鳥篭の夢

繋ぎ融ける魂と/2



『ふー。まぁまぁだな』
「そんな目一杯食べておいて・・・」
『いやー、物食べるなんて久々だから食い過ぎたなー』

笑いながらお腹を叩くカーバンクルに苦笑しながら、私は目の前のスコーンを一口いただきます。
んん。やはり美味しいです。侮れないんですよね、魔列車のお料理って。

『んで、あれだな。根源の話だ!
食べるのが楽しくてすっかり忘れてたがいい加減説明しねぇとな』
「はい。是非よろしくお願いします」
『あ。そんな居ずまいを正すような話じゃねえからな?
茶でも啜りながらノンビリ聞いとけよ』

・・・・・・絶対にそんな気を抜いて話す内容じゃないですよね?

『根源ってのは、単純にこの世界に元々ある魔力を持つ存在の事だ。
世界の根源。地中深くに根付く、世界創造のクリスタル。
世界を照らす光、穏やかに覆う闇、踏みしめる大地、潤す水、燃す炎、そよぐ風。
そこから産まれる動植物やらの生命とか、そんなトコか』
「クリスタル・・・ですか?
でも魔力を世界にもたらしたのは三闘神なんでしょう?」

私はそう教わってきましたけれど。

『そりゃ“魔導の力”だな。根源の魔力はちょっと違う・・あれは世界を維持する為の力だ。
俺も元々はその一部なんだぜ。光の妖精っていうやつ』
「妖精・・・。成る程。カーバンクルは元から“魔”に近い存在だったんですね」
『そういうこった。だからお前の魂も繋げたって訳だ。
────で。遥か大昔、三闘神はこの力に目をつけて降臨した』

世界を維持する為の力に・・・ですか。

『一応、世界そのものを維持出来るなんて強い力を持つ代物だからな。
三闘神はそれぞれいた別世界から力を求めて舞い降り、互いを恐れて戦った。それが最初の争いだ。
んで、ソレに巻き込まれたのが俺みたいな弱い力しか持たない妖精や、人間、動物、魔物。果ては思念の集合体やら、人間が産み出した機械なんてのもある。
自分の達の意思に関わらず魔導の力を与えられ、それによって魔に依った個の無いただの駒に成り果てた存在が幻獣だ。最初は争いの為の兵器だった訳だな』
「兵器・・・。でも確か、三闘神が封印する時に感情を与えられたんですよね」
『おう。半数は凄惨な現状に自害したアレな』
「・・・・・・ぇ?」

自害・・・て。えっ!?

『そりゃそうだろ。自分達が暴れたのが原因で世界が壊滅直前。
同族だった奴も同族に成った奴も、自陣営の神の命令のままに殺戮だ。 神の駒だったとはいえ容赦なく破壊し尽くした記憶だけありゃ、現実に耐えられない奴もいる』
「そう、だったんですね」

簡単に“感情を与えられ”なんてありましたが・・・実際は凄まじかったんですね。
三闘神の力は強大で恐ろしいものなのだと改めて実感します。

『今の人間達が騒いでる1000年前の魔大戦はそれよりもっと後の話だな。
確かにあれも酷かったが・・・世界が壊れそうとか、あーだこーだ騒ぐ程のもんでもねぇよ。
最初の争いに比べりゃまぁ可愛いもんさ。ちょっと文明と国が滅んだ程度だからな。
ま。口伝えやら文献に残ってる分、魔大戦のが凄惨に見えるだろうけどなー』

普通に笑ってますけれど、何も笑うポイントはありませんからね?カーバンクル。

『そんでさ、何か覚えてねぇか?
・・・・・此処で目覚める前に何があった?』

唐突に真剣な瞳。
そうでしたね、世界の根源のお話になったのも、その根源と繋がった・・・んでしたっけ?確か。
だからでしたものね。下を向いて、目覚める前の事を思い出します。ああ、確か・・・。

「暗闇」
『暗闇?』
「はい。暗闇の中で、小さな光が寂しそうに揺らいでいました。
手を伸ばして触れようとした所でカーバンクルの声が聞こえて・・それで目が覚めたんです」
『それには触ったのか?』
「いえ。結局は触れてないと思います」

感覚的なものではありますけれど。

『触んなくて正解だな。触れてりゃ今頃あれのご馳走にでもなってたろうし。
・・・ふーむ、あれの世界に触れてちょっと繋がったってやつか』
「ご馳走、ですか?」

とても不穏な響きがするのですが。

『おう。身体が無いから良く分かるが・・・お前は体質じゃなくて魂が特殊なんだよ。
昔、似たようなのに会ったんだよなー、あー・・・えーと、何だ・・・あれだ』

あれとは・・・?
前足を器用に組んで悩むカーバンクルは、然り気無く私のお皿にあったクッキーを摘まみます。

『あー、おもひあひふぁ』
「飲み込んでからで大丈夫ですよ」

一緒にお茶も淹れますからね。
もごもごとお礼を言いながらも一気にお茶を飲み干して、カーバンクルは一息つきました。

『あれだ。すっげー昔に、根源の力を感じとる人間ってのが稀にいたんだよ。魔力持ちっての。
周りは“巫女だ”なんだって担ぎ上げてたが、それに似てんだ。多分お前の先祖だと思うぞ?
んで、魔導士になった所為で肉体が魔導の力を得るようになったから、元の潜在魔力量がおかしかったりコントロールが効かないんだろーな。
根本的に合わないんじゃね?魔導の力と根源の魔力がさ』
「この体質も何か関係あるんでしょうか?」
『ああ。干渉されるってのは、元々三闘神がその根源の力を求めてるからだ。
だから似たような力であるお前の魔力に惹かれて、得ようとして干渉って形になってんだろ。
魔導士のガワだから使えるのは魔導の力でも、元の性質までは変わらねぇからな』

成る程。そう言われれば納得できるような気もしますね。

『で。今回の三闘神の像が復活して、更に世界がボロボロのボロカスみたいになっちまったせいで同時に根源の力も弱まって、そっちもお前を求めてるって訳だな。
全く・・三闘神にしろ、根源にしろ、迷惑な話だ』

ひょいひょいと更にクッキーを放り込むと、カーバンクルは一度遠い目をしました。
・・・お口に放り込み過ぎたのでは?

『・・・ま。でも触れてないってんなら過剰に怯える事もねぇだろ。
魂さえあれに喰われなきゃ、普通に生きられるし死んでも霊界に行けるだろうしな』
「魂を食べられる事なんてあるんです?」

先程も“ご馳走”なんて仰ってましたけれど。

『まぁ、魂ごと力を喰うって感じになるだろーな。
力が足りてない状況下で似たような力を持つは、それを補充出来る丁度良い餌だ。
魔導の力に干渉されるってのは体も力も侵蝕されるって事だからな。
三闘神にお前を獲られる位なら、いっそ自分が喰っちまえ・・・って感じだろ』
「なかなか怖いお話ですね」
『魂と身体は俺が繋げてるし、弱すぎて根源からは何も出来ねぇよ。
魔導の力も俺が引き受けるから問題ないしな。あるとすりゃ、あのジジイだろ』

深いため息。その口振りからすると・・・。

「ガストラ皇帝ですか」
『あー、そんな名前だっけ?
つか、あのジジイ世界統一とか何とか言ってなかったか?忘れてんのか自棄になってんのか。
三闘神の力で相当地形も変わってるし、多分生態系も変わるぞ。前もそうだったからなー』
「何とかして止めなければなりませんね」
『そうだな。今回ばっかりは面倒とかって放置出来ないだろうしなぁ』

“どうせ首突っ込むんだろ?”と続く言葉に私は頷きました。
現世に戻れるならば、止めない訳にはいきませんから。

「それにしても・・・カーバンクルは物知りなんですね。ずっと昔の事もよくご存知ですし。
幻獣界だとそういったお話もちゃんと伝わってらっしゃるんですか?
私は三闘神同士の戦いまでは把握してませんでしたから、今回のお話は少し驚きました」
『そりゃ当事者だからな』

・・・・・・はい?

『最初の争いの時からずっと面倒ごとに巻き込まれてんのなー、俺。
っても、周りにあんま興味なかったからそんな詳しくない方だけどさ』

“悪ぃな”なんて悪びれない笑顔。
いやいやいや!今、充分に重要な事を沢山お話ししていただきましたからね!?

「あの、カーバンクルは今お幾つなんですか?」
『さあなぁ。数えてねーぞ、流石に』

ですよねぇ。

『ま。んなとやかく言うようなモンじゃねーよ、俺はさ。
幻獣になっても戦えないしな』
「でも私はカーバンクルに沢山助けられてきましたよ」

今回の事も含めて、今までずっと。

『良いんだよ。俺がやりたくてやってんだから』

それでもカーバンクルはとても嬉しそうに笑ってくださいますから。
私も同じ様に笑みを返すのでした。


『とても興味深いお話でした』

安定していない、まるで揺らぐような魔導の力。
それにカーバンクルは先程までの笑顔から一転して冷たい瞳を向けます。

『テメェの為にした訳じゃねーよ』
『原初の幻獣・・・カーバンクル。頼みがあります』
『あ?やだよ、面倒くせぇな』

まさかの一蹴。
まだお願い事の内容すら話してませんけれど。

『・・・・・・。
貴方と同じようにの力になる方法を教えて頂きたい』
『やだっつってんじゃん。聞けよ』

気を取り直して続けた言葉に、更に追い討ちをかけますが・・・。
あ、いえ。でもそのお願い事であれば私としてもご遠慮願いたいですね。

『私は・・何としてもガストラ皇帝に一矢報いたいのです』
『あん?あのクソジジイと心中したいってか?
好きにしてくりゃ良いじゃねーか。特攻しようが派手に散ろうが俺の知ったこっちゃねぇ。
勝手にに存在意義を見出だして巻き込んでんなよ』
『そんなつもりでは・・・っ』
『そんなつもりだろ。確かに血統が特殊かも知んねーが、はただの人間だ。
勝手に依存すんな、英雄視すんな、お前を救ってくれると勘違いしてんじゃねぇ』

重なる言葉に、今度こそケフカは押し黙りました。

「あの、カーバンクル・・・」
『相手にすんなよ、。付け上がらせるだけだ』

“こういう奴に甘い顔する必要ねぇからな”と、機嫌悪そうな言葉と尻尾。
それから幽霊のウェイターさんに追加のクッキーを注文します。

『・・・・・・幻獣に成って理解しました。
力が欲しいと願ったとして、得た力は歪なものだ。これでは何も変えられない』
『テメェらがやった人造魔導士のがよっぽど歪だろーに。
よくあんな極悪非道な方法を思い付けたもんだぜ。
ま。純正でも今のあのクソジジイには天地が引っくり返ろうが勝てないだろうがな』
『勿論、それも理解しています。私は償いきれない罪を重ねてきた。
そして三闘神は幻獣にとって創造神。
どれだけ贖おうにも、その力を得たガストラを屠る事は、今の私には叶わない』

悔しそうに、ケフカは強く拳を握り締めました。
その姿にカーバンクルはニィッと口の端を吊り上げて笑います。すっごい悪いお顔ですけれど。

『分かった。じゃあお前は後2回死ね』
『・・・・・・は』

2回。
何て具体的な数字だろうかと思っていれば、カーバンクルは前足をケフカへと向けます。
パチパチと強い力がカーバンクルの周囲で爆ぜたかと思えば、直後に落雷が落ちました。
・・・・・・カーバンクル。此処、食堂車ですからね?じゃなくて。

『おー。攻撃魔法が使えるって良いな』
「カーバンクル・・・攻撃魔法は使えなかったのでは?」
『へへ~。今はお前と繋がってるからな。ある程度は使えるんだよなー』
「何と言う良い笑顔で・・・」

落雷が落ちた後にはケフカの姿はなく・・・魔石が落ちてます。
え、本当に死なせてしまったんですか?

「カーバンクル・・・」
『ま。あんだけ幻獣殺しといて平気なツラされんのも癪だしな。
じゃ、後1回殺しとくぞー』

まるで焦ったように魔石が光を明滅させます。

「カ、カーバンクルっ!そんなにケフカの事を恨んでたんですか!?
いえ、確かに多くの仲間が魔石にされてしまいましたけれど!」
『ん?いや。そりゃにあれこれちょっかいかけまくったのはムカついたけどな。
流石に同族が全滅した程度で恨むとか、そこまで心狭くねぇっての』
「寧ろそこでは恨まないんですね?
いえ。でしたら、何故・・・?」

そんな執拗に殺しにかかるんですか?

『何言ってんだ?
あのクソジジイに対抗する力が欲しいって望んだのは向こうだぜ』

言いながら、前足に強い魔導の力を纏わせました。強化したって事ですよね?
その前足をケフカの魔石に向けて力一杯振り下ろします。とんでもなく極悪な笑顔で。

『安心しろ。“俺”と繋いどいてやるよ』

強く握り締めた前足を容赦なく叩き込まれて、魔石は粉々に砕けてしまいました。

『よし。これでこいつも魂と魔力の塊だ。
つっても欠片が結構残ってるから幻獣に近いっちゃ近いがな。
まー、俺も変わったばっかだし、こいつの身体が出来るまでちっとかかるな。
ほれ。もしあれならお前が持っとけ。
こんだけ砕けば魔力もへったくれもねぇし、囮くらいにならなんだろ』

パラパラと魔石の欠片を渡されましたが・・・何て不憫な。
何だか流石にちょっと可哀想になってきました。あ、でも。

「・・・・・・カーバンクル。
捨て置けって言っていたのに、連れていってあげるんですね」
『それもそうだな。やっぱ捨てるか』
「あわわっ!いえ、そういう意味ではなくて!」
『あははは!分かってるよ。
ま。自分の状況分かってるみてーだし、特攻位させてやっても良いんじゃね?ってな。
やりようもない贖いをしようなんて面白いじゃねーか』
「なるほど・・・?」

そう悪い顔をされてしまうと納得しにくいですが。

「カーバンクル、優しいですよね」
『・・・俺、お前のそういうポジティブなとこ本気で好きだわ』
「ええと。ありがとうございます」
『おう』

“あんなに執拗に求めていたお前に縋らせてやる訳でもなく、与えられた生命すら奪って。ついでに単独特攻させようとしてるだけだしなー”って・・・・・・んん、なるほど。
でもほら、どんな形であれ一応は意思を尊重してくださってますし。ね?
何も出来ずに・・・始まりもせずに終わる訳ではないというのは、きっと彼にとって特別な意味になり得るのではないかと。私はそう思いますけれどね。

『よし、じゃそろそろ行くか!
これ以上長居すると本気で霊界に行くな』
「それは良くないですね!流石に死んでしまうのはちょっと・・・。
・・・・・・でもどうやって戻るんですか?」

また魔列車にお願いするとか?

『あ?そりゃ面倒だからテレポで良いだろ。
良いか、自分の魂から繋がってる肉体までの道を辿れよ。失敗したら俺ごとお陀仏だからな』
「分かりました。責任重大ですね」
『おう。気をつけてやれよ』

あくまでも軽い言葉に私は一度微笑んで意識を集中します。
私の魂が繋がる先────っ!見つけました!!

「テレポ!」

紡ぐ言葉。ガクンと重力がかかって・・・魂に直にかかるからでしょうか?
意識と視界が黒に塗り潰されました。

『ちょ、待て!俺の欠片ってまだあんのか────っ!!?』

意識が途絶える直前にカーバンクルの叫ぶ声が響いて・・・ええー?



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