鳥篭の夢

集う縁・Ⅱ/蘇る翼2



亀が皆さんを往復して無事に運んでくださって、私達は漸くと奥へ進みます。
その一室にあるのは・・・墓石、ですかね?一見すると豪奢なオブジェに見えますが。
とても綺麗なそれの台座部分には“ダリルここに眠る”と簡潔な言葉が彫られていますから、これは墓石で間違いないのでしょう。
と、んん。何だか下にも何か彫られてますか?目を細めてその文字を追っていって・・・・・・。

ともよ やすらかに

と。そう読めますね。
“友よ、安らかに”・・・・・・と変換するのがきっと正しいのでしょう。
大切な方に向けた言葉。想い。
もしかしてこれはセッツァーさんからダリルさんへの・・・。

「何かあったか?
「・・・・・・いえ、何も」

じっと眺めていた私を見据えるセッツァーさんに、笑顔で返します。
これは詮索すべきじゃないでしょうから。見なかった事にしてしまいましょう。
意図を察してくださったのかセッツァーさんは一度苦笑すると、その墓標にも仕掛けていたらしい仕掛けを触ろうとして───っ!?
唐突にゾクリとした感覚。何ですか?

「何だ!?」
「油断するな・・・何かいるぞ!」

ヒリつくような敵意と殺意。セッツァーさんの驚きの声にエドガーさんも鋭い言葉を飛ばします。
部屋中から感じる魔導の力が強まって・・・でも、一体何処から・・・っ?

「きゃ!何あれ!!?」
「魔力の塊・・・では無さそうですね」

充満していた魔導の力が黒い靄のようなものに変化すると、それはみるみる内に部屋の中央に集まって魔物の形状を作りました。
あれは・・・チャリオットに乗った首無し騎士ですか?!
それを引いているのも普通の馬やチョコボではないですね。
紫の光を放つ、まるで魂の集合体のような魔物。異質な姿にゾワリと背筋に嫌なものが這います。

「魔物か!!」
「何だアイツ・・・首がねぇぞ!?」
「普通の魔物ではないようだな」

“どうなってんだ?!”とマッシュが驚いて・・・ええ、確かに生理的に忌避感を抱く姿ですものね。
あれは危険だ、と。脳が警鐘を鳴らすような姿をしていますから。
しかし此方としても目的がありますから怯んで逃げ帰る訳にはいきません。
今も尚、敵意を向けられていますし戦闘は避けられないでしょう。

『墓参りだってのに物騒だなー』

・・・ええと?
武器を構える私達と魔物の間に、突然カーバンクルがふぅわりと割って入りました。
いえ、あの。普通に危ないと思いますよ?

『人間達の墓参りがどんなのかは知らねぇが、折角の親友の訪問まで邪魔する道理はねぇよなぁ?
守人気取りかもしんねーが、流石に野暮ってやつだろ。
黙って退くなら何もしねぇよ。此処は通してもらうぜ』

強い圧。今までの私であれば倒れていたであろう程には強い魔導の力がカーバンクルの身体から溢れて、周囲に弾けるように散っています。
ええ。今の彼ならあの魔物ごとこの墓所を吹き飛ばす事も可能でしょう。
そうされるのは流石に困ってしまいますけれども。
暫く睨み合うようにお互いに微動だに動かない状況が続いたかと思えば、魔物はそっと消えました。
もしかして分かってくださったんでしょうか?
・・・・・・いえ、脅しに屈しただけかもしれませんけれど。

「物騒なのは貴方よね」
「ああ、確かにな」

セリスさんとエドガーさんが頷きあっていますが・・・。
確かに物騒な物言いも多いですけども、本当は優しいんですよ?
そうフォローをして・・・・・・あれ、そんな疑惑に満ちた目線は送らないでほしいのですけれど。

「アイツはには甘いからなー」
「そうなのか?」
「ええ、そうね。マッシュに同感だわ」
「・・・んん。最近はちょっと否定出来ないのがツライです」
『そこは否定しろよ、もさー』

いえ、甘やかされている自覚があるのでそれは難しいかと。
ぽすん。と、私の腕の中におさまるとカーバンクルはため息を吐きました。

「ま、おかげでこの部屋を荒らされずにすんだってこった。
───さ、ファルコンはこの下だ。行こうぜ」

ファルコンとは?訊ねる前に、セッツァーさんは今度こそ仕掛けを動かすと突如として現れた扉の先へと進みました。奥は階段になってるんですね。
やはり薄暗いですがカーバンクルが光源になってくださってますから大丈夫でしょう。

「足元には気を付けな。
ふっ───・・・色々と思い出すぜ」

光に照らされる横顔は、どこか遠い思い出を手繰るようなそんな表情に見えました。
階段を下りながらセッツァーさんはポツリポツリと昔の事を語ります。

セッツァーさんのお友達“ダリル”さんと仰るその方は、女性ながらに飛空艇の操縦士として、とても優秀な方だったそうです。勿論、整備の腕も。
そうしてその方とはよく飛空艇の速さを競いあっていたのだとか。
大切な友人として、そして無二のライバルとして。セッツァーさんにとってかけがえの無い存在だったのでしょう。

そんなある日。
テスト飛行に出たという彼女は、セッツァーさんとしていた約束の場所に来なかったのだそうです。
“危険かもしれない”と事前に話してはいたそうなのですが・・・・・・ええ、もしかしたら無茶をしてしまったのかもしれませんね。
それは私達には想像する事しか出来ませんが。
飛空艇“ファルコン”と共に彼女が見つかったのは1年後だったそうです。
それは世界が見渡せるような、広く遠い土地で───・・・・・・。

巨大な飛空艇。セッツァーさんはそれに乗り込むと、迷いの無い足取りで甲板まで出ます。

「俺はファルコンを整備し、大地の下に眠らせてやった・・・」
「これがファルコン?」

周囲を見渡しながら問うエドガーさんに、セッツァーさんが頷きます。

「世界で一番近く星空を見る為に・・・・・・そう言ってたな、アイツは。
だから俺の夢を叶えるには、こいつがうってつけって訳だ。
雲より遥か遠く。星空に一番近い瓦礫の塔・・・ファルコンならその上に辿り着ける筈だぜ」

ニヤリと笑うと、セッツァーさんは舵を一度撫でました。

「羽を失っちゃあ世界最速の男になれないからな。
また夢を見させてもらうぜ。ファルコンよ」

平和な世界で、美しい青空を飛空艇で駆る為に。
ダリルさんの夢を共に乗せて・・・・・・?なんて、問うような無粋な事は出来ませんが。
ええ、セッツァーさんの決意を秘めたその強い瞳はとても輝いていましたから。

夢を取り戻して。
そうして、その夢を掴む為に───。

その一歩を踏み出す為に、彼はもう立ち上がったのですから。
ああ、きっともう大丈夫だと。私は舵を握り締めるセッツァーさんの後ろ姿を眺めたのでした。

等と平和に終われる訳もなかったですけどね!
よく考えれば深い地下からの浮上です。何が起こるかなんて保証される筈も無く。
まさか謎の滑走路を爆走した後に、水中を抜けるなんて思いもしませんでした。
おかげさまでセッツァーさん含めて私達は全身びしょ濡れです。

「悪い。まさか地殻変動で出口が水中に繋がってるとはな」
「・・・・・・ほんと、ビックリしたわ」
「久しぶりにびしょ濡れになりましたね」

前に皆さんとはぐれた時は水難の相が出ているレベルでよく水浸しになりましたっけ。
思い出して、マッシュと思わず顔を見合わせて苦笑します。

「私達は大丈夫だが、ファルコンは平気なのか?」
「ああ。元々防水処理はしてるからな。
とは言え久々のフライトだから後でチェックはするつもりだが・・・。
ま、空を駆ける翼は目覚めたんだ。これで残りの仲間を探せるな」
「ああ、そして今度は俺達の夢を・・・」
「瓦礫の塔のガストラ皇帝を倒しに行きましょう!」

意気込む皆さんと強く頷き合います。
まずは他の皆さんの行方を探す。
そしてガストラを倒してこの恐怖政治を終わらせる。
そうすればきっとその先には今よりもずっと平和な世界がある筈ですから。

「・・・・・・あ、あの鳥は?!」
「セリスさん?」

不意に視界の端を横切る鳥は・・・伝書鳥でしょうか?
遠目からは分かりにくいですが鮮やかな色の荷物のような物を持ってましたし。

「セッツァー!追って!」
「ん、どうした?」
「分からない・・・・・・けど、あの鳥の行く先に仲間が待っていそうで・・・」

不安そうな表情。
ですがその瞳には強い確信めいた何かを宿していて、セッツァーさんは一度頷きました。

「あっちは・・・マランダがある方か?
地形が変わりすぎて分かりにくいが、とにかく追うぜ」
「・・・っ!ありがとう、セッツァー!」

ぱっと顔を明るくさせるセリスさんに、セッツァーさんは不敵な笑みを向けるのでした。

「ではフェッカ、先行してあの鳥を追ってください。
貴方の機動力なら余裕でしょう?」

そんなジトッとした目線を向けないでくださいませんか?
やれやれとため息を吐くとフェッカは飛空艇よりも速く前方の鳥を追いかけました。

「アイツもの言うことは聞くよな」
「皆さんよりほんの少し付き合いが長いですからね。
ともかく、彼の羽色は目立ちますからこれで見失う事は無いでしょう」
『ま。見失っても俺が追えるけどなー』

彼とも繋がってますものね。
レオさんがほんの少し物言いたげなお顔をされていたのは・・まぁ、置いておかせてくださいね。
ええ。付き合いの長さで言えば勿論セリスさんやレオさんに敵う筈もありませんから。
フェッカに成ってからは・・・と言う事ですからね?一応。
にこりとレオさんに微笑めば1つ頷いて返してくださいます。
言葉にする事は出来ませんが、これでご理解いただけましたかね?

「あの町だな、着陸するぞ!」

セッツァーさんの言葉と同時に、緩やかに降下する飛空艇と近づく町。
セリスさんの勘が当たれば良いのですが・・・さて、どうなるでしょうか。



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