鳥篭の夢

大災害の後/2



サウスフィガロで目覚めてから早数ヶ月が経ちました。
他の大陸でもダメージが大きかったようで、被災してサウスフィガロに移り住む方、一時の避難場所として来られた方等・・多くの方々が訪れました。
その所為なのか外から来た方々による女性や子供に対しての暴力や性犯罪が何件か発生しまして。
バルガスさんが主導になって見回りによる治安強化と、被害者の保護を行ってくださっています。

「あのなぁ。お前がすぐに巻き込まれに行こうとするから仕方なくだ!ったく・・・」

等と仰っていますが・・いや、私も別に最初は好きで巻き込まれた訳ではないですからね?
とは言え、この家も今はプチ駆け込み寺のようになってしまっていますが。
見た目は大柄ですし口調も怖いかもしれませんが、元々禁欲修行とかされてますし、被害に遭いかけた女性達も助けてくださったからかバルガスさんなら大丈夫と心穏やかに過ごされてますし。
最近はほとんどそういった事件も無くなりましたから、漸くホッと一息つけるようになりましたね。

「バルガスさんのおかげで事件もほとんど起こりませんし・・・漸く少し平和になりましたかね」
「半分はお前の魔法だけどな」
「ふふ。力の弱い方々に無体を働くのですから少々のお仕置きは仕方の無い事かと」
「おー、怖」

そうですか?バルガスさんに物理で鎮圧されるのもなかなか怖いですけれど。容赦ありませんし。

「似た者従兄妹さんなのね」

ニーアさん・・最初に保護された女性は、私達を見比べてくすくすと笑います。

「バルガスさんと似た者ですか・・・?」
と似た者かよ・・・」
「ほら」

同じような言葉を同時に言ってしまって・・・・・・不覚です。
なんて。3人で顔を見合わせて笑いました。
と、不意にニーアさんがその表情を曇らせます。

「でも・・・本当にもう旅立ってしまうの?」
「ええ。とは言え、私としては少し長居をしてしまった位ですよ」

植物が上手く育たなくなっているようで、薬の材料がなかなか揃わなかったんですよね。
作物が育ちにくいなんて・・この世界がいよいよ破滅に向かっているようでとても恐ろしいですが。
そうなる前に、絶対にガストラを止めてみせなければいけませんね。
鞄を持つ手に力が入って・・・・・・深呼吸。私ならきっと大丈夫ですから。
考えていれば、おば様が何かを手に持って此方に来られます。傍らには1羽の鳥の姿。

。準備は出来たかしら?
さっきからフェッカが置いていかれるんじゃないかってそわそわしているわよ?」
「そうなんです?もう、フェッカったら・・・。
流石に貴方を放って行くわけ無いじゃないですか」

一応、砕けた魔石でも幻獣ですし。
あ・・そうそう。あれから暫くしてケフカも目覚めたんですよね。
曰く“カーバンクルから漸く魔力が供給されて身体が造れた”と。
でも魔列車で見た時のような人の姿ではなくて、あの羽毛の色合いをした小型猛禽類程度の鳥姿ではありますけれど。
流石に周囲に知られると説明が難しいですから、ケフカの綴り“kefka”を並べ替えて今は仮にフェッカとお呼びしています。
所謂アナグラムというやつですね。

「ま。この鳥がいりゃあ外がどんなでも少しは戦力になんだろ。
案外狂暴だしな、こいつ」
「爪も鋭いですしね。代わりにとても目立ちますけれど」

緑と赤が基調の羽色というのはなかなか派手ですから。

「ま。せいぜい悪い輩を誘い出してぶっ潰してやりゃ良いってこった。
の事をちゃんと守ってやれよ、鳥」

物言いたげな目線だけを向けたフェッカは、そのままバルガスさんから視線をそらしました。

「相変わらず可愛くねぇな・・・」
「この子に可愛いげがあったら嫌ですよ」

中身はケフカですし。
おば様はくすくすと笑って、それから持っていた布を私へと手渡します。

「サウスフィガロは落ち着いたけれど他の町はまだ危ないかもしれないわ。
気休めにもならないかもしれないけれど良ければ使って頂戴」

これは・・・ローブでしょうか。白地に赤の模様が控えめに入っていてとても素敵なものです。

は髪も目の色も珍しいし、可愛らしいから少しでも隠れた方が良いでしょう?」
「可愛いは身内贔屓が入ってると思いますが・・・。
確かに珍しい色ではありますから、ありがたく使わせていただきますね」

笑顔を向ければ、笑顔で返されて・・・・。
さて。名残惜しいですが、そろそろ行かなければ船に間に合いませんね。

「おば様、バルガスさん。ありがとうございました。
また帰ってきますから・・・その時はよろしくお願いしますね」
「ええ、勿論。何時でも貴女の帰りを待っていますよ。
は私の大事な家族だもの」
「ま。倒れる前には帰ってこいよ。
俺はもう暫くはこのままだろうしなー」

“親父ばっか修行とかふざけすぎだろ、全く”と、悪態を吐きますが・・・まぁ大丈夫でしょう。
元々バルガスさんはとても真面目ですからね。

「ニーアさん。他の方にはご挨拶出来ませんでしたから・・どうかよろしくお伝えください。
それからバルガスさんの事、お願いしますね」
「・・・えっ!?」
「すぐ無茶をするので」

続けた言葉に、ニーアさんは真っ赤になってしまった顔のままで何度も頷きました。
ふふ。こちらも、このまま上手く物事が進むと良いですけれど。それは次の帰省の楽しみにするとして。

「それでは、行ってきます」


────と、意気揚々と出発した迄は良かったのですが・・・。

「いやぁ。清々しい迄に誰ともお会いしませんね」

家を出てから更に一月。時間はあっという間に過ぎていきますね。

『貴女が先程の町で長く滞在したのも要因では無いのですか?』
「仕方ありません。治療の手が足りないとあればお手伝いするのは当然でしょう。
それに・・あんな状況を放置できる程、私は薄情ではありませんよ」

ニーアさんの仰る通りでした。
被災して大怪我をしたり亡くなる方は勿論、それだけでなく震災による混乱のせいで暴力事件や盗難被害などが相次いでいるようでしたから。
私はそこまで関与出来ませんでしたが、早急な対策は必要になるでしょうね。
此処にエドガーさんがいらっしゃれば対策案等を提示していただけたのでしょうが・・・。

「フェッカも何かお手伝いしてくださっても良かったのでは?
仮にも元帝国の将軍ですし、警備に関する案とか無かったんですか?」
『私が将軍職に就いた時にはもう世界警察として機能してませんよ。無茶ぶりは止めてください。
とは言え、貴女の従兄殿のような防犯を主動出来る方が不在であれば、町ごと加害者を壊滅させて残りを規模の大きな町に移住させるのが一番早いでしょうがね』

“事前の連絡は必要でしょうが、物資不足等の不満から起こる暴動・再犯防止を視野に入れるならその方が楽でしょう”と。
何だか乱暴な案ではありますね・・・それに受け入れ先の警備が正しく機能していなければ逆に新たな犯罪が横行しそうですし。
まぁその点は彼自身も分かってはいるのでしょうが。
このご時世、万事解決と言うのはなかなか難しいものですから。

『私達はそこまで他人に肩入れしている場合ではありませんからね。
全ての人間を救おうなどと、それこそ神にでも成らねば叶いませんよ』
「そうですね。私は人間ですから・・・救える範囲は限られてしまう」

それは本当に悔しい事ですけれど。

「さて。出来ない事を嘆いていても仕方ありません。
そろそろ次の町ですから・・・今度こそ誰かにお会い出来ると良いのですが」

地形が変わりすぎてどの町なのかも分かりませんが・・・遠目からでも規模は大きそうですね。

「フェッカも少し空から探索をお願いしても良いですか?
噂話程度でも何か情報があれば良いのですけれど」
『承知しました。では何か分かり次第、貴女の元に戻りましょう。
幸い、貴女の魔力は特徴的ですから追いやすいですしね』
「ではお願いします」

言葉にフェッカは空高く駆け上がりました。
極彩色は空からでも目立ちますが、まぁ大丈夫でしょうか。

さて。町に入って皆さんのお話を聞いていく限り、此処はアルブルグのようですね。
・・・これは、南の大陸と繋がってしまったという事でしょうか?
遠くに見える細長い塔は、ガストラ皇帝が神となってこちらを監視しているとか。
彼の意に沿わないと裁きの光が降り注いで粛清されてしまうとか。
・・・・・・酷い話です。こんなこと、許されるべきではない。


「・・・、か?」

不意に声を掛けられて顔を上げれば、バンダナを巻いた見覚えのある顔が見えて───っ。

「ロックじゃないですか!
ご無事だったんですね、良かったです」
「無事で良かったって言うのは俺の方。
あの島じゃあんなに死にかけてたんだからな・・無事で本当に良かった。
ただ、その目はどうしたんだ?」

ああ、やはり気になりますか?

「あの場所は魔力が強かったので影響を受けてしまいまして。
色が違う以外は問題ありませんから、お気にせず」
「ふーん。魔力の影響を受けやすい特殊体質、だったっけか・・大変なんだな。
でも不思議だけど綺麗な色してるぜ。まるで宝石みたいだ」
「ありがとうございます」

トレジャーハンターとして様々な宝石を見てこられたであろうロックにそう言っていただけると少し気恥ずかしいですね。
単に気遣ってくださっている可能性もありますが。
目に関しては少し曖昧な説明ですけれど。問題が無い事は事実ですし、今後もこの説明で通すとしましょう。

はマッシュを探してるのか?」
「それもありますが、皆さんの無事の確認も兼ねてですね。
それにガストラも放ってはおけませんし。
旅に出たのは最近ですが今まで誰とも会えなかったので、ロックに会えて本当に良かったです」

このまま誰ともお会い出来なかったらどうしようかと思いました。

「ロックもセリスさんを探してらっしゃるんですか?」
「いや。俺は・・・」

ピタリと動きを止めて、ロックは視線を下に落とします。
何度か手を握りしめたり開いたりと動きを繰り返して、それから一度深呼吸。

「確かに、セリスや仲間の情報も探してる。
けど、今は・・・・・・秘宝の情報も集めてる途中だ」
「秘宝。と言うと、レイチェルさんの?」

彼女を蘇らせる為にロックがずっと探していたという物ですよね。
それにロックは頷きました。

「とは言え、どっちの情報もまだ何にも掴めてないけどな。
・・・・情けないよな。みたいに前を向いてる訳でもない。
この世界をこのままにしといたらヤバいのも分かってるのに・・・・それでも俺は真実を知りたい。
失くしてしまった真実を取り戻すまで、俺は・・・俺にとっては・・・・・・」

強く拳を握りしめて、俯く姿。
それに私はロックの両頬を手で包み込んで顔を覗きます。

「私に何かお手伝い出来ますか?」
・・・」
「ご自分を“情けない”なんて思わないでください。
私にも求めるものがあるように、ロックにはロックの求めるものがある。
ね?別段おかしな事では無いでしょう?
それに自分自身の想いに答えを出そうとしているのは、前を向いてる証拠じゃないですか。
相変わらずご自分の事にはネガティブなんですから」

くすくすと笑えば、ロックも暫くして僅かに眉を下げて苦笑しました。

「うるせー・・・でも、ありがとな」

頭から被っていたフードを落とされて、わしわしと頭を乱暴に撫でて返されます。
と、ちょっと!一応纏めてるんですから動物を撫でるようにされるのは困るのですが!
ぐちゃぐちゃにされた髪を整えながら睨み付ければ相変わらず悪びれない“悪ぃ”の言葉。

「俺自身の事だから、秘宝の件は俺1人で何とかしてみるさ。
全部決着が着いたら・・・・・・そん時は、ガストラ退治に俺も混ぜてくれよな」
「ええ。ロックがいてくだされば心強いですから、お待ちしてますね。
私もこのまま皆さんを探しながらガストラの攻略法を考えないといけませんし」
「まー、そこからだよな」
「ですねぇ。新しい神様がいる・・と、噂になっている件の塔は入口がないみたいですし」
「そもそも積まれた瓦礫だろ?あれ。
一回見に行ってみたが、あれを建造物っていうのは無理があるって言うか」

見に行かれたんですね。流石ロック。フットワークが軽いです。

「侵入経路も問題だな。
飛空艇がありゃ話は別だろうが、ブラックジャック号は真っ二つだからな」
「真っ二つ・・・ですか」

その辺りはほとんど意識が無かったので記憶にありませんが。
セッツァーさんは大丈夫でしょうか?飛空艇をあんなに大切にされていましたし・・・心配ですね。

「情報ありがとうございます。まぁ侵入方法は追々考えますかね。
まだ世界がどう変わっているのかもあまり見れてませんし・・・」

他の皆さんの無事も確認してません。他にもやるべき事はきっと多いでしょうから。
改めてフードを被り直して、私はロックの顔を見上げます。

「では。私はそろそろ行きますね。
ロックはあまりご無理をせずに、どうかお元気で」
もあんまり無茶すんなよ。お転婆だしなー」
「もうそれ言うの止めていただけませんか?」

子供の頃ですから!いえ、確かにたまに無茶はしてしまいますけれど。
ストラゴスさんの所為でとんだ風評被害です。

「ありがとな、
「お礼を言われるような事は何もしてませんよ」
「俺からすれば、してるって事。
見てろよ。絶対に間に合わせて追い付いて見せるからさ」
「はい」
 
頷いて、お互いに微笑みます。ああ、今回は思い詰めているのでは無いのですね。
レイチェルさんの事と、セリスさんの事と。少し心配ではありましたがそれなら一安心です。
“じゃあな”と手を振り去っていくロックの後ろ姿を眺めながら、私はそんな事を考えるのでした。

『別れてしまって良かったのですか?』
「勿論。やるべき事を邪魔する訳にはいきませんからね。
でも漸く仲間の無事を1人でも確認出来ましたから、これは大きな前進でしょう?」

唐突に現れたフェッカに微笑んで見せれば、ふと笑みが返されました。

『成る程。ポジティブなのは良い事です』
「さ、私達も今日の宿を探して、今後の作戦会議といきましょうか。
まだまだ何の情報もありませんから・・この町で何か分かると良いのですけれど」

出来る事なら、新しい仲間の情報を。
望めるのであれば、次なる再会を。
さて。今のが切っ掛けとなって、次のご縁に繋がれば良いのですが。



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