目覚める悪意/5
「とにかく、後はどうすりゃこの島を元に戻せるかだな!」
どうにかケフカ達の暴走は止められたようですが・・・。
肝心のこの島を何とかしない事には何も終わりませんからね。
「じいさん、何か方法はあるのか?」
「これに関しては1000年以上前の昔話じゃからのう。
可能性の話ではあるが・・・・・・ん?」
三闘神の像へと視線を向けたストラゴスさんは血相を変えます。
え?視線を向ければ、全身が焦げたままの皇帝がゆっくりと三闘神の像の元へ────っ!
「しまった!?」
「いかん、アクアブレス!!」
「サンダラ!」
ストラゴスさんと同時に魔法を放ちますが・・・んん、効いてませんね。
「魔法が吸収されてる?どうして・・・!?」
「三闘神の像の力じゃ・・・三柱が向かい合う中央では全ての魔導の力を中和するゾイ。
まさか奴らがそこまでの知識を得ておったとは・・・!!」
説明にティナは納得したように、皇帝へと不安そうな視線を向けました。
「ああ、力が満ちる・・・やはり、やはり選ばれるべきは儂だったのだ!
ファファファ!そうだ、儂が神と成る。神と成って、この世界の全てを統べる時・・・!」
薬が効いていないという事ではない筈です。ケフカにも効いているようですし。
それに先程まで、皇帝の魔力は気にする程のものでもない程度には弱まっていた筈ですから。
「まさか魔導の力による副作用ではなくて・・・皇帝は自らソレを選んだという事ですか?」
「魔導の力を用いた統治というやつをか?そんなもの、ただの恐怖政治でしかないだろう!?」
「何を当然の事を・・・。
恐怖で人心を掌握して何が悪い。畏れで民を支配して何がおかしいというのだ?
フィガロの王よ。流石、小国の長・・とでも言うべきか。まだまだ青い若造よ。
平和?安寧?そんなものでは人の心は1つにならぬよ。
・・・そう。この世界に生きる全ての人間を纏めようと思えば、恐怖が一番相応しいと思わぬかね?
ならばこの三闘神の強大な魔導の力を手にし、我が意に反する愚か者共を潰し、抗う気力を削ぎ、我が力に畏れ平伏し・・・そう、崇める者達のみを我が民として支配する。
それが正しくあるべき世界の姿であろう・・・ファファファ!!」
「戯れ言を!」
「ふざけんな!!」
オートボウガンとオーラキャノンが同時に放たれますが、片手一本で何かの力に阻まれたように弾かれました。
魔導の力によるバリアみたいなものですかね?
物理的な攻撃も魔導の力による攻撃も効果無し・・となると、この状況はかなり絶望的ですね。
「恐怖による支配?崇める者のみの統治・・・?」
混乱したように、レオ将軍が小さく呟きます。
手に持っていた剣を強く握り締めて、真っ直ぐと皇帝へと視線を向けたと思えば剣先をそちらへと向けて────えぇと?それは、つまり・・・?
「違う。私が守りたいものは、そんなものではない。
私は・・・その様な事の為に、今まで貴方に仕えてきたのではない!」
「レオ将軍!?」
叫ぶ声と共に振り上げられた剣から衝撃波が放たれます。
凄まじい剣圧。ですがそれも結局は皇帝へと届く前に霧散してしまいましたが。
「ファファ!愚かなものだな・・・・・今更になって正義の味方気取りか?
儂に仕え、愚直に命令をこなすだけであったお前が?笑わせてくれる。
だが良いだろう!今までの忠実さに免じて、貴様を先に葬ってくれようぞ・・・!
さぁ、三闘神よ!儂にその破滅の力を見せてみよ!!」
「・・・くそっ!」
手を上げる皇帝の身体から高圧縮された魔導の力を感じます。
ダメです、あんな力を放たれたら人間の身体なんて・・・!
駆け寄ろうとして、エドガーさんとマッシュに同時に身体を掴まれて阻まれました。
「ダメだ、行くな!」
「ですが・・・!」
「このままでは巻き添えを食うだけだ!」
でも、それでも助けられないからと見殺しにするなんて・・・・・・!
言いかけて、それは止まります。
だって今・・・何かが凄い勢いで起き上がって、レオ将軍の元へ・・・・・え、と?あれ、は・・ケフカ?
「だから貴方が嫌いなんです。何時も良い子ぶって、反吐が出る程真っ直ぐで融通がきかない。
そのくせ他者を疑わず、全ての人間が和解出来ると本気で信じている・・!
だからギリギリまで答えが出せずにぐずぐずと・・・ああ、鬱陶しい事この上ない!」
「ケフカ・・・っ!お前は・・・・・・っ!?」
「先に地獄でお待ちしてますよ。“正義のレオ将軍”」
胸ぐらを掴んだかと思えば、とんでもない脚力でレオ将軍を蹴り飛ばします。
そしてそのまま三闘神の像を────って!?
「ケフカ、ダメです!そんな事をしたら世界のバランスが・・・・・っ!!」
「貴方の求める“恐怖政治”は為されない。愚かなガストラ皇帝よ!
貴方が求めた力で、貴方の求めた世界が壊れる様をとくと眺めれば良い!!」
「この・・・・・・っ!ケフカが!壊れた駒の分際で儂の野望を壊すだと!?
くそ、くそくそくそ!!愚かなのは貴様の方だ!これで三闘神の力のバランスは崩壊した!
この世界の破滅は止まらぬ・・・貴様のせいで全てが徒労に終わるだと!?
儂の求めた世界が!!儂の願う世界の在り方が!!?・・・・・ふざけるでないわっ!!」
まるで感情と共に乱れた力が、それでもケフカだけを狙って真っ直ぐに落ちます。
消し炭。とでも言うのでしょう。その場に黒く影だけが残って、身体も何も残っていません。
これが三闘神の力?三闘神が皇帝に力を与えている・・・という事でしょうか?
「仕方あるまい。破滅が避けられぬのであれば・・・壊れた世界の先で、儂の世界を作るとしよう」
皇帝はもう1つの像を動かして・・・途端に魔導の力が一気に膨れ上がります。
その影響が強すぎて私は思わず膝をつきました。
「、大丈夫か?!」
「・・・・・・っは。ちょ、と・・苦し・・・・っ」
「くそ、もう薬の残りが少ないな」
ケフカ達に使いましたからね。まだ持っていただいていた薬を受け取って一息に飲み干します。
「止めてください、ガストラ皇帝!バランスを崩せば世界は本当に壊れてしまいます!」
「・・・っく。世界を壊させる訳にはいきません!ガストラ皇帝、どうかお覚悟を!」
セリスさんとレオ将軍が同時に剣を構えたと思えば、間に黒い塊が割って入って・・・あれ?
「シャドウさん?」
そう言えば、先程からお姿を見なかったような??
呆気に取られていれば、シャドウさんは石像を更に動かして皇帝を押し潰し・・・ちゃいました。
まさかそんな裏技があるなんて。
「むぐぅ!?」
「行け!世界を守れ!」
「シャドウさんも早く・・っ!」
「俺に構うな、早く行け!・・・こうなってしまえばもう暴走は止まらん」
「あやつの言う通りじゃ!一度動かせば三闘神は目覚めてしまう。
位置だけを元に戻したところで“動かして均衡が崩れた”事実は覆らんゾイ!」
「でも!シャドウさん、ダメです!シャドウさんも一緒に!
シャドウさん!シャドウさ───っ、ごほっ!!?」
嫌な予感しかしません!もう、会えなくなるような嫌な予感しかしなくて・・!
何度も名前を呼びますが同時に入り込む魔導の力に噎せました。もう、胸が苦しくて・・声が・・・・。
「ふっ。必ず戻って見せるさ。心配するな・・・急げ!」
「ああ、絶対に戻るまで待ってるからな、シャドウ!」
ひょいとマッシュに抱えあげられて、その場から離脱します。
「薬飲めよ」
言葉に何度も頷いて、身体が揺れる中で何とか薬を鞄から取り出して飲み込みます。
残りは・・・・もう数本しか無いですね。ふふ、鞄一杯に入れた筈なのに使いすぎてしまいました。
それでももう既にぐるぐると視界が回るのですから、それだけ魔導の力の強さを実感します。
「くそ・・っ!こっちの道が崩れたな」
「魔物か!迎え撃つぞ───!」
魔物?では倒してしまって良いですよね?
ふと手を前に出して魔導の力を放出します。多分、サンダガですかね?
消滅してしまったソレに、皆さんが驚いたような顔をしたのが見えました。
「?」
「はい、大丈夫ですよ。ティナ」
笑って見せますが、ティナは不安そうな顔のままで・・・。
んん。とはいえ魔法を使った方が私としては楽になるのですけども。
考えていれば、ストラゴスさんが私の側へと近づいて微笑みます。
「・・・魔物は頼んでも良いかの?」
「はい。是非お任せください」
「任せて良いのか?じいさん!!」
「器に力を溜め込めば壊れるだけじゃ。
少しでも使った方が負担にはならんゾイ」
驚くロックへ説明すれば、黙り込んでしまいましたけれども。
あまり深刻に考えられてしまうと私としても困るので、何時もみたいに“後はが全部やってくれ”位のノリでお願いしたいのですが。
「とにかく、この場から離脱するぞ」
「ああ。急ごうぜ」
焦りの滲む声。走り出す震動に、私は瞳を閉じました。
揺らぐように蠢く魔導の力の気配に、1つ、また1つと魔法を落とします。
サンダガ。ブリザカ。ファイガ。ホーリー。メテオ。アルテ───あれ?私は今一体何の魔法を使っているのでしょうか?今まで使えていたような、使えなかったような。
それでも入ってくる力が大きくて出来るだけ大きな力を放出して、釣り合いを取ろうとします。
身体が壊れないように。心が壊れないように。私が私で在るように。
「飛空艇だ!」
「ぇ?」
言葉に、半分沈みかけていた意識が浮上しました。
「、平気か?まだ薬はあるか?」
「はい。最後ですが・・・」
途中にも耐えきれそうになさそうだと思った時に幾つか飲みましたから。
答えにマッシュは優しく私の頭を撫でます。
「とりあえず俺達は先に飛空艇に戻るぞ!」
「でも・・・シャドウさんは?」
「シャドウなら大丈夫だ。
ギリギリまでロック達も残るって言ってるしな」
「レオ将軍もあの場に残ってたみたいだから」
「やっぱり見殺しには出来ないもの」
レオ将軍が・・・気付きませんでした。
確かに周囲を見る余裕はありませんでしたが、何だか申し訳ないですね。
とはいえ、このまま崩れ落ちそうな場所に皆さんが残るのは得策には思えません。
「・・・この場に残るのは危ないですよ」
「でも・・っ」
「ですから、呼んでしまいましょう」
「え?」
まだまだ魔力の余剰は沢山あります。使いすぎの頭痛も多少はありますが・・・というかどっちの痛みかもよく分からなくなっていますからね。
使用分の負担よりも、溜まっていく負担の方が大きいでしょうし。
「あ、でも目標を間違えてしまった時の為にお願いしますね?」
「え?間違えて・・って、どっちの目標の事なの?
2人の着地地点の事?それとも選んだ対象の事!?」
「じゃあ、いきますね」
「聞いて、っ!??」
「テレポ」
「うおっ!?」
「くっ!!」
やはり目標を多少見誤りましたか。
対象を捕捉してこの地点まで移動させたのですが・・・高低差までは把握できませんでしたから僅かに上空でしたね。
それでも流石と言いますか、シャドウさんもレオ将軍も瞬時に把握して身軽に着地出来るのですから素晴らしい身体能力です。
「新手の敵の魔法かと思ったが君達だったか」
「無事で良かったわ、レオ将軍」
「また・・・・・・っ」
怒鳴りかけたシャドウさんの言葉は、それでもマッシュに抱き抱えられている私の姿に黙ってしまいましたけれど。
良かった、アイアンクローは回避ですかね?なんて。
にこりと笑って見せれば、シャドウさんのとんでもなく深いため息が落ちました。
「ご無事で良かったです」
「報酬を貰わない内は死んでも死にきれないからな」
「よし!じゃあ飛空艇に戻るぞ!
しっかり掴まってろよ、!」
「・・・はい」
マッシュがしっかりと支えてくださって、私も強く抱き締め返します。
「私は行っても良いのだろうか?」
「もう!今はそんな事を言ってる場合じゃないわ!」
「そうそう!悩むのは後にしろよ!」
「・・・ああ。すまない」
そんな会話を背後に聞きながら、私達はいち早く飛空艇へと帰還しました。
「・・・・・・っと!えらい人影が見えたと思ったが。
皆、無事みたいだな」
「おねーちゃん、大丈夫だった!?」
「ガウガウ!いない、おいらビックリした!」
「クポー・・ぼくも大変だったクポ」
次々と集まる皆さんのお出迎えに思わず苦笑。
そうですよね、セッツァーさんとカイエンさんにしかお話ししないまま行きましたから・・・。
「殿」
心配そうな表情のカイエンさんに、マッシュに降ろしていただいてしっかりと向き合います。
「無事に戻りましたよ、カイエンさん」
「・・・・・・うむ。拙者も安心しもうしたぞ、殿」
「とはいえ、状況は芳しくないがな」
「ケフカが死んだし、三闘神の像は動かされてガストラはその力を悪用する気だ。
本当にもうどうにもならないのか?」
「三闘神の力のバランスが崩れれば、世界を破滅するに足る力が世界に溢れると言う事じゃ。
流石にわしにもどうなるかまでは分からんが・・・あの皇帝の様子では碌な事にはなるまい」
「くそ・・・・・・っ!」
何とか舵をとってあの島から離れますけれど・・・・・・離れてるんですよね?
なのに魔導の力が強まって・・・圧迫感が、強くなってきて・・これが三闘神の力が解放された世界?
ああ、どうしましょう?このままでは・・・この世界では私は、きっと・・・・・・。
最後の1つの薬を飲んで、私は小さな鞄に入れていたカーバンクルの魔石を取り出します。
「すみません、マッシュ。カーバンクルをお願いしても良いですか?」
「・・?」
「少しでも、魔導の力の負担を減らそうと思って・・・・・・だから、お願いします」
幾度か目を瞬いてみせて、それからマッシュはしっかりと魔石を受け取ってくださいました。
ちかちかと激しく明滅する光。ダメですよ?カーバンクル。言ったら台無しじゃないですか。
もし私がこのまま死んでしまったら貴方の側にいる人がいなくなってしまうでしょう?
なんて。口にしたらきっと大ブーイングが来るでしょうから絶対に言いませんけども。
もう・・・薬を飲んだのに圧迫感が消えないんです。さっきから、ずっと・・・苦しくて、仕方なくて。
身体にまるで雪崩れ込んでくる魔導の力が・・私の意識を飲み込もうとしていて。
皆さんが何かを叫んでいるのに、叫んでいるのだと、慌てているのだという事実は理解出来ても、もう目の前も霞んでいてそれがどうしてなのかまで分からないのです。
「・・・っ!?」
声が、聞こえて・・。もしかしたら、これも分からなくなってしまうのでしょうか?
この大好きなひとの声も、姿も、温かさも・・・全部、理解できなくなって、終わってしまうのでしょうか?それは・・少し、怖い、かな。
「マッシュ・・」
だから────。
これは縛る言葉で。それでも幸福だったと伝えたい言葉で。
最期に貴方に1つだけ遺せるならば、これしか頭に浮かばなくて。
「愛してますよ、マシアス」
これが貴方を縛る言葉だと分かっているんです。本当はね。
だから私がこの世からいなくなったら、どうかこの言葉は忘れてください。
それでも・・・もし望んで良いのなら、私を一欠片だけ覚えていてください。なんて。
これは、途方もなく自己満足な願い。
掠れた小さな音で、貴方に言葉は届いたでしょうか?
あ、いえ。届かなくても私としては一向に構いませんが。
さあ、最期に力を使いましょう。
皆さんが傷付く事は悲しいですから。どうか無事でありますように。祈りを込めて。
身体にまるで雪崩れ込むような魔導の力の奔流が、私を押し潰しきる前に。
“テレポ”
もう音にするにはあちこちダメになってましたが、無事に発動したでしょうか?
魔導の力の流れが僅かに変わったのできっと何とかなると信じましょう。
視界が暗転。圧迫。圧縮。ひしゃげて、転がされて、凝縮して、引き伸ばして。上下左右。感覚が消え失せて、苦しみも痛みすらも既に無く。
自分がどうなってるのか。そんな事すら解らないままに。私は意識を手放しました。
「『“”!!』」
遠く聞こえたそれは、優しい幻聴だったのか。
或いは────
その日。
世界は引き裂かれました。