけているんだな」
「え?」

思いがけないレオ将軍の言葉。
目を丸くすれば、当のシャドウさんは分かりやすく嫌そうな顔をされました。

「見るに耐えんだけだ」

そのまま舌打ちを・・・・それは流石に酷いです、シャドウさん。
いえ、悪いのは私なんですけれども。んん・・・・・・?

「・・・・ごほっ」

強い力。あまり過剰に摂取したくはないですが薬を1本足します。

「まさか、あれを目覚めさせたのか・・・・?!」
「かもしれません。急がないと!」

シャドウさんは一度だけ物言いたげな視線を向けますが、それをすぐに外しました。
・・・シャドウさんも私の体質は知ってますものね。昔はよく心配してくださいましたっけ。
なんて昔を思い出しながら、私は強い力を感じる方へと走り出しました。


「ちくしょう ちくしょう ちくしょう ちくしょう ちくしょう ちくしょう
ちく ちく ちく ちく ちく ちく ちく ちく ちく ちく

ちっっっっくしょーーーー!!」


ケフカの絶叫する声。尚も強まる魔導の力に息が詰まりそうになりながらその場所へと到着します。
拘束する魔法、でしょうか?セリスさん以外はそれで身動きが取れないようですね。
セリスさんは血塗れの剣を手にしたまま呆然とされています。
状況は全く分かりませんが、この中で唯一出血しているのはケフカだけですから、多分そういう事なのでしょう。

「・・・っ!?」
「・・・───っ!!」

ぐ、と顔を歪めるマッシュに思わず苦笑。でも口は開いてらっしゃるのに声が聞こえませんね。
拘束の他にもサイレスも使われているのでしょうか?

「すみません。やっぱり待てなくて来ちゃいました。
今解除しますからね」

拘束されている皆さんの前に立って精神集中。魔導の力を練り上げ、エスナを唱えます。

「うおっ!解けた・・・!?」
「全く、とんでもないお転婆娘じゃ。
・・・じゃが助かったゾイ。
「どういたしまして」

ストラゴスさんがご無事で本当に良かったです。

・・・・ありがとな」
「・・・はい」

本当は怒ってくださっても良いんですよ?マッシュ。
行かないって。待っていると・・・そうお約束したのに、反古にしましたから。


「ガストラ皇帝」
「レオか。ケフカが、お前は死んだと言っていたが・・・・?」
「真意を問う為に黄泉の旅路より帰還した次第でございます。
・・・・・・この度の事、私は何も聞かされておりません。
下された命令はあくまで幻獣との和平の締結であり、決して幻獣を犠牲にする事ではない筈」

膝をつき頭を垂れ、あくまで敬意を見せながらも尚・・今回の事への疑問を口にします。

「初めから計画されておったのだよ。
・・・・・・素晴らしいではないか。我々の都市を容易く焼き付くし、破壊し尽くせる強大な力!
その力が我が物となれば、この世界を、全ての国と人を掌握する事など容易い」
「ならば何故、最初から幻獣の殲滅と魔石の回収をご命じいただけなかったのか・・」

食い下がるレオ将軍に、皇帝はあくまで冷たい目線を向けました。

「お前には出来ぬよ。魔導の力を持たぬお前では荷が勝ちすぎる。
正面から堂々と捕縛しようとして、返り討ちにあうのが関の山よ。
故に此度は駒とした。幻獣を油断させる為のな。まさか寝返るとは思わなんだが・・・なぁ?レオよ」
「いえ、私は・・・・・・っ!」

レオ将軍を横目に見ながら、皇帝は歩き出します。
その先にあるのは三闘神の像・・・?まさか、その中央にっ!
考えてゾッとしたと同時に水泡が皇帝へと向かっていきます。これ、アクアブレスですか?

「ストラゴスさんっ」
「うむ。石像には近づかせんゾイ!」
「ふむ。小賢しい奴らよの・・・ケフカ。相手をしてやれ」

私もサンダラを落としますが魔法・・ファイガと思われるそれに2つの魔法は掻き消されました。
んん・・皇帝も魔法を使えるのは想定外でしたね。それも上級魔法。
ケフカさえ止めれば戦力が削れるかと思いましたが・・・そう簡単にはいかないという事ですね。

「ええ、ええ!今こそ三闘神の力を存分に発揮して殺してやろうじゃないですかっ!
ボクちんの邪魔をする馬鹿共も、目障りなレオのヤツも、全部だっ!!!」
「待て、ケフカ!どういう事だ・・・?!」

聞き捨てならない言葉だったのでしょう。
驚きを隠せない皇帝と笑うケフカを横目に、私は魔導の力を練り上げます。

「カーバンクル、お願いできますか?」
『そりゃあ、お前にお願いされりゃ断る義理はねぇよ。ただ今回はあんまり期待すんなよ?
三闘神の力が強すぎて、どこまで弾けるかは賭けだろうしなぁ』

“これが幻獣のツラいトコなんだよなぁ”なんて気の抜けた言葉。
言いながらもリフレクを味方全体にかけてくださるんですから優しいですよね。

『じゃ、暫く回復は薬にしとけよ』

言いながら、ふわりとカーバンクルは姿を消しました。
これで多少の対策は出来たでしょうか?後はあのお2人の力を何とかしたいところですが。

「何故ご理解いただけないのか、皇帝!
今こそ三闘神の力を見せつけ、奴らを平伏させる時ではないですか!」
「貴様こそ乱心したか?ケフカ。
三闘神の力そのものを動かせば世界は破滅する。それに何の意味があるというのだ!」

等と、言い争いをしている姿は確かに隙だらけに見えますが・・・ううん。

「何とか隙をついて、あのお2人に薬を使えれば良いのですけれど」
「薬?・・・って、のヤツか?」
「はい。外から入れた余剰な力であれば効くと思うんですよね。
弱くなりますが飲なくても経皮吸収で効果が出ますし、魔導の力が外に出れば戦力としてはかなり削げるでしょうから、この状況を何とか出来るかと思ったのですが・・・」

ちょっと目測が甘かったような気がしてきました。

「いや。しかしこのままという訳にもいかないな。
とにかく試してみるか」
「何か良い方法でも?」
「たまには特攻というのも悪くない。
────行くぞ、マッシュ!」
「おう、任せとけ。兄貴!
薬、貰うぜ。
「あ、はい・・・っ」

薬を幾つか渡せば、まだ三闘神の力に関して言い争う皇帝達へとマッシュが駆け出しました。
何の相談もされてませんでしたよね?双子ならではの意志疎通、というものでしょうか?
エドガーさんもオートボウガンを向けて狙いを定めます。

「小癪な、喰らうか!───ファイガ!」
「ふんっ!その程度、私が往なせないとでも思ったか!!」

カーバンクルの力の事を知らなかったのでしょうか。或いは視界に入っていなかったのか。
皇帝だけは魔法を使い。魔法反射で直撃を受けて地面に転がりました。
ケフカはそのままマッシュを迎撃しますが・・・力がありますから、マッシュの方が押してますね。

「ガストラ皇帝っ!・・・エドガー殿、悪いがソレを降ろしてもらうぞ!」
「・・・・っダメよ、レオ将軍!」

剣を抜いたレオ将軍がエドガーさんへと走り、それを途中でセリスさんが阻みます。
とは言え元々の力の差がありますし、降り下ろされた剣を何とか受け止めますが長くは保たなさそうです。

「分かった筈よ?ガストラ皇帝は貴方を単に駒として見ていた・・・そして尚も力を求めて犠牲を出そうとする姿を、私達は許容してはならないわ!
私達は・・・・・・いえ、私は元帝国将軍として、この暴挙を見逃す訳にはいかないのっ!!」
「しかし私は帝国に仕える将軍。忠義を誓うべき皇帝を守らぬ訳にはいかぬ!」
「セリス、一旦退け!」
「でも・・・!」
「───ファイラ!・・・ロック、今よ!」
「ありがとな、ティナ!」
「くっ・・・」

押し負けそうになるセリスさんを、ティナが魔法で援護しつつロックが隙をついてその身体を抱えると一気に距離を取りました。
レオ将軍は転がって火を消しましたが・・・暫くは警戒して動けないでしょう。

「ヒヒヒ・・・ッ!!あまっちょろい考えなど、反吐が出ますねぇ!
武力で民を支配して何が悪い!恐怖と共に世界を破壊して何がおかしい!!
・・ふん。流石にこの筋肉だるまの相手をするのは少々骨が折れますがね!」
「悪いが、俺はお前なんて眼中に無いけどな」
「あ゙ぁんっ?!」

「避けろよ、マッシュ!」

エドガーさんの言葉にその巨体が軽やかに宙を舞うと、同時に放たれたオートボウガンの矢がケフカや皇帝へと容赦なく刺さります。
地面に倒れていた所為か皇帝は服が縫い止められた程度ですが、すぐには動けないでしょう。
足を貫通したケフカは痛みでか地面に転がり、マッシュはその頭から薬を思い切りかけました。
蠢くケフカを捨て置いて、皇帝にも同じようにもう1本。

「く、そ・・・っ!何を!!」
「マッシュ殿!一体何をした!?」

気付いて駆け出そうとするレオ将軍の足元にオートボウガンの矢が刺さります。

「動くなよ、レオ将軍。次に動けば貴方の頭を撃ち抜こう」
「それを脅しとするつもりか?私がそのような物を恐れると・・・・!」

言い切る前に、オートボウガンの矢が今度はレオ将軍の顔を掠めました。
エドガーさんの目はあくまでも真剣で・・・見た事がない位には冷たいものです。

「迷いなきセリスの剣に押し止められた貴方に、私達を止められると思わぬ事だ。
迷いある剣に負ける程、私達は弱いつもりはないからな。
レオ将軍。私はフィガロ国王として、真に貴方が守るべきものは何か・・・己が守りたいと願うものは何なのかを問おう。
貴方にとって守るべきは忠義か。民か。今一度よく考えてみるが良い」
「く・・・っ」
「レオ将軍・・・・」

セリスさんの心配そうに呼ぶ声が聞こえて・・そうですよね、元々は同じ国で戦った仲間ですから。
こんな状態は本意ではないのでしょう。悪い人ではないでしょうから、尚更。

「力が・・・」

ポツリ。ケフカの呟く声。

「力が抜ける。俺の中から消える。魔導の力が、身体から消えて・・・あああ!
何故だ?どうして、ボクちんの力が・・・一体何があって、どうして・・・」

頭を抱えて、暫く喚いた後。ケフカはピタリと止まりました。
ぐりんと顔を私へと向けて・・・・・・ひぇっ!?虚無に満ちた瞳にゾッとします。

「また貴女ですか?ねぇ・・・・・・ズルいじゃないですか。
貴女は何時もそうやって強大な魔力と、認められる仲間と、生きる事への希望と、その何もかもを得ているのに・・・私からは何一つ許さず、何もかもを奪おうと言うのですか?
酷いひとだ。折角、その身体を壊して共に神に成れると思っていたのに、こんな裏切り行為を働かれたら俺は何故貴女を求めていたのか分からなくなってしまうじゃあないですか!!」

どういう事ですか?一体何の話ですか!?
意味の見通せない話にサッパリ理解が及ばない上に、滅茶苦茶怖いのですけれど!

「お主は一体何に執着されとるんじゃ?」
「こっちが聞きたい話ですよ!ゃだ、怖いですっ!!」
っ。一先ずこちらへ・・・・!」

腕を引かれてエドガーさんの後ろに隠されてますけれど・・・・ひしひしと視線を感じます。
足を撃たれたせいで這うように動くケフカがとんでもなく恐ろしくて、ついエドガーさんのマントを思いきり掴んでしまいましたが。不可抗力です、ごめんなさいっ!!

「テメェは勝手にに執着してんじゃねぇよ!」

マッシュが更にもう1本の薬をケフカにかければ、力尽きたように動きと視線が止まりました。
精神に作用しているのでしょうか?痙攣してらっしゃいますよね?

「やっと効いてきた感じですか・・・?」
「ああ。かもな」

マッシュの言葉に、私は無意識に安堵のため息を落としたのでした。



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