鳥篭の夢

繋ぎ融ける魂と/1



暗い。ただ暗い空間。その中を、ひたひたと裸足で歩く感触。
小さな頃以来でしょうか?そんな、はしたない事をするのは。
ひたひた。ひたひた。
何故そうしているのかも分からないまま歩く私の道の先に、小さな光が見えました。

あなたは どちらさまですか ?

声を出そうとしますが・・・・思ったように出ませんね。
音として成されたか否か、それでもその小さな光はゆらりと一度揺らめきました。

どうしましょう ?
カーバンクルとなら なにを いっているのか わかるのですけれど ・・・

まぁカーバンクルは付き合いが長いというのもありますけれどね。
むむ。困りながらも私は何処か寂しげに揺れるソレに手を伸ばします。
後少しで届きそうな距離。

だいじょうぶですよ
わたしは あなたに なにも こわいことは しませんから ・・・・・・ ね ?

寂しげな光が私に寄り添おうと、伸ばした私の手に触れようとして・・・・・・。


ッ!!戻ってこいっ!!!』


カーバンクル ・・・ ?

叫ぶような声は、確かに彼のものです。遠くから真っ直ぐ私へと届く強い光に目が眩みました。
まるで光に包まれるように周囲が一気に明るくなって────。


!』


「・・・・・・っ!」

意識の覚醒。やけに身体は軽くて、思考はクリアです。
身体の揺れる感覚。車輪が線路上を走る音と揺れ。列車内・・・ですかね?
ふわふわとした座り心地のよい対面ソファーの椅子に横たわっていた私は身体を起こしました。
何だか最近・・いえ、少し前にも乗る機会がありましたね。とは言えあれは魔列車でしたが・・・。

「え、魔列車!?」

内装は確かにあの時に乗った魔列車そのものです。
何故、魔列車に?・・・・あ、いえ。でもそうですよね。
よく考えてみればあの状況下で私が生きていられる道理はありませんから。この結末は当然です。
ただ1つだけ解せないとすれば・・・・・・。

「何故カーバンクルまでご一緒してるんです?」
『そりゃ親友だしな』
「親友は関係ないと思うのですが・・・」

至極全うなツッコミに、前のソファーに座っていたカーバンクルはカラカラと笑います。

『親友だから助けに来たって事だよ。
お前、あのまま勝手に死ぬつもりだっただろ?俺をあんなデカブツに押し付けやがって』
「んん・・確かに死を覚悟はしましたが。
マッシュならカーバンクルをお願いできると思いましたし、カーバンクルを独りにしたくは無かったんです。
そもそも死にたくて死んだ訳ではないですし。・・・・・マッシュ達はご無事ですか?」

無我夢中でテレポを使ったような気はしたのですけれど・・・。

『バラバラに跳ばしてたからお前の旦那しか知らねーけどな。
アイツは傷ひとつ無かったし、他の奴らも多分同じ感じだろ。
つってもお前がいなくて相当焦ってたぜ?』

そんなニヤニヤ顔で言われても困るのですけれど。

「まぁ、ご無事でしたら良かったです」
『なぁ。お前はどうしたい?』
「私・・・?」

どうしたい、とは?

『このまま魔列車に乗ってりゃお前の魂は霊界に行けるだろう。
けど、お前の魂と身体はまだかろうじて繋がってる。つーか、俺が繋げてる。
今ならまだ戻れるぜ?』
「戻れる・・・?て。私、死んでないんですか?
え。それに繋げてるって・・・カーバンクルっ!一体どんな無茶して・・・っ!!?」
『あーあー、俺にはなーんも聞こえねー』
「カーバンクルっ!!」

聞いてくださいっ!!

『わーった!ちゃんと話す。折角の機会だしな。
お前とちゃんと話をするってのも久しぶりだし・・・・・・んん?』

私の瞳を覗き混むように見て、カーバンクルは目を細めます。

『・・・・・・っち。“あれ”とも繋がっちまったみたいだな』
「あれ?」
『所謂、世界の根源ってやつだ。三闘神とはまた別のな』

三闘神とは別の世界の根源・・・?

『そうだな、まず最初ににした事でも説明しとくか。
根源に関してはちょいと長くなる』
「はい」
『ま。簡単に言やぁ俺が死んで、お前の途切れかけた魂と身体を繋げたんだ。
幻獣になる前の俺は生き物と呼ぶにはちょっと特殊でな。だから出来た芸当ってやつだ』
「カーバンクルが死・・・って!でも、魔石はマッシュにお願いした筈です」
『俺が“砕かせた”』

砕か・・・・・・ぇ?

『最後にが使った魔法がテレポだったからな。
俺が元になる魔法だから魔力の残滓を辿って此処まで追いかけてこれた・・アイツを怒ってやるなよ?俺が無理やり砕かせたんだからな』
「ぁ・・・はい」

怒るというか、衝撃的だったと言いますか。

『“俺が”お前を喪いたくなくて勝手にやったこった。
・・・・だが、が魔列車の終着駅まで行きたいってんなら一緒に霊界旅行してやるぜ?』

“俺は死んでるからな。何処までも一緒にいてやるよ”なんて笑顔で続けてくださって・・・ふふ、相変わらず優しいですね。カーバンクルは。
自己犠牲すら厭わないのはあまり感心しませんが・・・お気持ちはとても嬉しい限りです。
私の所為で魔石になって、私の所為で死なせてしまって・・・そう考えると流石にツラいですが。

『どうする?
「・・・カーバンクルはどうなってしまうんです?
私の身体を繋いだとしてもカーバンクルの身体は・・・魔石はもう無いのでしょう?」
『繋げたお前の魔導の力を使って仮の肉体位なら造れるから安心しろ』
「つくれる・・・?」

作れちゃうものなんですか?

『おう。お前の余剰魔力が多いから、今までの幻影と違って完全な身体を造れそうだしな!
更にお前と繋がってるから干渉で影響を受けたりもしない!!もう完璧だろっ!
そしたらまたクッキー作れよ!今まで食べれねぇの滅茶苦茶悔しかったんだからさ』

ぶんぶんと勢いよく尻尾が振られていて、その瞳はキラキラと輝いていて。
結局クッキーが食べたい・・に、ご意見は落ち着くんですね?なんて少し面白くなってしまって・・・ついつい私は噴き出すように笑ってしまいました。
“何だよ、笑うなよー”なんて言いながらもカーバンクルも笑ってくださっていて。それは楽しくて。
何時だって私の為に色々してくださるのは、少し申し訳なくもあって。

『ま。俺は魔力操作とかあれこれするのは得意な方だし、俺に関しては心配すんな。
に干渉する余剰魔力の受け入れ先になるだけだからお前の身体の負担も減らせるし。
今度こそお前が死ぬまで一緒にいられるぜ?』
「・・それは、とても嬉しい限りです。
・・・・・・私とずっと生きてくださいますか?カーバンクル」
『ああ!』

マッシュとはまた違ったプロポーズの言葉みたいですが。
出会ったあの頃のようにお互いの手と前足を合わせて、私達は笑いました。

「後ですね、もう1つ気になっていたのですけれど・・・」
『ん?何だ。さっきの世界の根源ってやつか?』
「あ。いえ。それもですけれど・・・あの・・・・・・」

カーバンクルのお尻の下。それ、ソファーじゃないですよね?
いえ、ソファーはあるのですけれど、実際に敷いてらっしゃるのは何か人型のようにも見えますし、ふわふわした羽毛の塊ようにも見えます。
無言で凝視していた為かそれに気付かれると、カーバンクルは半眼になりました。

『こいつなー。・・・これ、気になるか?
捨て置いて良いやつだぜ?正直に関わらないで霊界まで流しといても間違いじゃねーし』
「そんな扱いされちゃうんです?」
『お前が名前を呼べば目覚めるだろうな・・・俺は賛成しねぇけど。
に執着しすぎて、死んでもついてくるとか最悪だよなー』

“お前も可哀想になー”なんて同情的な視線を送られると居たたまれないのですけれど。
後、然り気無く踵で何度も蹴るのはお可哀想に見えてきますよ。そんなに嫌いな方なんですね?
んん・・・私に執着していてお亡くなりになった方?で、カーバンクルが最悪って評する方ですか。
・・・・・・あ、何かモヤッと心当たりがあります。こんな羽毛はありませんでしたが。

「そうですね。私の思い浮かんだ方と一致するのであれば、目覚めて欲しくはないですね。
でもこの方、何でこんなに羽毛まみれなんですか?」
『変質したからなぁ』
「変質・・・というと、幻獣のように?」
『お、冴えてるな。
その通り、こいつは三闘神に触れた時にどうやら幻獣化したみたいなんだよ。
何がそれを望んだかは分かんねーけど。ま、三闘神の気まぐれだろーな』

“傍迷惑な奴だ”と言いながら、またカーバンクルは彼に踵を一撃落とします。

『んで。人間の肉体としては滅んだから此処にいるが、目覚めさせりゃ幻獣としては存在できる。
わざわざお前に起こしてほしくてこんなトコにいるんだろうが・・・・・・ったく、本当に迷惑だな。
まー、精神狂化はお前の薬で治ってるし、起こせば戦力の足しにはなるだろうし。
元がどんなかはわかんねーけど、扱いさえ間違わなきゃ何とかなるとは思うけどさぁ』

“俺としては正直いらねーなぁ”なんて。本音が駄々漏れてますよ。

「目覚めたら・・・現世に戻る、という事ですか?」
『別に此処に捨て置くって選択肢もあるぞ。
つっても、の事だから関わったら多分捨てられないだろ?』
「んん・・・・・・確かに」

シャドウさんにも指摘されましたものね。甘いって。んー・・・。

「──分かりました。起こすかどうかは一旦保留にしてティータイムにしましょう。
確か食堂車がありましたよね。もしかしたらクッキーもあるかもしれませんよ?」
『おう。良いな、それ!
んじゃそこで世界の根源について話してやるよ』
「そうですね。お願いします」

カーバンクルとおやつなんて久しぶりですね。
何だか楽しい気持ちになって立ち上がり、一歩を踏み出そうとしたその時・・・。

「ひぇ?!」
ッ!!?』

悪気なく足が縺れて転びました。それも、カーバンクルを巻き込みながら件の“彼”の上に。

「ぃ・・たた。肉体がなくても痛いって感じるんですね」
『大丈夫か?そそっかしいなー・・・・・・ぁ?』

ピクリ。私の身体の下にあるほとんど羽毛の塊が、僅かに動きます。
あら、これは流石にちょっと嫌な予感が・・・・・・。

『あー・・・呼ばなくても目覚めんのかよ』
「みたいですね」

あ。でもだからって、そんなに足蹴にしなくても良いのでは?

『・・・ぅ。私は・・・・・・』

起き上がった“彼”は、身体の構造は人間のようですが埋め尽くさんばかりの羽毛に覆われています。
やたら色合いが極彩色なのはやはり生前の彼の趣味を彷彿とさせますが・・・。
うーん・・・あの羽毛は自前で生えているのでしょうか?鳥人間?羽毛人間??
そもそも鳥と呼称するには違和感があります。翼もないので飛べなさそうですし。
後あれですね。あの奇抜な化粧がないので顔が全く一致しません。え、本当にあの人なんです?

『あまり凝視させると恥ずかしいのですが』
「ああ。すみません、不躾に失礼しました。
これから私達はティータイムに食堂車へ行く予定ですが一緒に如何ですか?───ケフカ」

私の言葉に、ケフカはキョトンとした顔を見せてから苦笑しました。

『私のような者を連れ歩く事に忌避感がない訳ではないでしょう?』
「それは勿論。貴方は私の中でもトップに入る危険人物ですから。
それに何があっても許せない方ですし」
『貴女を傀儡にしようとしたからですか?』
「いえ────1番はドマの事です」

狂っていたとしてもあれだけ多くの生命を容易く奪って良い筈が無いのです。
カイエンさんのような素晴らしい武人を・・あんな風に苦しめて良い筈が・・・・・・。
まぁ、それだけじゃないですけどね。
多くの幻獣を犠牲にした事だって、サマサを襲撃した事だって。ティナを操り人形にした事も勿論。
他にも犯した多くの事柄は、どれも許されざる事でしょう。

『嗚呼、それは助かります。
どうか私を永遠に赦さないでください・・・・・・

そんな風に眉を下げて微笑まれると拍子抜けしてしまいますけれども。

『こんなのと和やかにお喋りしてる場合じゃねーだろ、
ほら、食堂車行くぞ!食堂車!!
お前は勝手にしろ。俺はお前の事とか興味ねぇし』
「クッキーがあると良いですねぇ、カーバンクル」
『本当にな!』

ふりふりとご機嫌に尻尾を振りながら、私の服の袖を引くカーバンクルにくすくすと笑います。
背後から彼がついてくる気配を感じつつも私達は食堂車を目指すのでした。



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