鳥篭の夢

集う縁・Ⅰ/砂漠の王3



「で。私としては今回の事をちゃーんと説明して欲しい訳だけど?」

セリスさんの言葉に、私とエドガーさんは顔を見合わせました。

「レオさん、説明されてないんですか?」
「貴方と合流しているから事情は説明しているものかと思っていたが・・・」
「いや。私が話したのはフィガロに乗り込む事だけだな。
後は、変装している故に話しかけるのは控えて欲しいとは伝えたが・・・。
時間も無く、盗賊達に気付かれる訳にもいかなかったから根本的な説明は出来ていない」

ああ、レオさんの肩に留まっているフェッカが大きな溜め息を・・・!
いえ。しかしボロを出さない為には必要だったのではないでしょうか?多分。

「詳しく問い詰めたくてもレオ将軍の言った通りでしょう?
話し掛ける訳にもいかないし。こっちはどれだけヤキモキした事か!ねぇ、マッシュ!?」
「え?いや、俺は兄貴達も何か考えがあるんだってのは分かったからな。
まぁ教えてくれりゃ手伝えたんだが、邪魔する訳にもいかなかったしなー」
「双子の以心伝心ってやつかしら?と言うか焦ってたの私だけなの?」
『お前だけだな』
「カーバンクル」

その率直な物言いは如何かと思いますよ。
笑いながら私の側に来るカーバンクルをそっと抱き締めて・・ああ、久しぶりですね。
昔はこんな風によく抱っこしてましたっけ。
落ち込むセリスさんにエドガーさんはくつくつと笑うと、そっとその頭に手を乗せます。

「すまない。フィガロが故障したって話を聞いてな。
助けに行きたいけど砂の中だろ。そんな時にあいつらが城から出てきたって話を聞いたんだ」
「・・・それで利用したって訳ね」
「ああ。その時に偶然再会したと協力してあいつ等に近付いた。
まさかボスに担ぎ上げられるとは予想外だったがな。
もう少し早くにお前達とも再会出来ていたら良かったんだが・・・・。
とは言え、秘密の洞窟に案内してもらうまでフィガロ王だって事を知られる訳にはいかなかったからな」
「かつては自分達を牢に入れていた王様だからね」

“成る程、それなら仕方ないわ”と、セリスさんは頷きました。
納得してもらえたようで此方としても一安心です。

「マッシュなら何も言わなくても理解してくれると信じてたからな。
目論み通りに行って何よりだ」
「そりゃ、俺が兄貴を信じない訳ないからな!」

素晴らしき兄弟愛、というやつでしょう。
マッシュのエドガーさんに対する信頼感は本当に素晴らしいですから。

『ま。一件落着ってヤツだなー。
俺も漸くと合流できて一息つけるぜ』
「ふふ。私もカーバンクルと無事にお会いできて良かったです」

マッシュと一緒でしょうから不安はあまりありませんでしたが。
やはりお2人がいないのは淋しかったですからね。
カーバンクルが腕からすり抜けて、その先を視線で追えば楽しそうにマッシュをつつきます。

『お前ら何時まで経っても出会わないから、ずっとこのままかと思ったしなー』
「あのなぁ。そうやってからかうなよ。
・・・・・・っと。、遅くなったが無事で本当に良かった」
「はい。マッシュもご無事で本当に安心しました」

私に向き直ってふわりと頬に手を添えられて、温かなその感触は間違いなくマッシュのものです。
ああ、本当にご無事で良かった。なんて、そんな言葉が胸に落ちてきて・・・・・・。

「人前でいちゃつかないでくれる?そこのバカ夫婦」
「セリスさんっ!まだ結婚してませんからっ!」
「良いだろー?久々に会ったんだし。
・・・・・・ん??」

何だか急に恥ずかしくなってきてしまいました。
言われてみれば然り気無く抱き寄せられていますし。あの、あの・・・っ!

「て・・・・・・テレポ!」
「「「「え」」」」

思わずテレポを唱えれば、見覚えのある部屋。
あ、サウスフィガロの私の部屋ですね。その扉が不意に開いて・・・。

「あれ?さ───」

『ほれ、。戻るぞー』
「カーバンクル!?きゃあっ!!」
『テレポ』
「え?え??」

ニーアさんに声を掛けられたとほぼ同時にカーバンクルが姿を見せ、私の腕に触れたと思えば再びのテレポで元の場所へと戻りました。
寸分違わず元通りというカーバンクルのコントロールは本当に素晴らしいと思います、はい。

『ったく。恥ずかしいからって逃げてんなよ?』
「うう。すみません」

つい。羞恥心が許容量を越えて逃げてしまいました。
とは言え寸分違わないので結局マッシュの腕の中ですけれども。

『お前ら大抵すれ違ってんだから、あんまあちこち離れるなよな』
「本当にすみません・・・・・・んん?」

すれ違う??

「何の事だ?」
『だってお前らめちゃくちゃすれ違ってたじゃねーか。
数時間待てば会えたとか、町を出た頃に着いたとか』
「「はぁ!?」」

それは初耳なのですけれど!?フェッカ!どういう事ですか!!
目線を向けますが慌てふためく姿は彼も初めて知ったように見えます。ええー?

『あー。まぁ、あいつにゃソコまで分かる力は無いだろうな。
俺もちょびっとしか渡してなかったし』
「よく分からんが、お前はの位置が分かってたって事だよな」
『おう』

そんなアッサリと・・・。

「つまり、マッシュはに会おうと思えばすぐ会えたって事かしら?」
『当然だろ?俺とは魂が繋がってんだから辿れば一発だし。
さっきテレポでを捕まえたのも魂の先を辿ったからだからな。
・・・・・・ん?お前ら自力で再会したいんじゃなかったのか??』
「いやいやいや!」
「何でそうなるんですか、カーバンクル!」

そんな事全く知りませんでしたからね?!

「ちょっと待て。魂が繋がっている、とは・・・どういう事だ?
の目の色が変わった事と何か関係があるのか?」
「確かに。そこのトコもうちょっと詳しく教えて欲しいわ」

あー・・・。そうですね。
エドガーさんもセリスさんも事情は知りませんから、説明しないといけませんね。
口を開こうとすれば、ですがエドガーさんに制されてしまいました。

「・・・ああ、いや。気が急いてしまったな。
こんな場所で立ち話する内容でも無いだろうし、一旦、上に戻ってからにするか。
俺達もこんな格好のままだし、城内の者達の安否確認も行わなければ」
「そうですね。是非お手伝いさせてください」
「よっしゃ!俺もやるぜ!」
「私もケアルラ位ならもう使えるし」
「力仕事なら私も何か出来るだろう。手伝わせてくれ」

次々と申し出る言葉にエドガーさんは表情を引き締めて頷きます。

「ああ、すまない。助かる!」

そうして私達はフィガロ城の浮上と、城内の方々の救護へと向かったのでした。

・・・・・結果として、今回の事故で亡くなった方はいませんでした。
エンジントラブルを起こしてからも暫くは何かで機械が動いていたのかもしれませんね。
一時的に意識を失っていた方もいましたが、魔法だけですぐに回復されましたし。
体力の無い方は勿論暫くの静養が必要になりますが、兵士等の元々鍛えてらっしゃる方は城の浮上後に暫く休憩だけされて業務に戻られました。
曰く、砂漠での過酷な行動を主としてらっしゃるので体力には自信があるとの事。
念の為と皆様には栄養剤を渡しましたが・・・とにかく、何事もなくて本当に良かったです。

湯浴みで元通りの髪色に戻った私は、既に起き上がってお仕事に復帰されているメイドさんにまたもやオイルでツヤツヤ綺麗にされてしまいました。
あ。勿論、セリスさんもご一緒ですよ。
まだ休んでいてくださいとお願いしたのですけれど・・・フィガロのメイドさんは強すぎませんか?兵士さん並みの体力をお持ちなのでしょうか・・・??
それはともかく。私達は支度を終えると皆さんの集まっている応接室へと招かれました。

「すみません、お待たせしました」
「やっぱり私達の方が支度に時間がかかるわね」

客人だからとあれこれ着せ替えさせられましたし、ヘアメイクもしてもらいましたからね。
お願いしてシンプルなワンピースを選びましたが・・・素材が良すぎて少し落ち着かないです。

「私達もつい先程集まったところだ。
気にしないでくれ、麗しいレディ達」
「ほら、立ってないで座れよ」

同じようにメイドさんにされたのでしょうか?
穏やかな笑みを浮かべるエドガーさんの髪の毛も輝かんばかりにツヤツヤです。素晴らしい。
メイドさんにそれぞれ椅子を引いてもらうと、私とセリスさんは座りました。

「フィガロの皆さんがご無事で本当に良かったです」
「それも皆が治療や救護に尽力してくれたおかげだ。
の薬のおかげで、元より鍛えている者なんかは前より肌艶が良い位だぞ」
「それは流石に言い過ぎですよ」
「でも栄養不足の人達の顔色も良くなってたわよ」

それは栄養剤ですからね。

「渡した方には説明してますが、あれは一時的な効果をもたらすものですから。
無理は厳禁ですからね」
「ふーん。飲んで元気、で終わる薬は無いのね」
「そんなものですよ」

薬なんてものは完全栄養食でも万能でもありませんから。

「良いじゃねぇか。の薬はマジで効くからな。
それが切っ掛けになって良くなるってんなら充分だろ」
「・・・ありがとうございます」

皆さんがそうやって優しいお言葉をくださるのはとても嬉しいですから。
諸々の事はありますけれど、素直に受け取っておきますね。

「で、だ。まず気になっていたのはのその目。
それと・・・彼?が、言っていた“魂を繋げた”という言葉の意味か」
「それ、大丈夫なの?不思議な色してるけど」
「痛みがあるとか、視界がおかしいとか。そんな事はないのでご安心ください。
私のは本当に色が染まってしまっているだけですからね」
「染まる、とは・・・?」

不思議そうなレオさんに、私はどう説明すべきか僅かに考えます。
が。まぁ、今は回避出来ていますから正直にお話ししても大丈夫でしょう。

私の元々魔導の力に影響されやすい体質の事。
魔導の力の影響で強い負荷がかかると身体が崩壊し、その過程で瞳の色が青に染まる事。
そしてあの時から世界に充満する魔導の力に私の身体は本来耐えきれない事。
私もそうして生涯を終える筈でしたが、カーバンクルが死して私の魂と身体を繋いでくださったおかげで無事に生き永らえた事を簡単に説明していきます。

「何だか頭が痛くなってきたわ・・・。
え。貴方、死んでるの?だって身体もあるじゃない」
『身体くらいの魔力から拝借して、ちょちょいとな。
だから俺もカラーな訳だ』

カラーとは・・・。

「・・・我々の理解を越えた原理だな」

ああ、とうとうエドガーさんが頭を抱えてしまいました。

『俺は元々妖精だからな。ちょっと位の無茶なら通る。
ま、そんなこったで俺とはほぼ一心同体。
こいつが生きてる限りは俺も存在するし、俺が存在する限りはこいつの無事は保証できるぜ』
「そういう訳で、カーバンクルのおかげでこの環境下でも問題なく過ごせています。
今はうっかり放電も無くなりましたし、調子も崩しませんよ」

常用薬は念の為飲んではいますけれど。

「改めて聞くととんでも話だよな。
ま、おかげでが無事だった訳だが」
『おう。俺に感謝しろよ』

腰に前足をあててふんぞり返る姿は寧ろ愛らしい限りです。
・・・・・本当に、あの時出会ったのがカーバンクルでなければ。
そして親友にならなければ、私は今頃死んでいたでしょう。
代わりにカーバンクルの命を奪ってしまった形になりますから、私としては納得いかない点もありますけれど。
それでも縁とは本当に大切なものなのだと実感させられます。

の件は理解しがたいが納得はした。
まぁ俺からすれば魔法や幻獣も本来は有り得なかった力だからな。
不思議な現象が起こったとしてそれがおかしいのかの判断もつかない」
「同感だな。こういうものだと受け入れた方がよほど早いだろう」

エドガーさんの言葉に、レオさんも深く頷いて同意を示しました。
ふふ、まぁ当事者である私も驚きましたから仕方ないかと。

「レオ将軍程の人物でもそのように言うのだから、面白いものだな」
「私とて理解の範疇外にあるものはある。
それより───」

一度言葉を止めた後、レオさんは意を決したように顔を上げました。

「私の事はどうか“レオ”と呼んで欲しい。
今の私は帝国将軍ではないからな。主君を裏切り、祖国を失ったただの男───っ」


───ゴスッ!


「レオさんっ?!フェッカ、ダメですよ!」
「大丈夫か?レオ将・・・あー、レオ、だったな。ほら、ケアル」

隣に座っていたマッシュがケアルをかけてくださいましたが・・・。
流石に米神を嘴でつつくのは如何かと思いますよ?肩に留まらせてもらってるんでしょう?
でもそれ絶対に爪が食い込んで痛いと思いますよ・・・って。こら、そっぽを向いてはいけません!
実際には声をかけるでもなく慌てた様子の私に、レオさんは米神を押さえながら苦笑しました。

「いや、すまない。今のは私の失言だからな、彼は悪くない。
残った民の為に剣を取ると決めたのは自分だというのに・・・惰弱な言葉を口にしてしまった。
大丈夫だ。私はそれでも、かのガストラ皇帝への忠義ゆえに剣を向ける覚悟は出来ている」

“それが私の役目だ”と、続ける彼の瞳には強い光を感じます。
・・・・・・ああ。フェッカは心配してらっしゃったんですね?
また覚悟が鈍ったのではないかと。己の存在意義にまた疑念を抱いてはいないかと。
もう。同僚想いと言いますか、苦手意識があったからこその激励なのかもしれません。

「呼び名に関しては了承した。では今後は私も“レオ”と呼ばせてもらう」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「しかし・・・貴方の肩のその“鳥”は一体何なんだ?
前はそんな鳥を連れてはいなかっただろう?」
「ああ、彼は・・・・・・」

口が何かの形を作りかけて、一度閉じます。
あ、あれですか!ケフカって言いかけたとかそういう・・・・。
僅かに困ったような顔をして、私へと視線を向けました。

「今は何故か私の肩に留まっているが、彼はが連れていた鳥だ」

あ。その“またか”みたいな目線は止めてください、セリスさん。
厄介事は私と思ってないですか?まぁ彼は厄介の元ではありますが。

「えーと。彼は・・一応、幻獣です」

よね?カーバンクル。
魔石の欠片もありますし、形状としても魔力も近しいものですし。
力そのものとしてはとても弱くしか感じられませんが。

『ん?この鳥の事は気にしなくて良いぜ。俺のセット品みたいなやつだし』
「どういう事だ?」

怪訝そうなエドガーさんの言葉に、ニヤニヤ笑いながらフェッカに近づいて足蹴にします。
ああ、またそんな風に乱暴な・・・・・・。

『俺に繋げてる予備の器だからな、コイツ。
何にも至れなかったものの成れの果て。ほんの一時のみ幻獣であったもの。
で、に何かあった時用の囮だ。
俺は基本的にの為に身体作り替えてこうなってっからな。ま、いざって時の保険だよ。
コレは見た目だけで中身は空っぽだ。お前らは至って無害な鳥だと思っときゃ良い』
「ふーん。ソイツの名前は?」
『さーな。興味無いから忘れたなー』

あ、それは多分本当に忘れてらっしゃいますね?
でも正体を教えるようなワードを使わない、と言う事は多少は気にしてくださっているのでしょう。
くすくすと笑って私はフェッカへと視線を向けました。

「行動を共にするに為に今は仮にフェッカ・・と、お呼びしています。
一応、今まで悪い事はしていませんから大丈夫かと」
「ふむ。が言うなら問題はないだろう。
素性が知れない分、多少の警戒は必要とは思うがな」

鋭い目線に怯む事なくフェッカも視線を返します。
暫くの睨み合い。それからエドガーさんは視線を外して私達へと向けました。

「さて、今後の話になるが・・・。
世界は分断されたが、どうやらコーリンゲンへと向かうルートは残っているらしい。
フィガロも世界大災害の後も何度か物資補給を兼ねてサウスフィガロとコーリンゲンのルートを使用していたと報告があったからな。
次の目的地をコーリンゲンにして更なる情報収集に向かう、というので構わないか?」
「おう。俺は勿論、構わないぜ!」
「私も別にそれで良いと思う」
「コーリンゲン方面は行った事がないですから、是非。・・・何か分かると良いのですが」

新しい誰かの情報とか。

「ただし数日は動力部のメンテナンスに当てさせてくれ。
原因は取り除いて再起動はしたが、また砂の中で故障なんてなったら洒落にならないからね。
今後このような事の無いように入念にチェックしておきたい。
皆もその間は僅かばかりの休息にでもしておいてくれ」

いつになく真剣な瞳。それは今回の事故に対してだけではないように思いますが・・・はて?
とにかくと、私達は頷き今日の話し合いは解散となりました。



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